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異世界転生も甘くない  作者: 三枚おろされ
幼年期も甘くない。
4/7

4

「おや、起きたようだねえ。」


 意識が戻っても抜けない虚脱感の中、ハスキーな中年女性の声が上からそそいだ。なんか疲れていて目も開けられない。


「だいぶ弱っちまってるようだが…。」


 そういって俺の口に濡れた布の感触が押し付けられる。あ、水分嬉しい。コクコク、チューチューと布に含まれた水分を吸いだす。


「こんだけ飲めりゃ生きそうだね。…おーい、誰かいないのかい!?こいつ生き延びそうだからタルマの旦那に知らせてきておくれ。」


 あいよー、という返事が聞こえてきた。ああ、生き返るー。五臓六腑に染み渡るとはまさしくこの事だね。と、ちょっとした幸福感にしみじみと浸っていたら、ふいに布を取り上げられた。ちょっ、もうちょっと吸わせて欲しい。思わず声を出す。


「あーうー。」


「…え!?い、今、し、しゃべったのかい!?まだ欲しいって…。」


 あ、やべ。神様が意思が伝わるって言ってたな。赤ちゃんがしゃべったら気味悪がられるよな。落ち着け、何も意味ない声を出そう。すいません、何でもないんです。


「あーうー。」


「…気のせいかね。聞こえてきたと思ったんだが。悪いがお前にあげる山羊乳(ミルク)はもうないよ。タルマの奴にもらうんだね。って、赤ん坊に何言ってんだか。」


 ふう。なんとかごまかせたようだ。ほっとしたらまた眠くなってきた。さーらーばー。










「そうじゃねえって言ってんだろうが!」


 ズシャシャシャーン!という派手な音と怒声で目が覚める。いきなり物々しいな。幼児らしき声のうめき声が静かになった辺りに響く。一体何事だ!?


「ちっ、とっとと覚えやがれってんだ。おい、消臭魔法(デオドライズ)覚えるまで飯も水もやらねえからな!」


 がなり声を出した男はそう言うと、ドタドタと足音を立てながら遠ざかっていった。

 魔法キター!…って。す、スパルタだなあおい。幼児らしき人はずっと苦しそうにうめいている。幼児が泣かずにうめくって、かなりヤバい状態じゃね?魔法が使えなかったら殴られるの?確認したいけど、仰向けにされて首もうまく動かせない。見えるのは知らない天井だけ。って、テンプレにちょっと感動。


 とりあえず誰か呼んだ方がいいよね?あの殴った奴に来られると俺もまずい気もするが…。ええい、ままよ!


「おぎゃーーー!」


 しばらく泣き続けてみると、パタパタと足音が聞こえてくる。良かった、アイツじゃない軽い感じだ。


「ちょっと待ってね、山羊乳(ミルク)あげるから…ああ、またなの。」


 声からして10代前半の若い女の子がため息を吐きながら移動する。薄暗い部屋に淡く優しい光が広がり、しばらくすると幼児の声が落ち着いてきた。良かった良かった。回復魔法を使ったのだろうか?にしても詠唱とかなかったな。効果は一瞬じゃなかったようだが、無詠唱なのはよっぽどの使い手か、それが普通なのかだろうな。


「うう…。あ…りがと、ホユ姉ちゃん。」


「どういたしまして。魔法のコツはまた教えるから、とりあえずこの山羊乳を飲みな。あの赤ちゃんにあげるやつだから半分残してね。」


「うん…ありがと。」


「タルマには黙ってるんだからね。絶対言っちゃダメ。」


 魔法のコツ!ぜひともこの部屋でお願いします!ヤバい奴もいるけど優しい子もいるようで少しホッとした。てか、早く乳ください!いい加減泣き続けるのも疲れてきて…あ、また意識が…。

 こ、ここは我慢だ!乳を吸うんだ!


 眠気を泣くことでこらえていたら、何とか乳にありつけた。はふー、生き返るわー。


 そこでやっと女の子の顔を見ることができた。うん、知らない人種です。間違いなく地球人じゃない。

 顔つきは白人ほど()りは深くないし、アジア系ほどのっぺりともしていない。肌は浅黒いというか、薄い灰茶(はいちゃ)色をしている。優しそうな目付きに茶色の瞳。ここまでは分かるが、なによりもその特長は…髪色だ。

 白桃ですよ!白桃!薄桃色よりも白に近いパールホワイトのような色!お世辞にも上等とは言えないみすぼらしい服からして脱色はしてないと思う。あと、耳はエルフ!というほど(とが)ってはいないがシュッとしている。

 来たんだなー、異世界に。やっと実感できたよ。じーん(感動)。


「あんたにも魔法教えてやりたいけど、そろそろ売られて連れて行かれそうだしね…。」


 チューチューと乳を含んだ布を吸っている俺を、もの悲し気に見つめる少女。大丈夫だよ、ホユ姉ちゃん。そこの幼児に教えている時に聞き耳立てとくから。

 にしても売られるか…衛兵っぽい人達が渡した所だから孤児院とばかり思っていたが、さっきの暴力オヤジといい、かなりきな臭いな。何も警戒されない赤ん坊のうちに情報を集められるといいんだが。聞き耳とか気配察知のスキルみたいなものも欲しい所だ。


「あんた美人だね。こんなに可愛い女の子を何で捨てるんだろうね。って、アタシもだけどさ。タルマといい親といい、大人はみんなクソだね。クソっ、死んじまえ!」


 えっ、…確かにホユ姉ちゃん、鼻筋通ってて将来美人になるだろうなーと思うよ。それに殴ったり捨てたり、確かに大人はクソだよね。って、いやいや!その前!



えっ……女?



えっ?

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