奪い合い
中年男は誠達と女子高生達の様子を伺っている。
中年男は暫く様子を見た後、女子高生達の方へゆっくりと移動を始めた。女子高生達は果実を奪い合うのに必死で中年男が近づいてくる事に気付いていない。
女子高生達は揉み合いの末、果実を落としてしまった。それでも彼女等はお互いを離さない。その隙に中年男が走り出し、果実を拾い上げた。
彼女等は突然の事で驚いているようだ。だが状況を把握すると彼女らはお互いを離し、立ち上がる。
「何してんだよ、おっさん」「さっさと返せ! それはあたしのよ」
「悪いな。こいつはもう俺のだ」
中年男は笑いながら妻の方へ歩き出す。今度は女子高生達は走り出した。そのまま一人は中年男の首におぶさるように飛びつき、もう一人は果実を持った腕に飛びついた。
中年男は振り解こうともがくが、彼女等をなかなか引きはがす事が出来ない。
「いってえぇ! 放せ、くそったれ!」
腕を掴んだ女子高生Aが噛み付いているようだ。中年男は持っていた果実を落とす。
中年男が女子高生Aの髪を掴み引きはがした。両手が自由になり首を絞めている女子高生Bも力任せに振りほどく。
その時、女子高生Aが落ちていた枝を手に立ち上がっていた。
中年男が落とした果実を拾おうと屈んだ瞬間、女子高生Aはその枝を振り下ろした。
中年男はうめきながらその場に倒れこんだ。女子高生Bは果実を拾う。今度は彼女達が中年妻と誠達の様子を伺う番になった。中年妻は果実を持ったまま震えている。
「誠、本当に時間が無いわよ。お願いだから食べて」
恵子は女子高生から目を離さずに果実を誠に握らせようとする。だが誠は受け取らなかった。
「食べたら恵子はどうなるんだ? 僕の事は良いから恵子が食べるんだ」
「それは駄目よ。私が食べても出られるか分からないわ。だって誠が既に一口食べてるんだもの。誠が食べたほうが確実なのよ」
「そんな事分からないだろ? 頼む、そんな事言わないでくれ」
「私もこんな事言いたくないわよ」
恵子はつい大声を出してしまう。だがそれ以上言葉が続かない。
女子高生達は中年妻に狙いをつけた。誠と恵子の二人から奪うより簡単だと思ったのだ。女子高生達はゆっくりと中年妻に近付いて行く。
中年男はうずくまったまま背中に刺さった枝を求めて手をさまよわせている。
「ちょっと、あなた! あなた!!」
中年妻は中年男へ向かって叫びながら後ずさる。中年男は自分の背中から枝を抜くと立ち上がった。投げ捨てた枝先が血に濡れているのを見て、誠は全身の毛が逆立つのを感じた。
女子高生Aは中年男が立ち上がるのを見ると中年妻に向かって走り出した。女子高生Bも追うように走る。中年妻は逃げようとするが転んでしまう。
女子高生達が来ると、中年妻は体の下に果実を隠した。だが女子高生Bは中年妻の髪を掴み上げる。
「サッサとよこすんだよ、ババァ!」
中年妻は悲鳴を上げ苦痛の表情を浮かべる。とうとう女子高生Aが隙をついて果実を奪った。
誠は恵子が時間が無いと言っていた意味をやっと理解した。そうか、そう言う事か。
今までは果実を食べるとパートナーが地面に沈んでいたけど、彼女達が二人で果実を食べたらどうなるのか? 誰が地面に呑みこまれるのか?
そんな答えを待っている訳にはいかない。彼女等が二つの果実を揃える前に何かしらの行動を起こすべきだった。誠は改めて後悔した。