第5話
ロボットの追撃から逃れるべく、2人は右へ左へと直角コーナーを曲がって逃げ続ける。
光を辿って逃げて行くハリドとローザだが、後ろのロボットもかなりしつこい。
このままではいずれ追い付かれてしまう……と2人が諦めの感情を抱いたその時、唐突にこのチェイスシーンの幕が下ろされる。
と言っても、良い方の意味で幕が下ろされた訳では無かったのだ。
「……げぇっ!?」
「い、行き止まりだよ!」
光に従って逃げ続けた結果、何とエレベーターホールの前に出てしまった。勿論、1階から自分達が乗って来たエレベーターの前では無い。
全く別の場所にあるエレベーターホールだった。
「くっそぉ!!」
ハリドは2つあるエレベーターの横についているボタンをそれぞれ半ば半狂乱状態でバンバンと押してみるが、どちらのエレベーターもやって来そうな雰囲気は無かった。
むしろやって来たのは……。
「来たよ!!」
ローザのその声にハリドが後ろを振り向けば、ついにロボットが自分達を追い詰めてしまった事が分かった。
「……」
ハリドはその光景を見て、ゆっくりとロボットの方に向き直る。勿論ローザもだ。
だが、ロボットにはさっきと違う部分がある。
そのロボットの周りには、小型のロボットが2~3体うごめいている。大きさは小型犬位だろうか。
どうやらこのロボットは、侵入者対策の警備用に造られた物じゃ無いかとハリドは推測した。
(デカブツを取り巻くあの小さいのは、おおかた警備のサポート役のロボットって所か?)
だが周りを見渡してみても、あいにくハリドが使える武器になりそうな物が見当たらなかった。
(くそ、素手であのでかいのに対抗するのは無理だぜ!!)
ローザの魔法を含め、今のハリドには魔法の類いが一切効かないと言ってもそれはそれ。ロボットの突進攻撃を始めとして、下のホールで戦ったあの集団の武器による攻撃は普通に効果がある。
世の中、自分に都合の良い事ばかりでは無いのだ。
その様子を横でロボットと交互に見ていたローザは、ハリドの顔色が悪い事に気がついて声をかける。
「……どうしたの?」
「あのデカブツに立ち向かうのは俺じゃあ無理だぜ。小さいのなら何とか出来ると思うけどよ」
「あ、そうか……貴方は確か武器が一切持てないんだよね。だったらここはぼくがやってみるよ」
「感謝するぜ。小さいのは俺でも行けると思うから、俺が小さいのを別の場所に引き付ける。デカブツは任せるぞ!!」
「了解!!」
役割分担も決定し、まるでこちらの様子を窺うかの様に突進を止めていたロボットに2人は歩き出す。
その動きに反応したのか、ロボットも再び背中のブースターを起動させ始めた。
「さぁ、始めようか!!」
バトルモードになると性格が変わってしまうタイプのローザは、威勢の良い声と共にさっきのシャッターの時から魔法で出しっ放しの双剣を構える。
ハリドはハリドで、小型のサポートロボット達にそれぞれパンチやキックで攻撃を1発ずつ入れる。その攻撃で自分にターゲットが向いたのを確認してから、元来た通路を逆に走り始めてハリドは一旦この場から退却した。
そのハリドの背中を視界に捉えつつ、ローザは突進して来たロボットの巨体をエレベーターホールのスペースを目一杯使って転がって回避する。
(まぁまぁのスピードだけど、まだまだだね!!)
心の中で評価が出来る位の余裕があるが、次の瞬間その余裕が油断だった事をローザは思い知る。
背中のブースターの横に設置されている砲身の様な場所がパカッと開いたかと思うと、その中から空気を切り裂いて何とミサイルが発射された。
「なっ!?」
ミサイルを見たローザは物凄い危機感を覚えて、とっさの判断で横の壁を蹴って宙返りをしてミサイルのホーミングから逃れた。
(はぁ、はぁ……あんなのってあり!?)
相手がそんな武器を持っているのだから仕方が無いとは言え、ローザは思わず悪態をつく。
しかし、ミサイルを魔法でブロック出来る確信があるかと聞かれれば答えは「NO」だ。
(なら、やられる前にやるだけだね!!)
自分の双剣術のモットーでもある「攻撃は最大の防御である」と言われる位の手数の多さが特徴の双剣を使って一気に畳み掛ける戦法を取った。
まずはロボットの突進を避けて、そこからまずはロボットの脚目掛けて右手のショートソードを振るう。
だが、これは高い音をカーンと立てて弾かれてしまう。
(ちっ、普通の斬り付けじゃ無理か!)
舌打ちしたローザはバックステップで距離を取り、再度撃ち出されたミサイルを床を転がって回避しつつ、両手のショートソードに自分の有り余る魔力を込める。
(それなら、これはどうかな!?)
ミサイルを回避したその低い体勢そのままに、これでダメだったらその時はまた別の方法を考えなければいけないと思いながらローザは先程の斬り付けよりも更にパワーが出る回転斬りのモーションに入る。
つまり、その回転する動きで魔法のパワーにプラスした、全力の斬り付けをロボットの脚に繰り出した。