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一進一退

 中年男は妻のもとへ駆け寄り、抱きかかえた。中年妻は泣きじゃくっている。


「いやあ……、死にたくない。まだ死にたくない」


 誠は駆け出した。恵子は止めようとしたが突然だった為、もう少しの所で誠の手をつかみ損ねた。誠は女子高生Aに後ろから飛びかかった。


 女子高生は前へ倒れこみ、果実を落としてしまった。誠は必死に果実へ手を伸ばす。だが女子高生Aがそれを邪魔する。誠と女子高生Aは揉み合い、果実を弾き飛ばしてしまう。


 女子高生Aは誠の耳に肘を打つ。誠が怯んだ隙に駆け出そうとするが、誠がその足を掴んだ。誠は二度三度と蹴りつけられて手を離してしまう。


 女子高生Aが果実へ手を伸ばそうとして振り返る。そこには果実を持った中年男が立っていた。


「一歩遅かったな」


 女子高生Aは中年男を睨みながら立ち上がる。中年男は何があっても反応出来るように彼女を警戒している。女子高生1人で彼から果実を奪うのは難しいだろう。


 女子高生Aはどうすべきか悩み振り返る。誠は彼女の顔が恐怖に染まる瞬間を見た。


「止めてぇ!!」


 女子高生Aは誠の方へ走ってきた。誠は驚くが女子高生Aはそのまま横を通り過ぎる。


 誠が振り返ると。女子高生Bが果実を食べながら駆け出すのが見えた。女子高生Aがその後を追っている。そのまま二人共霧の中へ消えて行った。


 誠はどうなったのかと周りを見渡すと反対側から女子高生Aだけが現れた。


 周りをキョロキョロと見渡している。女子高生Bを探しているのだ。誠はこれから女子高生Aの身に何が起こるか予想が出来た。


 暫くの間、悲痛な叫び声が続く。誠は目と耳を力の限り塞いだ。


 女子高生の声が聞こえなくなると誠は疲労感に襲われる。その時今更ながら眼鏡男も居ない事に気が付いた。恵子が誠の所にかけてきた。


「馬鹿、無茶しないで」

「ごめん。こんな事になるなんて思わなかったんだ。どうして良いのか分からなくて」


 誠は女子高生から果実を奪おうとしなければこんな事にはならなかったのかもと後悔する。だが他にどうする事が出来ただろう。


 中年男が誠達にゆっくり近づいてきた。緊張した空気が再び流れる。


「さてと、それでどうするか? 俺達はこのリンゴみたいな奴が二つ欲しいと思っているんだが、残念な事にまだ一つしかない。良ければあんた達のをこっちに渡してくれないか?」


 誠は恵子を見る、恵子は何も答えず中年男を睨んだままだ。


「それとも何か? 話し合いじゃ決められないか? 俺はそれでも良いけどよ」


 男は鼻で笑いながら更に近づく。恵子も一歩前へ出る。誠は止めようとしたが恵子に制された。


「話し合うのは悪くないわね」

「それじゃあ、さっさとこっちに寄こせ」

「それは出来ないわ。私は話し合うのが悪くないと言ったのよ」


「なめてんのか? 黙って渡せって言ってるんだよ」

「それ以上近づかないで! 近づけばこれを踏み潰すわよ」


 中年男は驚いた。誠も驚いている。中年男は無理やり笑って見せるが動揺は隠せていない。


「出来る筈が無い。お前等にもそいつが必要なんだろ?」

「あら? あなたは寄こせって言ってなかった? あんたに渡す位なら潰した方がましだわ」

「お前にそんな事は出来ない」

「あらそう?」


 恵子は果実を地面に落とす。それを見て叫んだのは中年妻だった。


「やめてーー!! あなた何しているの? あいつを止めて! 私を殺す気なの?」


 中年男が妻と恵子を交互に見る。恵子はその様子を見て男に言った。


「とりあえずもう少し下がって貰える? 大事なリンゴを拾いたいの」


 中年男はしぶしぶ従うしかなかった。

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