↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/56

第一章 白龍の里

雨の音に耳を澄ますと、誰かの声が聞こえてくる。

もし、そんな不思議な力を持つ少年がいたら――。

山深い白龍の里には、古くから人々を守ってきた白龍がいました。

そして、その白龍と心を通わせる少年・蒼真と、巫女の少女・凛。

三人の出会いから、物語は始まります。

これは、光だけではなく、闇も抱えた存在が、もう一度「人を信じる心」を取り戻していく物語です。

白龍の里は、雨に恵まれた土地だった。

山々は深い緑に包まれ、雨が降るたびに田畑は潤い、清らかな川が里の中を静かに流れていた。

人々は、四季の恵みを受けながら暮らしていた。


そして、里の人々が長い年月にわたって信じ続けてきた存在がいた。

――白龍。

山の中腹にある古い祠に宿る、里の守護者だった。

白龍は雨を呼び、大地を潤し、災いから里を守ってきた。


人々はその存在に感謝し、祠へ足を運び、祈りを捧げていた。

けれど――。

白龍自身は、人間のことをどう思っていたのだろう。


人間の弱さも。

愚かさも。

欲も。

争いも。

白龍は、そのすべてを知っていた。


それでもなお、白龍は人間を守り続けていた。

それが、白龍にとっての誇りだった。


雨声の子

蒼真は、幼いころから不思議な力を持っていた。

雨が降ると、ほかの人には聞こえない「声」が聞こえるのだ。


ぽつり。

ぽつり。

屋根を打つ雨。

木の葉を濡らす雨。

土へ染み込んでいく雨。


その一粒一粒の音の中に、まるで誰かの感情が混じっているように感じられた。

悲しい日は、雨の音も重かった。

嬉しい日は、不思議なほど軽やかだった。


蒼真は、その声を誰にも話さなかった。

話しても、きっと信じてもらえないと思っていたからだ。

ある雨の日。


蒼真は、山の中腹にある白龍の祠へ向かっていた。

古い石段を一段ずつ上っていく。


周囲には霧が立ち込め、木々の葉から落ちた雨粒が、静かな音を響かせていた。

そのときだった。


――ぽつり。

雨の音に混じって、聞き慣れない声がした。

『雨声の子よ』

蒼真は足を止めた。


「……誰?」

返事はなかった。

ただ、目の前の霧がゆっくりと晴れていく。


そして――。

山の奥から、一頭の巨大な龍が姿を現した。

白い鱗。

長く伸びた鬣。

深い青色の瞳。


その姿は、まるで雨そのものが命を得たかのようだった。

蒼真は息を呑んだ。

「……龍……?」


白龍は静かに蒼真を見つめた。

そして、口を開くことなく、蒼真の心へ直接語りかけた。

『お前は……私の声を聞けるのだな』

蒼真の身体が震えた。


「あなたが……雨の声の主なの?」

白龍はゆっくりと頷いた。

『私は、この里を守る者』

蒼真は恐怖よりも、不思議な安心感を覚えていた。


ずっと聞こえていた雨の声。

その正体が、目の前にいる。

「白龍さま……」


自然と、その名前が口から出た。

白龍は蒼真を見つめた。

『蒼真。お前は私の声を聞くことができる』


「僕だけ……?」

『そうだ』

蒼真は胸の奥が熱くなるのを感じた。


なぜ自分なのか。

なぜ自分だけが、白龍の声を聞けるのか。

その答えは、まだ分からなかった。


巫女・凛

祠には、もう一人、白龍と心を通わせる者がいた。

凛。


白い衣に赤い袴をまとった、幼い巫女だった。

凛は毎朝、祠を掃き、灯籠に油を入れ、白龍へ祈りを捧げていた。

その日も、雨の中で凛は静かに祠の前へ膝をついていた。


「白龍さま。

今日も里をお守りくださって、ありがとうございます」

すると、空気がふわりと揺れた。

白龍が姿を現した。


凛は嬉しそうに微笑んだ。

「白龍さま。今日は雨が強いですね」

『そうだな』


「でも、田んぼは喜んでいますよ」

『人間は、雨を嫌う日もある』

白龍は静かに空を見上げた。


『だが、雨がなければ大地は乾く。人間は、与えられているものを忘れやすい』

凛は少し考えてから答えた。

「私は忘れません」

『……凛』

「白龍さまが、ずっとこの里を守ってくださっていること」

凛は胸に手を当てた。


「私は、ずっと覚えています」

白龍の瞳が、わずかに優しく揺れた。

『お前の祈りは、私の心を穏やかにする』

凛は照れたように笑った。


「私はただ……白龍さまが好きなんです」

白龍は何も言わなかった。


ただ、凛を静かに見つめていた。

その姿を、少し離れた場所から蒼真が見ていた。

「……凛」

凛が振り返る。


「あ、蒼真!」

蒼真は石段を上り、祠の前までやってきた。

「今日も白龍さまに会いに来たの?」

「うん」

凛は笑った。


「蒼真も?」

蒼真は頷いた。

「僕は……雨の声を聞きに」

凛は不思議そうな顔をした。


「雨の声?」

蒼真は答えようとして、やめた。

その代わり、白龍を見つめた。

白龍も蒼真を見ていた。


『二人とも、よく来た』

蒼真と凛は、同時に頭を下げた。

白龍は二人を見つめながら、静かに語った。


『人間は弱い』

蒼真と凛は黙って聞いていた。

『時に愚かになり、時に大切なものを忘れる』

白龍の声には、どこか寂しさがあった。


『それでも私は、人間を信じたい』

凛が顔を上げる。

「どうしてですか?」

白龍は凛を見つめた。


『お前たちのように、心から祈る者がいるからだ』

凛は静かに微笑んだ。

蒼真も頷いた。


その日、二人は知らなかった。

この小さな祠と、白龍との絆が――。

やがて、里全体を揺るがす大きな出来事へとつながっていくことを。


そして。

白龍が人間を信じた、その心こそが。

いつか、白龍自身を深い闇へと導くことになることを。

雨は静かに降り続いていた。


ぽつり。

ぽつり。

まるで、これから始まる物語を知っているかのように。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

「霊界の竜」は、白龍と人間の絆を通して、人の心にある光と影を描いていく物語です。

白龍は人間を守り続けています。

しかし、人間はいつまでも同じ気持ちで白龍を信じ続けるのでしょうか。

そして、もし大切な存在から裏切られたとしたら――。

白龍の心には、これから大きな変化が訪れます。

次章では、白龍と凛の絆がさらに深まり、少しずつ「祠」をめぐる不穏な気配が見え始めます。

よろしければ、次の章もお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。