友人
第六作ですね。
読んでやっていただけると幸いです。
十二年前、高校の時、俺は仲の良い友人と大喧嘩をした。その時、先生に質問したんだ。今、俺は何をすべきなのか、と。
その答えを、先生は手紙で俺に渡してくれた。
君たちが喧嘩をするなんて私には想像も出来ません。私は君たちを小さい頃から見ているので、二人が本当に仲良しなのは、よく知っているつもりです。でも、どうしていいか分からない程の喧嘩をする子たちには、全く見えませんでした。君たちも大人になったんですね。
ひとつ、例え話をしましょう。
昔、私は一度、自殺を考えたことがあります。あの時は、何もかも本当に崖っぷちでした。そんな時でも、一緒に生きようと背中を叩いてくれる友人が私にはいました。
そいつに、私は裏切られたのです。信じてきた友人に、背中をあずけてきたそいつにその背中を押され、私は崖の下へと落ちていきました。
しかし、後になって、あることが分かったのです。崖の上の友人は、崖の下の方が安全だと判断したのです。上に残った友人は助かりませんでした。暗雲がたちこめ、雷が落ちたのです。雷が落ちると分かっていて、そいつは私に雷が当たらないようにわざと避雷針になったのです。そして、自らを犠牲にすることで、本当の意味で私が生きるために背中をおしてくれたのです。
私にはそんな友人がいました。
君が喧嘩した子は、そんな友人ではないのですか? 自分のことを犠牲にしてまで、君のことを助けようとする、そんな友人なのではないのですか? だったら、すぐに仲直りなさい。その友人を、あの時の、そいつのようにしないでほしい。
友人は、本当に大切なものなんだよ。
この手紙をもらった時は、あまり内容を理解してなかった。ただ、何かの恐怖感に駆られ、あいつに謝罪を持ちかけ、仲直りしたことを憶えている。
でも先生。俺にも知る機会がめぐってきたのだ。
先生は昔、会社を運営していた。いい商品を輩出していたが、大きな会社に勝つことができず、利益はいつも赤字だった。首が回らなくなり、暴力団が関わるような金融業者にまで、手をのばしてしまった。それ以来、先生は取り立てに追われるようになった。返せないなら、命を奪うとまで言われ、どうしようもなくなっていた。その時会社を立て直そうと奮闘したのが先生の言う友人だった。
でもその友人は、会社の金を持って逃げた。
その時の先生はもう希望の一つも抱けなくなっていた。
その三日後、友人は遺体になって発見された。そして、先生のもとに、多額のお金が入った。その友人は持ち逃げした金で自らの体にいくつかの保険をかけ、単身で暴力団の本部に乗り込んで殺されたそうだと、警察に聞かされ、ある一枚の手紙を渡された。その手紙には六文字しか、文字は並んでいなかった。
[お前は生きろ]
あの例えはこの事を話していたんだと知ったその時、改めて友人の意味を考えた。命を賭してまで先生を守った友人と、友人に死んでほしくなかった先生。友人とは一体何なのだろうか。
今、俺は死のうとしている。しかも、俺の友人のために。十二年前の手紙のことを思い出したのは、偶然だろうか。いずれにしても、俺は先生の友人と同じ末路を辿ろうとしている。
先生すいません。俺はあいつを先生の友人のようにはさせませんでした。でも、俺があいつのために死ぬことになりました。十二年前に受けた忠告は少し違う意味で守れそうにないです。本当にすいません。さようなら。
今では、先生の友人の気持ちが分かる気がする。これも友人を大切にしたことになりますよね。先生。
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