1/1
0. 序章
赤い。
視界を埋め尽くす、赤い色。
遠くに聞こえる悲鳴、罵声、混乱した足音。
鼻につく、焦げたような、生臭いような匂い。
ーああ。燃えている。
故郷が刻一刻と消失する様を、呆然と見ているだけしかできなかった。
ーなぜ、どうして。
疑問に答えるものは誰もいない。
こんなことが起きるなんて、一体誰が予想しただろう。
驚くと同時に、人々は気づく。混迷と退廃の時が来たと。
その国の北端で起きた事件は、後に「神の大火」と呼ばれる。
今から、5年前の出来事だ。