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混沌

「ちょっとやめてよ!」

「あんたこそ降りなさいよ、邪魔なのよ」


 二人の女子高生が木の上でお互いの腕や足を引っ張り合っている。


「あなたお願い。私のもお願いよ」

「分かってる! 何処にもないんだよ。そっちからも探せ」


 木の上と下で中年夫婦は言い争っている。


 誠にはどちらも遠い出来事のように感じた。彼等を見ていると徐々に冷静さを取り戻してきた。そして誠はどうしても恵子に一つ聞きたかった。


「恵子。いつからそんな事、考えたんだ?」

「え? ……それは何となく、漠然とした思い付きだから…」

「もしかして最初の後輩が地面に沈んじゃった時から感じてたんじゃない? 本当はさっき眼鏡男が食べる時には彼女も沈む気がしてたんじゃない?」


 誠は分かっている。恵子は別に間違った事はしていない。責める気も決してないがどうしても責めるような口調になってしまう。


「ええ、そうね。もしかしてって気持ちはあったわ。でも止められる? 何の根拠も無いのよ。何て言うの? それを食べたら彼女が地面の中に沈んじゃうかもしれませんって? でも食べなきゃ一生出られないと思いますけどねって? そんな事言えば良かった?」


 恵子の眼から涙があふれ出していた。それを拭いもせず、恵子は必死に胸を張った。自分でも酷い事をしてしまったと感じていた。それでも今は後ろを振り返っている時ではない。せめて誠だけでも……。


「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ。恵子は悪くないよ。こんな状況でも諦めずに頑張っているんだ。恵子は凄いよ」

「……ありがとう」


 誠は恵子を抱きしめる。恵子も誠の胸に顔をうずめ、少しの間感情に身を任せた。誠は今まで恵子が泣く所なんて想像出来なかった。


 女子高生達と中年男は既に木を下りていた。お互い一つずつ果実を手に入れたようだった。女子高生達は果実を取り合い、地面の上を転がっている。中年夫婦は大声で言い争っていた。


 泣きたいなら泣いても良いんだ。どんなに大きな声で泣いてもあの四人にはどうせ届かないから。誠は優しく恵子の頭をなで続けた。


 恵子は誠から一歩離れると誠を見詰める。その赤い目には志の光が灯っていた。この目をした恵子は絶対に意見を曲げない事を誠は経験上知っていた。


「誠、私誠にこれを食べて欲しいの」


 恵子は手に持った果実を誠の前へ差し出す。


「何言ってるんだ? そんな事、出来る訳無いだろ!」

「もう話し合う時間はそれほど残っていないと思うの。だからお願い、早く食べて」

「なんでそうなるんだよ、時間が無いってどういう事だよ?」


 恵子は後ろを振り返る。恵子の視線の先にはあの中年夫婦が居た。中年男もこちらを見ており、男の妻は何やら男に怒鳴り散らしていた。

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