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―――朦朧とした意識が徐々に浮かび上がる。
って、意識戻った?どういう事だ?って、体の感覚がない!?って、何だこれ。不思議過ぎる……って……まさか……。
「やあ、いらっしゃい。早速だけど、助けて。」
ってーーーー!!!!
異世界、キターーーーーー!!!!
体の感覚があれば間違いなく両手を握りしめて突き出していた。しゃべってすらないけど叫んでいた。
「いや、まだだけど。」
ですよねー!ここはまだその前段階ですよね!俺はマンホールに落ちて異世界に行くかと思いきや、死んで魂だけの存在になって、神様かその眷属みたいな立場の方に異世界に連れていってもらうんですよね!つまりは召喚じゃなくて転生ですよね!そしてこの思っていることは全て筒抜けなんですよね!
「今回の魂はやけに理解が早いね。」
それはもちろん、望んでましたから!受け入れるしか他に方法がありませんからね!ええ、異世界には行きますよ!ぜひともね!っと、ちょっと落ち着かないと。ひいひいふう。まずは条件を聞かないといけない。
それで、助けてとはどういうことですか?そもそも、あなたは神様という認識で合っていますか?
「ここまで活きが良いと逆に躊躇ってしまうな。うん、ボクは君の認識でいう神様でほぼ間違いない。助けてというのは、ボクを脅かす存在に君が対抗する力を得ることだ。」
なるほど、神様に対抗しうる存在が出てきて、それを排除することを約束するのが異世界へ行く条件なんですね。
「それは違う。君がこの世界に来るのは何も条件などないし、排除を約束しなくとも来てしまう。ただ、あいつに及ぶ力を付けて欲しいだけ。君はもうこの世界に足を踏み入れているのだし、意識が切り替わればこの世界に誕生するよ。」
ほうほう。
ん?何とも謙虚な要望ですね。さすがに神様を脅かす存在に匹敵する力というのは目標が高すぎますが、倒さなくても構わないのですよね。
「うん、それでボクの助けになるから。」
分かりました。異世界に行って何もしないとは思ってませんから、力を付けるように努力してみます。
それで、その、異世界に行くにあたって、具体的に何か便利な能力とかもらえると嬉しいのですが。例えば、その世界の言葉が分かるようになるとか、魔法を使えるようになるとか、何でも見える眼をくれるとか。
「ボクと意思を交わすことができるなら、この世界の何にでも意思を伝えることはできるはずだし、発された言葉は理解できるはずだよ。そもそも、君の魂というか、君がいた世界の人間という種の魂はボクがどうこうできるほど弱い存在ではない。」
そうですか!じゃあ何とかなりそうですね。転生だと言語はどうにかなりそうですしね!魔眼がないのは残念ですが。あと聞きたいことは……俺と同じような人はいますか?過去にはいましたか?
「いるよ。意思は交われなかったけど、まだ存在している魂が3つほど。同じくらいに4つ来て、1つは帰って行った。その前にも幾人か来たけど、全て帰ったよ。」
なるほど、内政チートは既になされている可能性はあると。いえ、独り言です!……それで、今まで帰った魂の中に神様と意思を交わすことができた人はいたんですよね?その人たちはどうなっ
「あいつに気付かれた。じゃあね。」
唐突に神様と交わしていた感覚がぷつりとなくなった。
あちゃー。
くう、全部聞けるわけはないか。ほとんどの「異世界もの」でそうだったもんな。話聞かずに行って何とかなるパターンが多かったけど。
とりあえず、召喚ではなく転生であること。言葉は理解できそうであること。他に転生者がいることが分かったのは重畳だ。
さっきは調子よく言ったが、神様の要請は緩いものだしそんなに重要視していない。一番は異世界ライフを楽しむ事だ!
そもそも、さっきの神様が良い奴なのかも分からなかったし、連れてきてくれた訳でもなさそうだから恩もない。なにより情報が不足しすぎている。最初から知りすぎてもつまらないだけだからいいんだけどね。
神様のお願いは頭の隅で埃をかぶってもらおう。
あとは、俺の意識がはっきりするのが産まれてすぐなのか、それとも学園に入学する時なのか、なにかしらショックを受けてからなのか分からないのが不安だな。魔法があるか不明だから、まだ学園シミュレーションの可能性も捨てきれないし。が、十中八九RPGに近いものだろう。いやきっとそうだ、そうであってくれ!恋愛ものは触ってないしフラグ回収は無理だ!
ともあれ、もう意識を保てそうもない。ようやく異世界生活を楽しめるのだ。細かい事は起きてから考えよう。
それではまた目覚める日まで!さーらーばー。
……。
………。
…………。
いっ、痛い!いたいいたいいたいいたい!!頭が割れるように痛い!なっ、目覚めてすぐに激痛パターンとか読んだことないぞ!
「――――!」
ひたすら痛い。声にならない声をあげる。というか、声を出せない。全身をきりきり締め付けるような感覚。特に頭がめちゃくちゃ痛い。
あ、これしゃべれないし赤ちゃんパターンだわ。てか、絶賛出産中だわ。身動きできない。目も開けていられない。赤ちゃんって痛み感じないんじゃなかったっけ!?すんごい痛いんですけど!
永遠にも感じるような激痛に朦朧としつつも、掴まれる感覚とともにようやく痛みから脱出できた。そうだ、ヤバい、呼吸せな。とりあえず叫ばねば。力をふりしぼって叫ぶ。
「おぎゃーーー!おぎゃーーー!」
息が続かないが、何とか呼吸できた。しかし目が開かない。頑張ってまぶたを意識するんだ。よし、少し見えた!
暗いがまだ日は落ちてないようだ。うっすらと見えてきたのはどうやらいつの間にか巻かれていた布らしきもの。そこからわずかに光がこぼれている。
持ち上げているのがお母さんか。どんな人なのか確認したい。お母さんを見れば自分の今の容姿が何となく想像付きそうだし。
そう考えながらも泣かずにはおれない。転生したとはいえ赤ちゃんの業からは抜け出せないのか。しばらく上下に揺らされ、それがとても心地よく感じてきた。ああ、俺、産まれたんだなー。
「ごめんね……。」
微睡みの中、そんな女性の声が聞こえたような気がしたが、抗えない眠気に引き込まれて俺は意識を手放した。