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デジャヴ

 誠にとって目を覚ましてからは現実離れした事ばかりだ。夢ならば早く覚めて欲しいと願ったが掌の汗が、心臓の鼓動が、これは現実だと知らせているように思えた。


 恵子は何か遠くを見ている。誠が彼女の視線を追ってみると視線の先には木があり、いくつか赤い実がついているのが見えた。


リンゴの木だろうかと思った。誠には赤い果実といえばそれ位しか思いつかなかったし、それほど興味深いものではなかった。


このまま立ち尽くしても仕様が無い。誠は恵子の手をとりまた歩き出す。その足取りは薄氷の上を歩くかの様に一歩一歩慎重に進んでいった。


 このまま二人が進めば何人かの前を通り過ぎる事になる。この人達は何者なのかと不安になってくる。


 先ほどの眼鏡をかけた男の前に差し掛かる。あの目を思い出し誠はゾクリとした。誠は自分の不安が恵子に伝わらないように祈った。


 他の人達もあんな目をしているのだろうかと思うと今にも走り出したい衝動に駆られる。とてもまともな人間とは思えなかった。


 眼鏡をかけた男の前を通り過ぎ、続いて2~3人の前も通り過ぎる。誠の心臓は今にも爆発しそうだったが誰も二人には反応を示さなかった。皆うつむいたまま、微動だにしなかった。


 誠は少しホッとした。同時に必要以上にビクついていた自分が可笑しく思えた。確かに状況は未だ分からないままだが、そこまで警戒する必要も無いのかもしれない。このまま進めば案外、身覚えのある場所に出るだろうと淡い期待も抱き始めた。


 霧が晴れているのはあと数m程度だ。近くで見ると霧が壁のようになっている。広場だけが薄膜に覆われて、それ以上霧が入り込めない様にも見える。異様だ。だがせっかく手に入れた希望を誠は手放したくなかった。何か気圧の関係とか納得がいく説明があるに違いないと誠は自分に言い聞かせた。


 それでも霧の壁に足を踏み入れるのには抵抗を感じた。誠は片手を前に、もう片方の手で恵子の手を強く握り。霧の中へ進んで行った。霧の中は前に突き出した自分の手が霞むほどだった。だがそれもほんの少しの間だけ。


 霧はすぐに途切れ、誠は目の前に広がった景色を見て愕然とした。座り込む人達、壁のような霧、そして真ん中に一本の木。先程と全く変わらない景色だった。


 誠はデジャブを感じ、目の前が一瞬ぐらりと揺れた。一番手前に座っている眼鏡の男がこの後こちらを見るんだ。ほら、もうすぐこちらを見る。だが男は動かなかった

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