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層の継ぎ目

城下町の灯りが遠くに揺れている。


帝の城は、月を背負って黒く沈んでいた。


私は足を止めた。


「所出井殿?」


雅峰が振り返る。


「……少し、整理させてください」


「整理?」


「ええ。自分が何と戦っているのか、まだ分かっていません」


私は石を握りしめた。


魔神。

僧。

魔王。

帝。

ロバート。


全部が繋がっているはずなのに、どこか噛み合っていない。


「拙者もだ」

雅峰は正直に言った。

「魔神を斬れば終わると思っていたが……どうも違うらしい」


私は空を見上げる。


月は普通の月だ。

文字は見えない。


だが、あの違和感は消えていない。


そのときだった。


足元の地面に、細い“線”が走った。


まるで板を繋ぎ合わせた継ぎ目のような線。


私はしゃがみ込む。


「……見えますか?」


「何も見えぬ」


やはりだ。


私は指でその線をなぞった。


すると、空気がかすかに震える。


――層。


この世界は一枚ではない。


重なっている。


私は呟く。


「魔神は……この層を守っているのかもしれない」


雅峰が首を傾げる。


「守る?」


「ええ。破れないように。崩れないように」


あの風の魔神。

あの幻術。


攻撃というより、干渉だった。


世界の安定を保つための“補正”のような。


背後で足音がした。


振り向くと、僧が立っていた。


月照寺の僧。


だが今回は、幻ではない。

確かな影がある。


「気付きましたね」


「……あなたは何をしているんですか」


僧は穏やかに言う。


「維持です」


「何の?」


「この世界の均衡」


雅峰が刀を抜く。


「ならば魔神は何だ」


僧は答えた。


「防壁です」


風が止む。


私は静かに言う。


「ロバートは?」


僧の視線が、ほんの少しだけ揺れた。


「彼は“層の継ぎ目”に触れてしまった」


私は息を呑む。


「継ぎ目?」


「この世界は完全ではありません。継ぎ足された世界です。何度も修復され、繋ぎ合わされている」


継ぎ足し。


修復。


……だから継ぎ目が見える。


「彼は偶然そこを“読んだ”。だから封じられた」


雅峰が低く問う。


「帝の命か」


僧は肯定も否定もしない。


だが、沈黙が答えだった。


「私は壊す気はありません」


私は立ち上がる。


「壊せるとも思っていない」


僧は私を見る。


「では?」


「直すだけです」


言葉にした瞬間、自分の中で何かが定まった。


魔神を全部倒す?

帝を討つ?


違う。


私はエンジニアだ。


世界が継ぎ足しで歪んでいるなら、

歪みを調整する。


僧は小さく笑った。


「それが出来ると?」


「分かりません」


私は正直に言った。


「でも、ロバートを眠らせたままの均衡なら、そんな均衡はいらない」


雅峰が隣に立つ。


「拙者も同じだ。均衡よりも、人だ」


僧は静かに目を閉じた。


「帝はあなたを止めるでしょう」


「でしょうね」


「魔神も動く」


「分かってます」


僧は最後にこう言った。


「それでも進みますか」


私は石を握り直す。


継ぎ目が、かすかに光る。


「ええ。今度は踊らされません」


僧は背を向ける。


「では、城へ」


風が吹く。


僧の姿は消えていた。


雅峰がぽつりと呟く。


「所出井殿」


「はい」


「難しい話は分からぬが……今回は迷っておらぬな」


私は少しだけ笑った。


「ええ。ようやく、戦う理由が一本になりました」


魔神討伐ではない。


帝打倒でもない。


“修復”


ロバートを取り戻すために。


そして、この世界の継ぎ目を正すために。


私は城を見上げた。


あの中に答えがある。


今度こそ、物語を自分の手に取り戻す。

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