二人の刑事
誠が出て行くと近藤刑事はドアを閉めて、大きくため息をつく。
「いやぁ、先輩を見ていると彼に殴りかかるかと思いましたよ」
壁際に立っていた若い男、中島翔太が近藤に声をかけた。中島はまだ刑事になりたてで、近藤の下についてまだ半年程度だった。
「バカ野郎。そんな事する訳ないだろ」
「でも先輩、部長は殴られたみたいな顔になってましたよ」 中島はクククッと笑いながら言った。
「うるせえな、そっちも殴ってねえよ。どう考えても奴を帰すのは早過ぎるだろうが」
近藤はもう一度椅子に座る。中島も誠が座っていた椅子に座り、頬杖を突く。
「先輩、それでどうするんですか?」
「まずは俺もその医者の所へ行く。部長の話じゃ全然わかりゃしねえ」
「それじゃあ僕も行きますよ」中島は身を乗り出す。
「お前は聞き込みしてろ。奴の会社へ行って交友関係を調べてこい」
「またそうやって面倒臭い事を押し付けるんですから」
「馬鹿野郎、大事な事だからやらせるんだよ。さっさと仕事覚えて独り立ちしろ」
近藤は勢い良く立ち上がる。中島も一緒に立ち上がる。
「いやいや、僕なんかまだまだなんで、ゆっくり教えて貰えれば結構ですよ」
「お前は大丈夫だ、良い仕事してるよ。だから頑張ってこい」近藤はにやりと笑って出て行く。
ドアが閉まり中島は座り直した。近藤の下に就いて半年、褒められる度に良いように使われているのではないかと感じていた。だが父親のような親近感を抱いているのも確かだ。
中島はため息をつき、胸ポケットから手帳を取り出した。誠の職場がそこにメモしてある。
住所を確認する。ここから少なくとも車で三十分はかかる距離だった。
「もっと近くで働けよ……」
中島が独り言を言うと急にドアが開いた。ドアの向こうから別の刑事が覗いている。顔は見知っているが名前までは分からない。
「悪い、使っていたか?」
「いえいえ、もう終わりましたよ」
中島は手帳をポケットへしまい、急いで立ち上がった。刑事の後ろにはもう一人居た。
「どうぞごゆっくり」とすれ違いざまに中島は声をかけた。
その刑事の後ろにいた厳つい顔の男が舌打ちをする。良く見るとその手には手錠がはめられていた。
中島は慌ててその場を後にした。