第五話――左下方向に変化してくる球(シンカー)七――
白が受けた後にあなたの投げ方はまた変化した。
これも右の下手投げという表現になるのだろうが、斜め下投げだった。
「斜め下手投げって事は」
紫が言う。
ちょうど、取ろうとした少年の左手から零れ落ちた所だった。
「シンカーボールか」
なぜかこの左下方向に変化してくる球は、今までの球の中では最速だった。
そして、曲り、落ちる。
面白いように当たっていき、残るは白と紫だけになった。
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黒は紫に、
「前回と前々回最後の一人としてここで脱落した」
と言った。そして君に、
「今回初挑戦でここまで残った」
と言った。
黒は君に名前を訊いた。
君は名前だけを短く答えた。
黒は、
「どちらが先に受けるか」
と問うた。
君は紫と相談し、君が先に受ける事になった。
紫は先に受けると主張したが、君は譲らなかった。
君が腰を落として構えたので、黒は投げた。
変化は分かっても変化量は分からない。さらに回転を抑えつけなければ取り落す。
君は左前方に、バレーボールで回転レシーブをする様に転がった。腹の中心で受け、丸まったまま転がる。そして、受け切った。前方に移動する事で変化量を抑え、可能な限り正面で受ける事を考えた捕球だった。今までの球に使われた技術を用いた捕球だった。
「よく受けたな」
紫が君に言った。
君は照れたように笑い、紫にも頑張るよう、言った。
そして紫も見よう見まねの回転レシーブ的捕球で受け切った。
シンカーに当たったのは五人。残り二人。