一時の休憩
「また何か聞きに来るかもしらんが今日はこれで十分だ。助かったよ」
近藤は立ち上がった。田嶋も一緒に立ち上がる
「私で良ければいつでも力になりますよ」
「ありがとよ。じゃあお疲れさん」
近藤は片手をあげて、待合室を後にした。自動ドアを通り抜けた所で一度振り返ると田嶋がこちらに手を振っていた。
近藤はもう一度手を挙げて見せた。病院の外と内ではずいぶん違う。太陽が照り付け、排気ガス臭いこちらが俺の世界。蛍光灯と消毒液の匂いがあいつの世界か。
近藤は誠のマンションへ向かった。マンションから五十メートル程離れた所に車が一台停まっている。近藤はその車の助手席へと乗り込む。運転席には中島が居た。
「先輩、どうでしたか?」
「何がだよ?」
近藤は何を聞かれているか分かっていたが答えたくなかった。まだ近藤自身、田嶋の話をどう受け止めれば良いか決めかねていた。
「あの先生の所へ行くって言ってたじゃないですか? こっちは先輩が戻らないからお昼も買いに行けなかったんですよ」
中島は近藤が持っていたコンビニの袋をじろりと見た。なんだってこんなにも良く喋るものかと近藤はため息が出る。
「分かってるよ、ちゃんと弁当買って来たぞ」
「ありがとうございます」
中島は近藤から袋を受け取り、中身を確認する。コンビニの袋には生姜焼き弁当とハンバーグ弁当、それに缶コーヒーが二つ入っていた。
中島はどちらを食べるか悩んでいるようだった。近藤は自分が弁当を買って来た時は必ず先に中島に選ばせている。そうすれば後でジロジロ見られずに食べられるからだ。
「結局何か聞けたんですか?」
「よくわかんねえよ」近藤は中島と目を合わせず答えた。
「難しいお話だったんですね」
ニヤニヤしている中島を近藤は睨むが中島はまたどちらの弁当が良いか見比べ始めた。近藤は横から袋に手を突っ込み缶コーヒーを開ける。
「それより動きはあったのかよ」
「全く。今日は一歩も外へ出てないです」
中島はようやくハンバーク弁当を取り出し、近藤に生姜焼き弁当を「どうぞ」と言って渡した。
「無駄なんじゃないですかね、他に女が居るって顔じゃないですしね」
中島が弁当を開けると車の中に匂いが広がる。近藤はそれだけで食欲を失ってし
まった。