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原子操作。
これさえあれば勝つる!俺にもそう思っていた時期がありました。
いやね、できたんですよ。操作。おそらく。
消臭の時みたくポカポカが来たあと、すーって感じで力使った感覚はあるのですよ。
でもね、何も起こらないの。そよ風ひとつ起こらないし熱も感じない。水素や酸素も知覚できない。
でもなんか操作してる。
正直なめてました。
確かに、熱核融合のあらましは知ってる。太陽が燃えてる理由だって知ってる。でもね、高められないの、質量。いっぱい集めて高圧にー!ってしてもダメなの。太陽は自分の重力でやってるし、原子力発電所の核融合炉は高温高圧状態を生み出して核分裂してる。
そこまでいかなくても、分子の活動を抑えれば固体化するだろうし、活発にすれば燃焼が起こる。水素をヘリウムにするのなんて、タンポポを刺身に乗せるより簡単。そう思ってた。
できねーーーーーーーーーーーー!
どうやってもできねえ!何の反応も示さねえ!現代科学、敗北!
思い付いてからはや2ヵ月。ここまで成果なしだと流石に気長で有名な憲和君でも参った。どうしようもないわ。というか、どうにかする知識がないわ。
誰だよ、石ころ転がすより簡単っつったのは。俺だけど。素直に錬金術を一からやってた方がはえーじゃん。いや早いかどうかは知らんけども。
力込めて操作しようとしてウンウン唸ってイキってたら、孤児の年上後輩ちゃん達が何度もウンチ見に来たじゃん!
そう、追加してショックなのが、消臭ができなくなった事だ。まずい、このままじゃ毎日暴行の日々がはじまってまう。
これは焦った。マジ焦ってウンウンと考えた。容量は余裕なのに一体どうしたんだ?あ、年上後輩ちゃんごめんね。今日はまだよ。
それで1つの仮説を立てた。消臭の原理だ。
現代では、臭いを発する物質を変質させるか包みこむか、分解するかで行っている。つまり、臭う化合物をどうにかしているわけだ。
俺は原子操作を覚えた。現代科学風に。しかし先に覚えていた消臭はそんな事全く考慮しないで、原理とか考えもせずにファンタジー脳でやっていた。
結論。後から覚えた原子操作の原理で消臭しないといけないようになったんじゃないか。
サッと血の気が引いた。あかん、このままだと殴られて死ぬ。
ダメだ、現代科学脳じゃ魔法使えない!そもそもの前提を間違えていた。ここはファンタジー世界だ。けも耳エルフ耳の異世界だ。忘れろ!いったん忘れろ!これからはファンタジー脳で思考するのだ!!!
それから必死になって原子操作を忘れようとした。「忘れろー。忘れろー。」と、今にも怪談ができそうなくらいに念じた。
5日ほど必死の努力の甲斐もなく何の変化もないままだった。完全にイキりまくっている俺に年上後輩ちゃん達も見てるだけでくたびれてそうだった。1回蹴られた…。いてえよ、こっちも必死なんだよ…。
「おっきな魔法を覚えたら、前の魔法は使えなくなるの」
そうだよね、ホユ姉ちゃん。上書きは習得よりも時間がかかるという事だから避けてたけど、それしかないよね。
5日頑張っても忘却は不可能だった。となれば逆説的に、忘れるためには新しいものを覚えなくちゃいけないって事なのかもしれないな。
こうなったら今まで探っていた中で容量がちょうどいいものを習得しよう。
浮遊。
正確にはゆっくりな移動はできそうだったから飛行のできそこないと言った方が良いかもしれない。
重力を操作してどうのとかは一切考えないようにする。もう俺は科学の申し子じゃないんや…純ファンタジーな魔法使いになるんや。
科学チートは原理も知らずに行えるものではない(教訓)。