↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
50/56

第四十九章 未来へ残すもの

白龍の里で起きた出来事を、未来へ残すための一冊の本が完成しました。

それは、ただ過去を記録するための本ではありません。

次の世代が、自分たちの未来を考えるための記録です。

蒼真たちは、ようやく気づき始めます。

里を守るのは、特別な誰かではない。

一人ひとりの小さな思いが集まって、未来を作っていくのだと。

白龍の里に、穏やかな朝が訪れていた。

山には若葉が広がり、川は静かに流れている。

以前、この里を覆っていた不安や恐れは、もうどこにもなかった。


もちろん、すべての問題がなくなったわけではない。

畑では作物が病気になることもある。

大雨が降れば川は増水する。


人と人が意見をぶつけることもある。

それでも、以前とは何かが違っていた。

人々は、問題が起きたときに誰かを責めるのではなく、まず話し合うようになっていた。


_____________________________________________________

その日、里の集会所には大勢の人が集まっていた。

蒼真。

凛。

悠真。

里の子どもたち。


そして、これまで里を支えてきた大人たち。

机の上には、一冊の分厚い本が置かれている。

表紙には、こう書かれていた。

『白龍の里 未来への記録』


「完成したんですね」

悠真が本を見つめる。

蒼真が頷いた。

「ああ」

その本には、これまでの里の出来事が記録されていた。


山のこと。

川のこと。

畑のこと。

昔の人々の暮らし。

七色の白との出会い。


黒龍との出来事。

そして、里の学校が始まったこと。

一人ひとりが感じたことも、できるだけ書き残されていた。


________________________________________________

凛が本を開いた。

「これ、子どもたちの記録も入っているの?」

「もちろん」

蒼真が笑う。


「むしろ、それが一番大切なんだ」

子どもたちは嬉しそうに顔を見合わせた。

その中の一人が言った。


「でも、僕たちの字、ちょっと汚いよ」

「それでいいんだ」

蒼真は答えた。

「そのときの君たちが書いたものだからな」


_________________________________________

悠真がページをめくった。

そこには、最初に里へ来た日のことが書かれていた。

そして、その隣には自分が町へ持ち帰った花の種の記録がある。

さらにページをめくる。


町の人々との交流。

川の観察。

植えた木。

子どもたちの発表。

たくさんの出来事が記録されている。


悠真は静かに笑った。

「こんなにたくさんのことがあったんですね」

凛が言う。


「時間が経つと、忘れてしまうこともあるからね」

「だから記録するんですか?」

「そう」


_______________________________________________

蒼真は本を閉じた。

「でも、記録する理由は、それだけじゃない」

「じゃあ、何のためですか?」

蒼真は窓の外を見た。


山が見える。

その向こうには青い空が広がっている。

「未来の人に、考えてもらうためだ」

「考えてもらう?」


「ああ」

「俺たちが正しいとは限らない」

「今のやり方が、ずっと正しいとも限らない」

「だから、次の世代には、この記録を読んで、自分たちで考えてほしい」

悠真は深く頷いた。


____________________________________________

その日の午後。

子どもたちは山へ向かった。

一本の木の前で立ち止まる。


それは、以前みんなで植えた木だった。

まだ大きくはない。

けれど、確実に成長している。

「来年にはもっと大きくなるかな?」


「なるよ」

「十年後は?」

「もっと大きい!」

「じゃあ、僕たちが大人になったら?」


子どもたちは木を見上げた。

その問いに、すぐ答える者はいなかった。


_____________________________________________

悠真が言った。

「その頃には、僕たちが誰かに教えてるかもしれない」

「何を?」

「この木を植えた日のこと」


「それから、川のこと」

「この里で教えてもらったこと」

子どもたちは笑った。

「じゃあ、僕たちが先生になるんだ」

「そうだよ」


