友情
「安心しました。岡田さんのお陰ですね。こちらも何とか第一段階で止められる方も居ましたから」
「そうなのか? 俺達は結構苦労したぞ」
「患者さん達の場合はまだまだ苗木の状態がほとんどですから。細くて小さい木ならそれほど難しくないと思いますよ」
ただそれを患者は悪夢の中で行わなくてはならない。それが難しい。
「それに病院の中で患者に刃物なんか本当は渡せませんから。小さな十徳ナイフみたいなものが精一杯ですよ。ほら、キャンプとかで使うじゃないですか。それの小さな奴です。寝る時にその十徳ナイフを持たせるようにしました。お陰で病院の中じゃ変人扱いですよ」
「俺も一人で出来たかどうか。中島が居て何とか一周皮を剥げたって所だよ」
「でも本当に良かったです。近藤くんが戻ってこられて」
「こいつで何とかな」
近藤は手錠を取り出した。田嶋は手錠をマジマジと見詰める。
「ほう、これで皮が剥げました?」
「何とかな。切れ味なんて無いも同然だから苦労したぜ」近藤は手錠を仕舞う。
「出来れば第二段階の人も治療出来れば良いんですけどね」
「まさか、あの世界へわざわざ行ってってわけじゃねえよな?」
「それは勘弁。そこはもう私の担当じゃ無くなりますし、私が行っても役に立たないでしょう」
「そうだな。それに危険もデカイからな」
「報告だけはして後は任せますよ」
それにもう手遅れだろうと田嶋は思った。第二段階の患者は生命維持装置が外せない状態だ。もし国が動いてくれてなければ装置が足りなくなっていた。
そうかと近藤は残りの珈琲を飲み干した。
「それじゃあそろそろ行くか。実は中島の所へも寄ろうと思っているんだ」
「そうですか、それじゃあ私も報告書を書きに戻る事にしますよ」
喫茶店を出ると田嶋が近藤へ振り返った。
「念の為ですがあれから夢は見ませんか?」
「ああ、いや見たな。お前と飲みに行く夢だったよ。どうだ?今度、昔の奴等も呼んで一緒に飲みに行かねえか?」
「近藤くんも知ってるでしょう?あの頃の僕に友達なんか居ませんでしたよ」
「そんなもん気にするな。良いじゃねえか。友情なんてものは今からでも暖めればよ」
近藤は昔から周りをグイグイ引っ張っていくリーダータイプだったなと田嶋は思い出した。
「なるほど、それじゃあ機会があればぜひ」
「ああ、その時は連絡するよ」
近藤は田嶋の肩を叩いて帰って行った。田嶋はその背中を見送る。中学校の時良く見た背中、野球が上手で沢山の友人に囲まれている近藤に憧れ、自分を卑下していたあの頃のまま。
精神世界。薄皮隔てたすぐ近くにあるが見えも触れもしない世界。そこでは他人と繋がり相手を傷つける事もできる。
現実世界でもそうだった。人は一人じゃなかった。どこかで人と繋がっていた。私と近藤君の様に。傷つけるか、慈しむか。精神世界でも現実世界でもそこが重要なのだ。
友情か……。久し振りに聞いたな。田嶋はつい笑みがこぼれてしまった。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
自分の処女作を何度か手直しした物になりますが、まだまだ稚拙な文章だったかと思います。
特にキーワード(何を載せればいいのか)や物語のラスト(説明過多、ブツ切れ感)が悩みました。
出来れば沢山のご意見頂ければ嬉しいです。