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僕らの出会い

今日は家に帰りたい気分だ。


とっさに湧いた家に帰りたい衝動を抑えられず、僕は自習室にも寄らずに家に帰ろうとしていた。

勉強がしたくなかった訳じゃない。


ただ、夜道より青空の下を歩きたくなっただけだ。

そう、ただそれだけ。

空が清々しいほどに青かった。


駅のホームで英語の単語帳を開く。

今日はなんだか集中できない。


(やっぱり、自習室で勉強してくるべきだったかな)


一瞬の気の迷いが後悔につながる。

僕にとって勉強は呼吸だ。勉強に集中できないのは、苦しくて、つらい。

呼吸困難、酸素が欲しい。


少しだけ、息継ぎをするように顔を空に向けた。

アナウンスが鳴り、電車が来るのが見える。

手に持った参考書は電車の中で見るためにそのままで、少しだけ前に出た瞬間だった。

何かが横からぶつかって、僕はそのまま背中から倒れ込んだ。

なにかが重くのしかかって精神的な呼吸困難が物理的な苦しさ変わる。原因を確かめようとしてみたけれど、視界がぼやけてそれがなんなのかとらえられない。


それが制服を着た女子だと気づいたのは、体全体にのしかかった重みがなくなって視界いっぱいにあの、青空が広がった後だった。どうにか起き上がって、ずれた眼鏡をかけ直すと、ようやく自分の上にあったものがなんだったのか理解できた。


「ごめんなさい」

ふわり、と太陽の光を透かして茶色がかった黒髪が揺れる。

ごめんなさい、ごめんなさい、と頭を下げるたびに彼女の髪の毛が太陽の光を反射して艶やかに輝いた。


僕の時間が一瞬だけ、止まった。


「いや、大丈夫」



ふと、手に持っていた英語の単語帳がないことに気がつく。

視線を下に向けると、すっと目の前に探していた物が差し出された。


それを受け取って、発車する寸前の電車に急いで乗り込む。

今日は調子が狂った。

僕は自分のペースを取り戻すように、深呼吸をして酸素をめいっぱい肺に取り込むように、ぼろぼろの英単語帳を開き、アルファベットを体内に取り込む。


そうだ。

これで僕は生きている。


だけど、少しだけ太陽の光との別れが、寂しかった。

ありがとうございました。

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