岩崎恵子
「ココは…、ココは何処なんですか? 何が起きているんですか?」
この状況に耐えられず、誠は叫んでしまう。奥の方に座っていた女子高生位の少女がビクリとした。それだけだった。他の人達は何の反応も示さなかった。
「ココが何処かだと? そんなもん知ってたらコッチが教えて欲しいわ」先程の中年男が鼻で笑った。
誠は自分の中に絶望が溢れ、息苦しさを感じた。ここの人達も散々試したのだろう。それでもここから出る事は叶わなかったんだ。
誠は堪らずその場にへたり込んでしまう。恵子も誠の隣にそっと座った。そんな二人の様子を見ても中年男の苛立ちは抑えられなかった。
「お前も俺も、ココからもう出られねえんだ。ココでくたばるんだよ!」
誠はそんな言葉信じられなかったが体の震えを抑えられなかった。どれ位そうして居たのか分からないが絶望と蒸し暑さが誠の体力を奪っていった。誠も周りの人達同様、ふさぎこむ事しか出来なかった。
急に恵子は隣に居る誠にも聞こえるか聞こえないかの声で一言、暑いと言った。
誠は全く反応を見せなかったが恵子は羽織っていたカーディガンをおもむろに脱ぎ始めた。ノースリーブ姿になった恵子は立ち上がり、軽く伸びをした。誠はそんな恵子にやっと視線を向けた。
「ふぅ、暑いね」
恵子は誠に笑顔を向ける。それを見た誠はきょとんと彼女を見つめるばかりだった。
「誠もそれ、脱いだら?」
恵子は笑顔のまま、誠の着ているシャツを引っ張る。
誠は自分の服が汗で体にまとわりついている事に気付き、気持ち悪さが急にこみ上げてきた。恵子に言われた通り上着を脱ぐと気持ちが少しスッキリした気がする。
誠は自分達の服装を見て部屋に居た時の格好のままだった事に気が付いた。
夏も終わり暫く肌寒い日々が続いていた。そろそろコタツが欲しいと言ったら恵子に笑われたっけ。誠はそれがとても昔のように思えた。
ふさぎこむ誠に恵子は手を差し出す。
「ほら、誠も立って」
恵子は誠の手を引き、立ち上がらせる。誠は立ち上がるが恵子の普段と変わらない様子に驚きを隠せなかった。
恵子はそんな誠を見て笑顔でうなずく。そのまま恵子はブラリと歩き始めた。
誠は黙って彼女について行くが彼女の手が震えている事に気が付かなかった。もし気が付いていれば恵子が自分の為に気丈に振る舞ってくれている事に気が付いただろう。
恵子は周りを見回したり、足元を確かめながら歩いて行く。まさか隠し通路があるのでは?誠は思ったがそれが馬鹿げた考えだとすぐに気が付いた。