第六話――弾丸回転をする球(バレット)二――
黒はネクタイを緩めながら、
「ここまできたのは初めてだ。次のはどちらから受けるか」
と訊いた。
君は先に受けようとしたが、
「さっき譲ったのだから、今度は」
という紫に押し切られ、後に受ける事になった。
黒は集中する様に深く息を吐いた。
黒は落下する様に体を沈み込ませると下手投げで押し出すように投球した。肘から先、そして手首を捻り、球の軌道軸に人差し指を添わせ、球の下部を中指と薬指で引っ掻いた。
強力なスピンがかかる。
その弾丸回転をする球は紫の正面にとんだ。
紫は、押さえつけて捕球しようとするが、
「いってぇぇええええ」
と叫ぶと、球を後ろに逸らした。
地面を転がって痛がる紫の手は、皮膚が抉れるように擦り切れていた。
「むしろ、摩擦熱が痛いと感じる要因ではあるが」
そう黒は言って、君が不意を突いて投げた球を跳び上がって左手で上に飛ばし、落下した所を受け止めた。
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白は疑念を抱いていた。
最初はなぜ左手で投げていたのだろうか、という疑念だった。そして、片手で受ける時はなぜ左手ばかりなのだろうか、という疑念だった。
だから、一つの仮説を立てた。
あなたは、右肩を壊しているのではないか。
それは今証明された。
あなたは可能な限り受けようとする。低い球は普通に受け、高めの球は左手一本で受ける。
白は両肩が上がらなければ受けられない高さと威力で投げていた。
それを両手で受けなかった。
それも、とっさの捕球で。
白は受けない事を予想していたが。
あなたは、次は白の番である、と言った。逃げてもいい、とも。
けれど白は、
「逃げない。受ける」
と言った。
そして、あなたは息を吐き、体を沈み込ませる。
銃弾が投じられた。
低い、地面ギリギリから投じられた球は白の体の中心を捉えていた。けれど、その体を貫く事は無かった。
白は、空手の様な構えをした後、正拳で以て銃弾を迎撃したのだ。
回転軸の中心を正確に拳で打ち抜いた白は、その瞬間、ほんの少し、拳と共に体を沈ませた。何かが切れた様な音が鳴る。
もっともダメージが少ないであろう迎撃をした白の拳は、しかし激痛にみまわれた。僅かとはいえ流血もある。だが、白にそれを気にしている余裕はなかった。
フォールボールを超えていきそうな高度から落下してくる、けれどただの球を、白はフォールボールの時のように後ろに反って受け止めた。
バレットに当たったのは一人。残り一人。