鳴瀬裕人の苦難
人生山あり谷ありとはよく言ったものである。
実際その通りだと思う。人生はそれくらいじゃないと面白くないしな。人生いろいろあるから楽しいってもんだろ。
なぜ高校二年のガキがそんなことを言える、とかそんなことを言われそうだけど、俺だって仕事をしている身。それくらいは少しは分かって来たんじゃないかと思っている。
でも過度な山と谷は嫌だ。登るのだって辛いし、降りるのだって疲れる。
登山家の人たちはエベレスト登りきったら嬉しいだろうさ。そりゃ当たり前だ。でも登って終わりじゃない。遠足だって「家に帰るまでが遠足」とよく言われただろう。登山も人生も同じで、降りるのは楽だと思われがちだがそんなことはない。降りるのは登るのと同じくらい辛いものだ。
今の俺の状況はそうだな、今は降りている状況かな。
生徒会入る前にもいろいろあったし、生徒会の為に人数集めとかもした。それなりに辛い日々でもあったが、楽しい日々でもあった。
でも、これからはもっと辛くなる気がする。でも、それも山と谷みたいなものだ。もっと辛くなる。だけど辛くなる分、それと同じくらい楽しくもなるはずだ。まさに表裏一体ってな。
「そんな感じで頑張るか!」
俺、鳴瀬裕人は気合十分という感じで朝からやる気に満ち溢れている。まぁそうでもしないと、ね?これから起こることに顔向けできないからな。
「んぅ、お兄ちゃんうるさいし......」
俺の妹である鳴瀬美亜は迷惑そうに顔を顰める。
「別にいいじゃないか。元気なのは良いことだろ?」
「んー、元気というかやけくそって感じもしなくもないけどね」
「......そ、しょんなこちょにゃいぞ?」
はい、思いっきり噛みました。バレバレで焦りましたよ、ええ。
——そりゃヤケクソにもなるってもんだろ。
俺が生徒会に入る。というか入った。先日行われた指名会で俺、美亜、天ヶ瀬そして櫻川は会長に指名された。
どうだろうか。この説明で分かるだろう? これから起こることが。俺がやけくそになる理由が。
「まぁ、お大事に」
「......心配くらいしてくれていいだろうに」
相変わらず俺の妹は俺に素っ気ない。
「そうだ、お前。生徒会役員にもなったんだし、仕事があるからとか言って学校休むのは禁止な」
「なんでさ。鳴瀬家を支えているのは大体わたしなのに」
「そういう問題じゃない。学生だってお前の仕事なんだぞ?」
「......」
「......はぁ、トマト増やすから」
「わかった、行く」
相変わらずトマトが絡むとすさまじいな。主にトマトに対する愛が。
そんな日常会話をしながら鳴瀬兄妹は学園へと向かうのだ。
美亜と別れ、自分の教室へと向かう途中で俺の親友である、向井雅也と斎間響谷に会う。
「よっ、おはよう」
「鳴瀬か、おはよう」
「......ああ、おはよう......」
「サイ、どうしたんだ?」
「......」
サイの様子がなんだかおかしい。ただ時折俺を睨みつけてきているようにも思えた。
——まさか、もうこいつらその気に......? まずいな。俺の予想だと昼休みくらいからだと思ってたんだが......。
教室に着くまでサイに少し話しかけたりして様子を窺っていたが、これは当たりだと確信した。だが、そうだとすると俺に待っているのはアレか。
「鳴瀬ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「裕人ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「覚悟ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
警戒しつつ教室の扉を開けると、俺に向かってくる男が三人。
その男たちの攻撃をかわしつつ男三人の顔を確認する。
「「許さんぞ、鳴瀬!」」
「田中!? 遠藤!?」
「俺もいるぞ鳴瀬!」
「んな!? って誰だお前!!??」
殴りかかってきた二人の男は分かったが、あと一人は分からない。マジで誰だ、こいつ。
「忘れたのかよ! 中学で同じクラスだった吉原だよ!」
「よしはら......? ああ、いたようないなかったような」
「ぐぬぬぬぬ、貴様、重罪を犯した上に俺の名前を忘れているとは......断じて許せん! 血祭りにあげてやる!」
吉原がそう言った瞬間、それまではガラにもなく大人しく読書をしていた教室の中の男子全員が一斉に席から立ち上がる。
「お前ら......やっぱりか......!」
「お前がいけないんだぜぇ、裕人ぉ」
「サイ!? やっぱりお前の仕業か!」
俺を囲んだ男たちの後ろからサイが姿を現した。というか何なんだよこいつらのチームワーク。インターハイ行けるんじゃないか? ってくらいに洗練されたチームワークだ。
