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最終話――銃弾を超える最後の球(ライフ)一――

 黒は驚いていた。君が弾丸回転をする球バレットを受ける、受けられるとは思っていなかったからだ。

 もう一度上に飛ばして球を受けた時も、黒は君を凝視していた。

 黒は、ネクタイを外し、ボタンも一つ外すと

「次が最後の球だ」

 と言った。

 君は頷いた。

 それを見て黒は、

「最後の球を投げ、そして、それを受けた時、当てる事の出来る絶好の機会となっているだろう。慈悲は要らない。当てろ」

 と言った。

 君は一度考えるように首を傾げたが、頷いた。

 そして、黒は投球動作に入った。


****


 あなたは左足を一度後ろに下げた後、前を通して上げた。

 少し体を沈ませ過ぎではあるが、野球の一般的な投球動作。流れる様な投球動作である。

 そして、あなたの右腕は上から下へ、空間を縦に切り裂いた。

 白に迫り来る球はバレットボールの様な弾丸回転。しかも、バレットボールより遥かに回転数も多く、途轍もなく速い。

 銃弾バレットを超える球。

 銃弾を超える最後の球。

 あなたの魂が宿った様な。否、あなたの魂そのもの。人生の球。ライフ。


 それは、あなたの苦しみを表現していた。

 それは、あなたの悲しみを体現していた。

 それは、あなたの慈しみを再現していた。

 それは、あなたの超越性を顕現していた。


 それをバレットボールと同じ手法で受ける事は出来ないと、白は直感的に察した。

 バレットボールは僅かに浮き上がるような軌道だったが、これはほぼ真っ直ぐに白の中心に向かって来ていた。あなたが体を沈み込ませたのは、この、バレットボールよりも水平に近い軌道を実現させるためだったのだろう。

 同じ手法で受けるには、バレットボールより多い回転数に耐える為、先程よりも正確に回転軸を捉える必要がある。しかし、それでは上に弾く事が出来ない。軸から手をずらした瞬間に、白の手が耐えられなくなるだろう。


 だから、白は、まともに受ける事にした。


 少しでも回転に耐えられるように、右手を球の上、左手を球の下に回転方向に沿わせる様に。

 腹で受ける。腕が削られるような痛みが白の脳を麻痺させる。腹が焼けるような摩擦熱が白の意識を抉る。球は異様に重く、白の踏ん張った足が地面をガリガリと削り取る。


 しかし、そして、白は受け切った。


 白の腕は裂けて流血し、腹部の服は黒く焦げ、球もボロボロでまだ熱を持っていた。

 けれど、受け切った。白が後ろを見ると、白の足は白線ギリギリで止まっていた。

 思わずそのまま膝をついた白は正面のあなたを見た。

 あなたは右肩を押さえ、地面に倒れていた。

 あなたは苦悶の声で、当てろ、と言った。

 白は投げなかった。

 慈悲などでは無い。

 裂けた腕、震えたままの脚、喪失した戦意。

 物理的に、精神的に、投げる事など出来はしなかった。


 そして、戦いドッジボールは引き分けで幕を閉じた。


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