夕暮れの教室、二人佇む。
夕暮れの教室に一人佇む。
帰りたくないなぁ。そんな風に思う日がたまにやってくる。別に家族と仲が悪いとかそういうのじゃないんだけどね。
放課後の教室には色々な音が溢れている。
運動部の掛け声、先生たちの足音、あと風の吹く音とか鳥の鳴き声。なんなら飛び立つ時の音まで聞こえちゃう。
これを聞けるのは放課後だけの特権だ。
授業中は先生が解説して生徒はかりかりメモをとるだけ。
昼間の景色は誰にも見てもらえない。
だって人間が一番忙しい時間だから。
夜に燦然と輝く月や星について詠んだ人は多くいるけど、昼間の例えば空気が澄んでいるとか日差しが眩しいとかそういうことについて詠んだ人はちょっぴりしかいないんじゃないかな。
もっと目を向けるべきだと思う。
「まだ帰らないの」
教室にそっと入ってきて、不思議そうに私に声をかけるクラスメイトの木下くん。忘れ物かしら。
「帰らないわ、どうして?」
「どうしてもこうしてもないけど」
「ならいいじゃない」
彼は私の隣の席の椅子を引いて腰掛ける。
「何してるの?」
彼が訊くから、私は胸を張って答える。
「音を聞いてるの、放課後のね」
「ふうん」
彼も耳をすましてみることにしたようだ。
放課後の教室、二人佇む。
言葉は発さずに同じ音、同じ景色を共有する。
時々呼吸音や身じろぎする音で彼がそこに居たことを思い出して、くすぐったい気持ちになる。
「悪くないね、こういうのも」
木下くんは独り言みたいにぽそりと呟いたあと、薄く微笑んだ。
「そうね」
私も笑む。
明日からもまたいつもの学校生活が続く。
放課後の思い出を抱えた私たちには、違った景色が見えるかしら。
私は夕陽に照らされた机の表面をそっと撫でた。




