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法廷への誘い

大学生です。初投稿です。さわりの部分を書きました。これから量も頻度も高めていきます。

 それは夏の夜のことであった。午前二時。図書館には書物を一枚、また一枚と捲る音しか残っていなかった。

 私は眼前に広がる判例集をそっと閉じ、天井を見上げた。年季の入った蛍光灯の片方がかろうじてその輝きを保ち続けている。普段は目に留めない光景も、束の間の休息時には初めて見る様なえもいわれぬ気分になる。

 先ほど閉じた判例集を横目に、ふとこんな考えがよぎる。法は言う。未成年は未熟である。然るに、その罪は当人のものでなく、親にあり、そうでなくとも、それは大人のものより軽い。だがもし----その未熟さが、誰かを深く傷つけてしまったとすれば----。

 その瞬間、どこからともなく声がした。

「被告人。」

私は慌てて周囲を見渡す。そこはもう、私のいた図書館ではなかった。誰もいなかったはずの席に、白い法服をきた老人が座っている。

「被告人。」

思考が途切れ、顔が強張る。老人はそんな私のことなど構わず静かに告げた。「追憶の法廷を開廷する。」その瞬間、私の世界の輪郭がわずかに歪んだ。

 椅子の脚が、床を擦る音がする。不意に視線を落とすと、机だったはずの木目が、いつの間にか深く刻まれた古い木材に変わっている。無数の細い傷が走り、まるで長い間、誰かの爪で引っかかれ続けたかの様であった。

 顔を上げる。そこは木造の古ぼけた法廷であった。天井は高く、暗闇がずっと上の方まで支配していた。光はあるのに、どこから差しているのかわからない。壁には窓がなく、無機質な光景が続く。それを目で追っていると同時に、閉じ込められているという感覚がはっきりとしてくる。それらを認識した瞬間、私はまたいつの間にか自身が被告人席に立っている----いや、厳密にいうと立たされていることに気が付いた。

 視線を足元に移す。床にはやはり、無数の傷跡が私の焦燥を嘲笑うかのようにしなやかに刻まれている。しかしその中にひと際希薄な線が引かれており、靴の先が、その線の外に出ていることに気が付いた。その瞬間----

 「ギ。」と音が鳴った。乾いた木どうしが擦れてきしむ音。反射的に足をひっこめる。音は止んだ。誰も何とも言わない。だが、私は今の音が私に対する警告音だったと、なぜか理解できた。

 「着席。」

 老人、いや、裁判官の声が響く。それと同時に、私は背後に無数の気配を感じ取った。何かが押し寄せている。その感覚が私の背中を伝って耳の後ろまで押し寄せてくる。私は、意を決して振り返ってみることにした。

御閲覧いただきありがとうございました。次回は今週中に投稿します。

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