取り調べ
誠はその夜全く眠れなかった。渡された毛布を頭からかぶり、留置所の冷たい床に座りながら恵子の事を思い泣いていた。明け方になり少し、ウトウトしたが膝から頭がずり落ちる度に目を覚ました。
誠は少し夢を見た気がしたがハッキリ思い出せなかった。何か思い出してはいけない気もした。気持ちが落ち着くと頭によぎるのは恵子の事ばかり。
誠はまた取り調べが始まるまで毛布をかぶり直し、声を殺して泣いた。
誠がまた取調室に呼ばれたのは日が傾いてからだった。
近藤は何も言わないまま椅子を引き、誠に座るように促した。誠が座るともう一人若い刑事が壁際に立っているのに気がついた。
近藤も誠の正面へ座る。そして暫くの間、沈黙が続いた。
「最近、原因は解らないが意識不明になる人達が増えているらしい」
近藤は誠の様子をうかがい、唐突に話し始めた。誠は興味無かった。誠にとってはどうでも良い話だ。
「何人かは意識を取り戻すが残りは……。それに意識を取り戻した人も再び意識を失う事があるらしいんだな」
近藤は話しづらそうに、そして言いたく無さそうに続ける。
「意識を取り戻した人達に話を聞いたところ、君の夢と似たような夢を見たと言っているらしい」
誠は初めて近藤の目を真っ直ぐに見る。だが誠はどう答えて良いのか分らない。近藤もまた何と続けて良いのか迷ってるようだった。近藤は一呼吸おき、覚悟を決める。
「君には殺人の容疑がかけられていると言ったね?」
「ええ、……それは仕方が無いと思います」
誠は一晩経って冷静さを取り戻し、自分の置かれている立場を理解しているつもりだった。
「だが君の家の捜査も終わったのでもう帰って貰って良いんだ」
誠は突然の事で驚いた。近藤は顔に出さないように奥歯を噛みしめる。出来るだけ平静を装い近藤は続ける。
「ただし、君の容疑が完全に晴れたわけではないので改めて話を聞きに行く事もある。後はこの病院で必ず診察を受ける事。良いね?」
近藤は一枚の名刺をデスクの上に置く。
「わかりました。ありがとうございます」
誠は差し出された名刺を受取った。大学付属の大きな病院の名前が書いてある。
近藤は立ち上がり取調室のドアを開け、誠を促す。誠は慌てて立ち上がり、ドアへ向かう。誠は近藤の前で立ち止まる。
「あの、他にもあそこへ行った人がいるんですか?」
「あそことは?」
「……いえ、何でも無いです」
誠が出て行くと近藤刑事はドアを閉めて、大きくため息を吐く。