_____________________________________________

その様子を、少し離れた場所から七色の白が見つめていた。

隣には黒龍がいる。

黒龍が静かに言った。

「ずいぶん成長しましたね」


「ええ」

「もう、私たちが教えることは少なくなったのかもしれません」

七色の白は子どもたちを見つめた。


「そうかもしれません」

少し寂しそうな声だった。

黒龍が尋ねる。

「寂しいですか?」


七色の白は微笑んだ。

「旅立つ者を見送るのは、少し寂しいものです」

「ですが――」

七色の白は続けた。

「それ以上に嬉しいのです」


________________________________________________

夕方。

里の人々が川辺に集まった。

大人も子どももいる。

そして、悠真の町から来た人々もいた。


今日は、一つの約束をするためだった。

これからも、毎年一度、里と町の人々が集まる。

川を調べる。

木を植える。

子どもたちが学んだことを発表する。


そして、一年間に起きた出来事を記録する。

「十年後も続けよう」

誰かが言った。


「二十年後も」

別の人が言った。

「その頃には、僕たちが大人だね」

悠真が笑う。


_________________________________________________

蒼真は、川の流れを見つめていた。

かつては、この里を守ることばかり考えていた。

何か大きな力が必要なのだと思っていた。

しかし今は違う。


里を守るのは、一人の英雄ではない。

特別な力でもない。

一人ひとりの小さな思いが積み重なって、里を守っていく。

そのことを、蒼真はようやく理解していた。


_________________________________________

夜。

星が空に浮かんでいた。

蒼真と凛は、丘の上にいた。

「ここから見る里、綺麗だね」

凛が言った。


「ああ」

「昔とは全然違う」

蒼真は頷いた。

「でも、山も川も変わらない」

「変わったのは、人の心なのかもしれないね」

二人は静かに里を見つめた。


_________________________________________

そのとき。

遠くの山から、淡い七色の光が見えた。

蒼真は立ち上がった。

「七色の白……?」

凛も光を見つめる。


光は一瞬だけ空に浮かび、静かに消えていった。

「何だったんだろう」

凛が呟く。

蒼真は微笑んだ。


「たぶん……」

「『もう大丈夫だ』って言ってるんじゃないかな」

凛は何も言わず、空を見上げた。


_____________________________________________

その頃、山の上では。

七色の白が、静かに里を見つめていた。

黒龍が隣に立っている。

「行くのですか?」

黒龍が尋ねる。


七色の白は、しばらく黙っていた。

「まだです」

「では、いつ?」

「皆が、自分たちの足で歩けるようになったとき」

黒龍は里を見る。


子どもたちが笑っている。

大人たちが話している。

川が流れている。


木々が風に揺れている。

「その日は、近いかもしれませんね」

七色の白は微笑んだ。

「ええ」


_______________________________________

風が吹いた。

春の終わりを告げる風だった。

白龍の里を吹き抜けて、川を渡り、遠くの町へ向かっていく。

その風に乗るように――。


一枚の若葉が、木から静かに舞い落ちた。

地面に落ちた若葉を、子どもが拾った。

そして大切そうにノートへ挟んだ。


「これも、未来への記録だね」

誰かが言った。

その言葉に、みんなが笑った。

白龍の里では今日も、新しい物語が生まれている。


けれど、その物語を作るのは、もう一人ではない。

みんなで作り。

みんなで守り。


みんなで未来へ渡していく。

そのことこそが、これまでの旅で見つけた一番大切な答えだった。

第四十九章を読んでいただき、ありがとうございます。

物語も、いよいよ終わりに近づいてきました。

ここからは新しい敵を登場させるのではなく、これまで登場した人物たちが、それぞれの道を見つけていく展開へ入ります。

七色の白と黒龍にも、やがて一つの決断の時が訪れます。

そして蒼真や凛、悠真たちが、これまで受け取ったものを次の世代へ渡していきます。

物語の最後に残るものは、「力」ではなく「受け継ぐ心」です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。