「サイ、田中、遠藤、吉原、それにみんな。そんなにっ、そんなに......!」
「俺が生徒会役員に指名されたことがムカつくのかよ!!」
「「「当たり前だ!!!」」」
そう、こいつらがこんなに怒っているのは俺が生徒会役員に指名されたからである。だから嫌だったの。朝からヤケクソにもなってたの。こいつらの相手がめんどくさいから。
「裕人、お前なんかがあの会長と......いや、なんでお前なんかが学園三大美少女の全員に囲まれてんだよ!!」
「待て、美亜もいるだろ」
「美亜ちゃんは可愛くても妹だからノーカンだ! だが美亜ちゃんも含めたとして、お前の周りはなんなんだよ! ハーレムか? 楽園か? ふざけんなよぉ!!」
サイがそう叫ぶと「そうだぞ鳴瀬! ふざけるな!」「一人譲ってくれ!」など、俺に対する怒りや嫉妬の声が上がった。
「そんなこと言われても......会長に入ってくれって頼まれて、人集めしてたらああなっただけで......」
「人集めって、お前が会長とお前以外のメンツを集めたのか?」
サイが俺にそう聞いてくる。
「いや、俺が声を掛けたのは美亜と天ヶ瀬だけで、櫻川は会長が声を掛けたんだ」
「お前、学園三大美少女全員とパイプを持っていたなんて......」
サイはがっくりとうなだれて、田中と遠藤になにやらコソコソと耳打ちをし始めた。
そして、その耳打ちが終わり、
「すまなかったな裕人、俺たちの負けだ」
「いや、別に勝負してるつもりなかったんだけど」
「だがな、裕人。お前に粛清だけはさせてもらうぜ、つかさせろ」
サイがそう言うと、田中と遠藤がある男を連れてきた。
——あっ!あの男は?!
田中と遠藤が連れてきた男は以前、俺が会長とのことを聞かれたときに俺が集団で袋たたきにされた後に俺の尻を見て「いい尻してんじゃねぇか鳴瀬」って言ったと思われる奴だった。
「な、や、やめろ......」
そう言って後ずさろうとしていた俺の腕を、俺を囲んでいたクラスメイトの内の二人が押さえる。
「Holiday、Holiday、Holiday......」
「やめろ、来るな! ホリデイって言うな! 休日って意味だぞ!?」
「Holiday、Holiday、Holiday、Holiday......!」
「あっ、やめっ、あぁぁっぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
その時されたことは覚えていない。というか、頑張って覚えないようにしていたって言った方が正しいだろう。
「っていうことがあったんですよ......」
「それは大変だったねぇ......」
まだ会長と俺しか来ていない生徒会室で俺の身に起こった悲劇の話をしていた。
「でも、裕人君の今の状況、確かに漫画の主人公みたいだね」
「そ、そうですかね......?」
「話を聞いた限りだと私は確かにって思ったよ?」
「まぁ、こうゆう日常で起こったりしたことも漫画に加えていきたいですよね」
「ふふっ、裕人君、私たちの作品は普通の学園ものなんだからそういうのは、すでにいっぱい書かれてると思うよ」
「えぇ? どっちかって言うと『トラブルトライアングル』はエッチな学園ものじゃないですか? だからたまにはラッキースケベとかも起こらない普通の日常回も書いてみようかと思ったんですけど」
「その回の読者アンケートだけ今までよりも低かったりしてね」
「会長! そんな縁起でもないことは言わないでくださいよ!」
「ふふっごめんね? 裕人君」
二人だけしかいない生徒会室。そこで俺たちは『ぷちトマト』と『ゆずちゃん』として話をしていた。これからの俺たちの未来について語り合ってた、と言えば響きは恋人みたいだな。
だが、これから人が来るであろう生徒会室でこんな話をするべきじゃなかった。
でも、もう遅かった。
「比奈乃先輩、今の話はどういう......?」
生徒会室の扉の前で話を聞いていたのか、そこには驚いた顔で会長を見つめる櫻川の姿があった。
——し、知られてしまった!!!
俺と会長が漫画を書いているという二人の秘密。それが櫻川に知られてしまったのだ。
更新期間がまぁまぁ空いてしまったハイ欲です!今回からChapter2ということで鳴瀬家の朝から書いてみました!まぁシャーリィに漫画家ということがばれてしまったわけですが、次回はそこら辺の話を書いていこうと考えています。
ついでにですが、現在とハイ欲一話のころの文章の上手さ?みたいなのにギャップがあるとある方に言われたので、暇が出来ればハイ欲一話から全部に少し手を加えたリメイク版みたいなのに編集するかもしれません。内容は変わらないので大丈夫です!
次回のハイ欲もよろしくお願いします!!




