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目が覚めても景色は変わっていなかった。つまり、布をかぶせられたままだ。
ふう、昨日は大変だったな…。産道からの脱出があんなにつらいものだとは思わなかったわ。世の赤ちゃんたちはどうやって耐えてるのだろうか。いや、耐えられないから気絶してるんじゃないだろうか。あれは大の大人でも意識飛ぶほどだもんな。
ところで今の状況だが、どうやら堅くてゴツゴツした所に寝かされているようだ。生まれは伯爵でもなんでもないのは確定だ。貴族=魔法の素質があるというイメージがあるので残念ではあるが、そもそも魔法がある世界かどうかも分からない。魔法適性は神様の言っていた、「魂の強さ」とやらに期待するとしよう。
俺には魔法よりも現状把握よりも、何よりも先にしなくてはいけない事がある。
《ステータスオープン!》
ちっ、何も起きない。ステータスがないのか、念じるだけでは出ないのか、俺には分からないのか判断が付かない。言葉も「あうあう」以外に言えそうにもないしな。とりあえず片っ端から試してみるとしようか。
《メニュー!》
《ウィンドウ!》
《システム作動!》
《分析!》
《鑑定!》
……。
はあはあ。
何を試しても力んでみても、自分のステータスが出てこない。システムメッセージみたいな、将来並列思考的なスキルになりそうな無機質な声も聞こえてこない。という事はゲームの世界ではない可能性が高い。VRマシンは地球じゃ空想の産物でしかないし、大規模オンラインゲームはようやくダンジョンやNPCの自動生成システムが出てきたばかりだ。直前に読んでいた小説にはシステムさんがいたし、同じ念じ方でもダメだった。ようするに、この異世界の手がかりを俺はまったく持っていないということになる。
ステータス閲覧と鑑定、欲しかった。チート能力の基本だし、戦闘がある場合や金目の物を探す時などに非常に役に立つから。神様を脅かす存在がいる以上、能力バトル的なものは避けられそうにないし。
力んだせいか、何かすごい疲れた。お腹すいたし。お母さん近くにいるのかな?下ネタの意味じゃなくて、おっぱいが吸いたい。とりあえず泣いて呼んでみよう。
「おぎゃー!」
む、全然来る気配がないぞ。もうちょい呼び続けてみるか。
「おぎゃー!おぎゃー!おぎゃー!」
しばらく泣き続けていると、バタバタと複数の足跡が聞こえてきた。お父さんも一緒に来たのかな?足跡とともにガチャガチャと金属がぶつかる音も聞こえる。これは…鎧を着てるのか?もしかしてお父さんは騎士とか?でも最低でも二人はいるな。
「いたぞ、ここだ。」
「ああ。ったく、こんな所に捨てるとはな。」
「まったくだ。捨てるなら門の外にして欲しいぜ。」
「しょうがねえ。手続きしてタルマの旦那に渡すぞ。」
乱暴に持ち上げられる。え、俺、捨て子?かなりハードモードじゃね?
まあでも殺されることはなさそうで良かった。ただもう少し優しく扱ってね。
道中の話によると、近所のおばちゃんを呼んで門の前の詰所で一旦俺を預かるようだ。
こういう事はたまにあるらしいが、そんなに多くはないそうだ。俺、かなり不幸な部類の様です。
別にいいけどね。孤児院でもやりようはあるでしょう。なにせ魂の強い男なんだしな!っと、そろそろ泣くのやめよう。迷惑がられたら扱いが悪くなりそうだしね。
少し安心したら疲れがどっと押し寄せてきた。泣きつかれて何も考えられそうもない。赤ちゃんマジひ弱い。いや、分かっていた事だけど。
もうダメ、さーらーばー。
この段階までは全話で意識を手放すオチでいこうと思っていました。