斧
人里離れた森の奥で、一人の木こりが木を切っている。木こりが木に向かい、何度目かの斧を振った時だった。手元が狂い、斧は木こりの手を抜けて、ポチャリと近くの池に落ちた。
「しまった、大事な斧が!!」
斧がゆっくりと池に沈んでいく様を、どうする事も出来ない木こりが呆然と見つめていると、突然水面に美しい女神が現れ、三本の斧を見せて言った。
「木こりよ、あなたが落としたのは普通の斧ですか? それとも金の斧? 銀の斧?」
女神の問いに、木こりは答えた。
「私が落としたのは普通の斧です」
「正直な木こりよ、褒美にこの金と銀の斧を差し上げます」
正直な木こりに女神は優しく微笑み、手にした金と銀の斧を渡そうとするが、木こりはあわてて否定する。
「そんな、とんでもない!! 私が落としたのは普通の斧です!! 金と銀の斧なんて頂けません!!」
「なんと欲のない木こり。気に入りました。あなたのような者にこそ、金と銀の斧は相応しい」
「いえ、相応しくありません!! 私は普通の斧で良いのです!! 早く私の斧を返してください!!」
木こりの必死の申し出に構わず、女神は金と銀の斧を木こりの足元に置くと、満足した様子で姿を消した。
「待ってくれ、金と銀の斧なんかいらない!! 私の斧を返してくれ!!」
金や銀の価値など遠く及ばない、宇宙の特殊鉱物で加工された斧を失った木こりは、恨めしく池を見た。