第三話――落ちる球(ドロップ)二十一――
黒は、また投げ方を変えた。今度は右の下手投げ。ソフトボールのピッチャーの様な投げ方だ。
最初に狙われた少女はそれを受けようとして、取り落した。脱落だ。
当然といえば当然で、真っ直ぐな軌道の球が突然下向きの軌道に変化しているからだ。それも受ける直前に。
しかも、回転が普通のドッジボールで投げられる球の逆の回転なので受ける瞬間の力の入れ方を変えないと取り落すのだ。野球のドロップボールの様な回転。落ちる球。取り落す球
見た事があっても受ける事は難しい。前提として、変化自体に慣れなければ。
黒は次に君を狙った。君はバックステップし、一度バウンドさせてから受ける。返球。黒はもう一度君を狙う。
「おっ?」
黒は君の行動に思わず声を上げた。前進したのである。当然変化しない。変化する前に受ける。回転を抑え込むようにしっかりと受けた君は再び返球する。
黒は更に君に投げた。今度は、前進するであろう地点で取り落すような球を。しかし、君は動かず、球をバウンドさせる。
黒は何か投げ方に癖があるのだろう、と予想した。
そのままで落とすときは前進。前進した地点で落とすときは移動しない。
黒が何度投げても、君は正確な判断をし続けた。
その後、黒が狙いを変えても、君の動きで他の皆も何かに感付いたのか、あまり当たらなかった。
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白は、ヒリヒリする手をパンパンとはらった。あなたの、慣れていない回転の球を何球も受けたせいで擦れていた。
隣で、紫が、
「白がドロップボールに当たっていたら、もっと多くが脱落していただろうね」
と言った。
集中し続けていなければどこかで当たっていただろう、と白は思っていた。
そして、あなたは白達の人数をまた数えた。
ドロップに当たったのは四人。残り十七人。