09.面接官って結構楽しい
「新しい仲間が欲しい」
「何を突然言い出すのよ・・・?」
今俺達は、エイジットにいる。エイジットは割りと大きな町で様々なお店が揃っており、旅の備品をそろえるには好都合ということでしばらくこの町に留まることにした。
とは言っても俺もアンリも城で暮らしていただけあって、それなりに装備はそろっている。買うものは主に野宿用の装備や食料くらいだ。
その買い物中に、まるで装備のような感覚で俺が新しい仲間が欲しいなんて言うから、流石にアンリも驚いたようだ。
「思い出してくれ。あのゴブリンとの戦いを。俺は何度も死に掛け、アンリは何度も俺に回復魔法をかけ続けた。それはあまりにもむなしいというか、俺がただひたすらに痛いだけだ。これからもあんな戦いが続くと思うと光太郎のことなどどうでもよくなって城に帰りたくなってしまう」
「さらっとお兄さんとしては最低なことを言っているけど、あながち間違いではないわね。私のマナも無尽蔵なわけじゃないし・・・」
「そこでだ。ここの酒場で募集をかけて俺を守る盾、いわゆるタンク職を仲間にしようってわけだ」
「確かにタンク職がいるだけで私もかなり楽になるわね。いっちょ探しちゃいますか!」
そうと決まれば善は急げだ。俺達は冒険者が集う酒場に向かうことにした。
酒場についた俺達は、タンク職の冒険者全員に声を掛けた。
勇者を引き連れ四天王を倒しに行くとなれば自分の冒険者としての格や知名度も上がるだろうと考えたのだろうか、真昼間にもかかわらずかなりの人が集ったが、問題が一つ。うーむ、視界一杯に野郎だらけで恐ろしいほどむさ苦しい。
野郎を仲間にするのは気が進まないが、もう痛い思いはしたくないしな。背に腹はかえられない。この中で一番強い奴を仲間にすれば、今後の俺の冒険も安泰だ。
「えー、では第一回、英雄を守るのは俺だ!最強の盾決定戦を始めます」
「「「うおおおおおおお」」」」」
酒場に野郎共の声が響く。
こいつらノリノリだな。こういうノリ嫌いじゃないよ!
「今回の目的は私こと世界の英雄、陽介君を敵の攻撃から命を懸けて守る。そんなタフガイ見つけることにあります。ということでまず耐久力があるかどうかを判断したいと思います」
「「「うおおおおおおお!」」」
「ここにレベル80の勇者がおります。」
「「「うおおおおおおお!!」」」
「まずはこいつの攻撃を耐え切ってください」
「「「・・・えっ?」」」
「光太郎、その場で全力素振りパンチだ」
命令を下すと光太郎は雄叫びを上げその場で拳を振るう。目にも留まらぬ速度で打たれた拳は空を切る。しかしほんの少し遅れて拳の風圧がタンク職の連中に襲い掛かる。
「「うわあああああああ!!!」」
酒場の机や椅子もろとも連中の大半は壁に叩きつけられる。酒場のマスターが殺すような目で俺を見ているが怖いのでみなかったことにする。
光太郎は人間に直接攻撃はしない。が、このように命令を工夫すれば、間接的にだが人間にもダメージは当たれられるようだ。ぶっちゃけこの茶番はこれを試して見たかっただけである。
「才能眼鏡で一人ひとり見ればいいだけじゃ・・・」
事情を知らないアンリは呆れたように言うが、実際才能眼鏡で一人ひとり見るのもめんどうだしね。仕方ないよね。
さて、光太郎の素振りパンチを耐えた人数は・・・3人か。随分減ったが、冒険者程度じゃこんなもんだろう。そんじゃあ順に才能眼鏡を使って面接していくかな。
「じゃあ残った人、お名前と職業をおねがいします」
「おう、俺の名前はフランク。職業は戦士だ!攻撃も防御もこなせるナイスガイだぜ!?」
「はい、ありがとうございます」
なんか暑苦しい奴だな。才能眼鏡で見て見よう。レベルは35、最大レベルは40か そこそこだな。スキルは・・・確かに近接攻撃系と近接防御系がある。ふむ・・・地味だな。30点。次!
「お名前と職業をお願いします。」
「はい、私、名を断衝陣のクラトスと申します。職はシールダーです」
「はい、ありがとうございます。クラトスさん、その断衝陣とはなんですか?」
「断衝陣とは私が名乗っている二つ名です。すべての衝撃を断つ私のスキルに基づき名乗らさせていただいております。」
自分で名乗ってるっておまえ・・・。
「お名前と職業をお願いします」
「ああ、フレンドラス・バリ・アンジュワーヌだ。職業はテンプレナイト」
「はい。ありがとうございます。フラ・・・フレ・・・ンドレス・バリ・アンジョリーヌさん?はテンプレナイトということですが、職業がテンプレナイトというだけで実際に王国騎士というわけではということでしょうか?」
「ああ」
「なるほど。ありがとうございます。」
レベルは・・・おぉ!50もあるじゃないか。才能限界は・・・50。あーこれ以上伸びないのか・・・。スキルは近接防御から魔法防御まで防御系が豊富に揃っているな。・・・けど名前が覚え辛いなぁ。・・・31点。
うーん。
ただでさえ野郎ってだけでマイナスなのに、無駄に個性的というか、なんというか。俺やアンリよりはよっぽど強いが、一緒に冒険したくないタイプだ。アンリの意見も聞いて見よう。
「アンリは誰が良いと思う?」
「わ、私?私に聞くなら才能眼鏡貸してくれればいいのに・・・。うーん。クラトスさん・・・かな?物腰も柔らかそうだし、連携もうまく取れそう」
なに言ってるんだこいつ。自分で二つ名名乗っちゃう奴が正気なわけないだろ。
アンリは当てにならないし、やはり自分で考えるか・・・
「あのー」
やっぱり能力的にフランダラス・バリ・アンジョリーヌかなぁ。
「あのー!」
なんださっきから。俺は声がする方へ顔を向ける。
「面接まだされていないんですけど・・・」
そこには小さな体、銀色の髪、くりっとした目、耳が隠れる程のショートヘアーという、控えめに言って天使のような美少女が俺を見上げていた。