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異世界転生も甘くない  作者: 三枚おろされ
幼年期も甘くない。
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「おっ、更新されてんじゃん」


 得意先からの直帰ついでに、前から気になっていたラーメン屋に向かう夜道すがら。


 スマホでいつもの「異世界チェック」をしていた俺は、お気に入りの小説が更新されているのを確認してほくそ笑んだ。辺りに誰もいないから良いものの、液晶画面の明かりに浮かび上がる32歳のニヤケ顔はさぞかし怖かろう。自覚はあるんだ、うん。


 しかし、続きをものすごく楽しみにしていたのに2ヶ月もの間ずっと更新が滞っていたんだから許して欲しい。


「異世界チェック」というのは、主人公がファンタジーな世界に飛ばされる物語の数々が更新されているのかをチェックすること。


 そう、俺はいわゆる「異世界もの」が大好きだ。どれくらい好きかというと、いつ異世界に行ってもいいように身辺整理―性的趣向の分かる物証―を処分し、休日には内政チートできるように農業や工業の技術を勉強。連休なんかは山奥で夜営をして備えているほどだ。行きたいねん。めっちゃ行きたいねん。


 格闘技は近接格闘術(CQC)を学んだ。偉そうに言ったけど本とネットです、はい。

 その他の格闘技はいまいち強くなれるイメージが湧かなかったんだよね。おそらく、ボクシングも空手もルールなしでの戦闘に使うには長い鍛練が必要に感じた。ちょっとはかじったのよ、ちょっとは。

 CQCは古武術や中国武術などのえげつない急所攻撃を磨いたものが多い。究めるにはもちろん時間をかける必要はあるが、即席でもある程度は人を無効化できるようになるだろうとの考えだ。


 身辺整理はHDDだけじゃない。公証役場で遺産の寄付を父が育った孤児院に、としたためている。はした金だけどね、徹底してみた。両親も親しい親族もこの世にいない。恋だの何だのは8年前から音沙汰なし。どうせ逝くなら天国よりも異世界だよね。


 様々な事情と心情があって、俺はファンタジーな物語にのめり込んでいる。酒谷憲和(さかたにのりかず)、32歳、独身。中堅メーカー係長。趣味:異世界。


 さて、ラーメン屋に向かいながらも小説をウキウキしながら読み進める。この小説はチート能力・現代知識での内政・ハーレムという、「異世界もの」の近年の王道パターンをすべて踏まえていながら、主人公の天然な性格でトラブルに巻き込まれるオーソドックスなものだ。ドタバタ系でハーレムメンバーとの軽快なやり取りが面白く、更新が(とどこお)る前は人気ランキングの上位だった。


「ぷはっ!やっぱおもれー」


 相変わらずの軽妙な言い合いに思わず吹いてしまう。お転婆ツインテールのメインヒロイン貧乳美少女が突っ込みとツンデレを兼ねていて、その容赦ないたとえに天然主人公はたじたじだ。こきおろすくせに主人公に惚れている美少女。

 いいなぁ。俺自身は天然でも何でもないと自分では思っているが、この子のような的確な突っ込みをしてくれる存在が側にいてくれたら、俺でもこんなかけ合いができるんじゃないだろうか。誰でも突っ込み対象にしてしまう人って貴重だよね。自分には無理だし周りには誰もいない。

 周りと言っても、俺の周りには仕事関係以外で付き合いがあるのなんて、一番親しくてコンビニの深夜によくいるおっちゃんくらいだ。もう5年は顔を合わせていて、コーヒーのやり取りをするくらいには親しい。同年代とか、それぞれ家庭を持ったり社会に出ていて何年も会ってない奴ばかり。元気かな?人の事を言えないだろうが、みんな老けただろうな。たまには連絡取ろうかな。

 ……絶対話題に困るな。やめだやめだ。別に何してても何とも思わない奴の近況聞くなんて意味がなさすぎる。出会いとか今さら求めてもないし交遊関係を広げたいと思わない。強がりじゃなく、今はPCとスマホさえあれば十分、と本気で思っているしね。って、小説読んでる途中で頭がトリップしてしまっていたようだ。続き続きっと……って。


「うおあ!?」


 唐突に襲いかかる浮遊と落下の感覚。目線を下に向けると、ぽっかりと空いたマンホール。眼前には開いた穴の中に付いている黄色い手すりが現れていた。既に避けられない位置まで迫っている。あ、これ直撃コース、ダメなやつや。


 がつん!ごちん!と、今まで体験したことのない衝撃の連続に痛みを感じる間もなく、俺は意識を手放したーーー。

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