僕の性質
「次の問題・・・。じゃあ小宮山翔」
数学教師、井上は成績の上位10人しか授業で指名しない。
たぶんそれ以外は視界にすら入れないつもりだろう。
名前を呼ばれたので僕は黙って席を立ち黒板と向き合う。
チョークと黒板が触れあう音が静まりかえった教室に響き渡る。
黒板の反面を埋め尽くした計算式をもう一度確認して、カタンッと言う音を立てて先の丸まったチョークを投げ捨てる。
正直、授業の数学なんて簡単すぎて手応えがない。
塾ではもう2年先の授業のまとめに入っている、だからこんな問題復習にもならない。
井上は答えを確認することもなく、他の生徒を指名して次の問題を解かせ始めた。
それから僕は自分の机の上に広げられた分厚いテキストの途中から問題を解き始める。
それからチャイムに気づかず、授業の終了を知ったのは前の席の男子が立ち上がった弾みで椅子が僕の机の縁に少し触れて僕の机がわずかな振動を示した時だった。
そう言えば、今日の昼休みはこの間の中間テストの成績掲示だった。
掲示は全クラス1位から最下位まで全生徒の順位、点数がはっきりと刻まれている。
食堂に行く途中で立ち寄るか。
掲示にたかる生徒の間から食堂へ向かう途中、歩くことはやめずに横目で1番端に立つ掲示板を見る。
予想通り、と言うよりいつも通りの1位でなんのおもしろみもなかった。
ちらりと、毎回僕の下に名前のある同じクラスの富永秀一が掲示板の前に立ちつくす姿が視界に入った。
たぶん、悔しがっている姿なのだと思う。
でも、僕にはわからない。
悔しいとか、そう言う感情は、僕には、わからない。