悲しいルール
「大丈夫?」
土だらけになった誠を恵子は心配そうに見つめている。
「あぁ、でも駄目だったよ。助けられなかった」
「誠は良くやったわよ」
恵子はそっと誠の手を握る。
突然、上の方からバキバキッと音をたてて数本の枝が落ちてきた。
誠が見上げると中年男の姿が枝の間から見えた。既に木の周りに皆集まっている。
中年男の奥さんは木の下から男の様子を伺っており、女子高生の二人はそれぞれ近くの枝に登ろうとしているところだった。誠は焦った。
「マズイよ、僕達も急いでもう一つ採りに行かなくちゃ。元々沢山生ってた訳じゃないんだ」
「それって私達の半分にしか行き渡らない位じゃない?」
「あぁ、多分それ位だよ。だから急いで登らなきゃ」
「いいえ、まずは話し合いましょう」
「…えっ?」
誠は恵子が何故そこまで落ち着いて居られるのか分からなかった。自分の話を理解していないのか?
「良いかい? 僕が登った時点で三つ四つしかなかったんだよ? 本当に無くなっちゃうよ?」
「ええ、私達は二人一組で五組居たわよね?だから果実も多分五個なんだと思うの」
誠は全く理解出来なかった。
「私の予想なんだけど、ココにいる人間の半分の数しか果実は生らないんじゃない。だってもう半分の人達には必要無いんだもの」
誠にはまだ何を言おうとしているのか分からない。
「果実を食べた人はやっぱりここから出て行けるんだと思う。でもその代りもう一人が地面に沈んでしまうって事じゃないのかしら」
「ちょっと待って。……そんなまさか! 考えすぎだろ? そんなの。そうだ、アダムとイヴはどうだったんだよ? あれは二人とも楽園から出ていく話だろ?」
「誠落ち着いて。アダムとイヴはおとぎ話よ。そもそもここが楽園だと思う?」
「だって、恵子が言ったんじゃないか?それに、あの男も実を食べたら本当に居なくなっただろ?」
「それはたまたまだったのよ。本当に偶然。お願い、冷静に聞いてちょうだい」
恵子は駄々をこねる子供をなだめるように辛抱強く誠に話しかけた。
誠は自分の頭を掻き毟る。恵子の言いたい事は分かっている。でもそれは認めたくなかった。恵子は自分でどれほど残酷な事を言っているのか分かっているのだろうか。
それでも冷静にならなくてはと自分に言い聞かせる。恵子の予想が当たりなら誠と恵子のどちらかは戻れない事になってしまう。