08.盗みは良くないよね、これは俺が預かるぜ!
ゴブリンの集落についた俺達。
その目の前には数十人の土下座をしたゴブリン共。
えーなにこれ。どうなっているんだ。
なにやらゴブリン共はウガウガ言っているが、さっぱり言葉が分からない。魔物にも人族の言葉を話せる奴と話せない奴がいるんだなー。とりあえず身振り手振りでコミュニケーションをとってみるか。
ウガ・・・ウガ・・・
ウガ・・・ウガ・・・
圧倒的閃きっ・・・!
「よし。なんとなく分かった。これ以上抵抗しないから許してくれ。そういうことだな」
「土下座してる時点でそれは分かるんじゃ・・・」
コミュニケーションの重要さを分かっていないアンリが何か言っているが無視だ。
ゴブリン達はこれで勘弁してくれといわんばかりに、村から奪ったであろう金目のものと食料を差し出してくる。
俺はそれをそっと受け取りカバンに詰める。
「ちょっとちょっと、何素直に受け取っちゃってるの!?」
アンリは慌てて俺を止めに入る。
「ほぉ、アンリさんは降伏している相手を一方的にぶちのめし、その後で金品を奪えばいいじゃないかと、そう申しておられるのですか!?」
「そうは言ってないでしょ!けど、うーん・・・」
「こいつらは痛い目にあわなくてすむ。俺達は報酬が増える。お互いWin-Winじゃあないか!」
「たしかに降伏している相手にこれ以上のことはできない・・・わね・・・うん」
「そんじゃこれをカバンに詰めておいてくれ。俺は杖探してくるから」
うん。とアンリは素直にカバンに金品を詰めはじめた。
俺は周りを見渡し、杖を持っているゴブリンを探す。
うーん、いない。そもそもゴブリンの長は常に杖を持っているものなのか?いや杖を持っている奴がゴブリンの長なのか?・・・いかんこんなどうでもいいこと考えてないでさっさと探さないと。
ん?ゴブリンの中に一人だけ長い髭の生えた仙人みたいなのがいるな。きっとこいつだろ。髭長いし。
「そこの髭の生えたゴブリン・・・って言っても伝わらないな」
俺は光太郎を横に連れながら髭のゴブリンに近づき、「杖、よこせ」と身振り手振りで説明する。髭のゴブリンは理解したような表情をすると集落の奥にある建物を指差した。どうやらあれがこいつの家で、あそこに杖は置いてあるらしい。
俺は髭のゴブリンの後をついていき家に入る。
家の中は物であふれていた。汚え!豚小屋かな?ゴブリンだけに。目的の杖は、壁に掛けられているのがそうなんだろう。髭のゴブリンは、台の上に乗りそれを取り外そうとしている。
この隙になんか面白そうなものないかなーと俺は周りを見渡した。すると、散らかった部屋には似つかわしくない赤い液体が入っている装飾が施された瓶を見つけた。ゴブリンが薬を作るとも思えないし、きっとこれも町から盗んで来たんだろう。なんか価値ありそうだし、効果も分からないような魔物風情が使うには惜しい薬に違いない。これは俺が成分を調べて有効に使わせて頂くことにしよう。
俺はゴブリンがこちらを見ていないことを確認し、その瓶を懐にしまう。よしよし気づかれていないぞ。
髭のゴブリンは杖を取り外すと俺の方に寄ってきて杖を差し出す。俺は杖を受け取り、家の外にいるアンリと合流し、町へと帰ることにした。
町に戻ってきたときにはもう夜になっていた。俺達はクエストの完了報告をして宿屋に向かう。
「い、いいのかな・・・ゴブリンからもらったもの、村に返さなくて・・・」
アンリは心配そうに呟く。
「いいんだよ。クエストの内容は奪われた金品の奪還ではなく討伐。杖もしっかり渡したし」
金品に関してはこの町で換金すると何か言われそうなので次の町で換金だ。おそらく30ゴールドにはなるだろう。報酬と金品をアンリと分けて俺の取り分は25ゴールド。うふふ。これで懐がだいぶ潤うぞ!
案外このままクエスト専門の冒険者にでもなれば楽して生きて行けるかもしれないな。・・・なんだ光太郎。お兄ちゃんをそんな目で見るな!なんでアンデットなのにそんな悲しい顔してるんだよ!冗談だよ!!
にしても、この町に薬屋はなかったな。てっきりこの町に薬屋があってそこからゴブリン達が盗んだものだと思ってったのに。そもそもこれって薬なのか?ま、いいか。冒険を進めていけば薬屋くらいあるだろうし、価値があれば売って酒代にでもしよう。
宿屋にさっさと入り、アンリと明日の予定について話す。流石に疲れたなー、城から出てまだ二日だけど、運動不足の俺にはキツい旅路だった・・・。
「次の町、<エイジット>はそう遠くないわ。明日の朝に出れば夕方までには到着できると思う」
「よし。では昼に出発して夜に町に着こう。ではおやすみ」
俺はそそくさと自分の宿部屋に戻る。後ろからアンリの文句が聞こえてきたが、今日は何度も死に掛けたんだ。ゆっくり寝させてもらうぜ!
ベットに潜り込んだ俺はアンデットのように眠りについた。まあアンデットは寝ないんだけどね。