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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

過去に囚われすぎている

掲載日:2026/03/30

***BL*** 過去の失敗で告白が怖くなってしまった。 ハッピーエンド

 


 何故、僕は選ばれないんだろう、、、。



**********



 僕には好きな人がいる。でも、彼にも好きな人がいる。

 勿論、僕じゃ無い。

 ある日、彼が恋人を連れて来た。

 会社の近くの喫茶店で働くひとだった。

 僕と彼が一緒にランチに行く、お店のひと

 僕に似ていない?なんて思うのは、僕だけかな?


 ずっと好きだった。入社した頃から気になっていた。同期で、同じ部署で、仲も悪く無い。



 だけど、彼が選んだのは僕じゃ無かった。



 彼が同性と付き合えるなら、僕も告白すれば良かった。でも、そんな事知らなかったから、言えなかった。

 


*****



 高校生の時、好きな人がいた。一番仲が良い友達。趣味も気も合う友達だった。笑顔が魅力的で、身長も高かった。一番好きなのは、スラリと長い指。白くて、しなやかで、つい目で追ってしまう。

 大学受験が終わり、彼は県外の遠い大学に進学すると言った。卒業間近になると、僕は自分の気持ちを伝えたくて堪らなかった。

 これでもう二度と会えない、、、。そう考えただけで、告白したかった。



 卒業式の前日、、、。天気の悪い1日。卒業アルバムを受け取った。寄せ書きをしている女子達。家族には帰りが遅くなると言ってあって、夕方から、クラス最後の打ち上げがあった。それに参加して、彼と二人で帰る。雨は上がっていた、、、。三月の寒い夜。



 僕は、彼に告白した。

 少し、戸惑う彼。返事は貰えなかった。



 そして、翌日、無視された、、、。



 少しの期待と淡い想いは、見事に打ち砕かれ、僕は告白する事が怖くなった。



 でも、あの時拒否られて良かった。

 もし、卒業式に告白して、同じ反応を貰っていたら、僕はいつまでもいつまでも、彼を待ち続けたと思う。



*****



 同期の宮沢くんは僕の気も知らず、恋人の働くあの店にランチに誘う。相手が仕事中だから、長い時間一緒にいる所を見せられる訳じゃない。でも、来店した時の彼の嬉しそうな顔、水を運びながら照れる顔、料理を運びながら目を合わせたり、要所要所で見せつけられる度に、胸がチクリと痛む。


「今度、飲みに行こう」

飲みに行くのに、改めて誘われる事は余り無かった。定時で上がった日や、飲みたい気分の時に軽く「ちょっと飲んで行くか」と言って店に流れていたから。

「広瀬と三人で」

と言われて

「嫌だよ!」

「ん?、、、」

しまった、言い方がキツくなった!

「親密な所を見せられる独り身の立場、考えてよ」

誤魔化した。

「ああ、、、」

宮沢くんが少し赤くなる。そんな顔すら見たく無い、、、。

「それなら、広瀬の友達も呼んで貰うから、四人でどうかな?」

別に、ワザワザ飲み会しなくても良いだろ?彼氏と二人で、飲みに行けば良いじゃ無いか、、、。

 溜息をいた。

「だって、田原と飲みに行きたいんだ、、、」

じゃあ、二人きりで良いだろ?

「でも、広瀬がヤキモチ妬くから、、、」

「はいはい、、、」

「良いのか?」

違う、、、。呆れただけだよ、、、。

「メンバー決まったら教えて、()()()()行くから」

「良かった」


 行けたら行く=行きたく無い


なんだけどな、、、。



*****



 そして、週末金曜日。夜9時。

 夜9時から飲み会って、、、。まぁ、良いけどね。

「え?此処?」

いつもランチに行く、広瀬くんの店だ。

「ああ、広瀬、今日9時まで店長と仕事で、場所移動する時間勿体無いから、此処でって」

「良いの?」

「店長が薦めてくれたらしい」

「ふぅ〜ん、、、」


 店に入ると昼間とは雰囲気が全く違った。外が暗いからか、店内の照明を落としてあるからか、静かで雰囲気のあるお店になっていた。

 昼間は使っていない、間接照明。いつもただの飾りだと思っていたけど、夜は使っているんだ。

 客層は変わらない、会社員ばかり。だけど静かで落ち着いた空気。

「へぇ、、、」

宮沢くんが関心してる。

「良い感じだな」

奥の席で、広瀬くんが手を振っている。

「あそこだ」

と言って歩きだす。

 一番奥の、一段上がったスペースに、六人掛けソファ席があった。昼間、ランチ時には違和感のある席だったけど、なる程、夜には良い感じだった。

 宮沢くんが広瀬くんの横に座る。肩を寄せ合い、仲良くメニューを見る二人に、溜息が出そうになる。


 

 本当ホント、何で来ちゃったんだろう、、、馬鹿だな、、、。



 そう思いながら、メニューを見る。



 あれ?もう一人はまだなのかな?って思いながら

「僕、モスコミュール」

と飲み物を決め、一緒に頼んで貰った。

 お腹が空いていたから、何にしようかな、、、。肉、食べたいな。

「あ、食べ物はもう頼んであるんだ、すぐ来るから待ってて」

広瀬くんに言われて、愛想笑いが出た。何だ、選べないんだ、、、。このソーセージの盛り合わせ、食べたかったのに、、、。



「お待たせ致しました」

と言って、アルコールが四つ運ばれた。まだ、一人来てないのに、、、。

「すぐに、お料理をお持ち致します」

と言って、店員が一度調理場に戻ると、数種類の料理が運ばれて来た。

 僕の食べたかった、ソーセージの盛り合わせもある!

「店長、早く、着替えて来て下さいよ」

ん?

「はは、エプロン外すだけだから」

そう言って、お酒と料理を運んでくれた店員さんが、エプロンを外すと、僕の隣に座った。

 ほんの少し、男性用の香水の香りがした。

 店長さんだったんだ。

「お疲れ様!」

と言って、僕のグラスにグラスを軽く当てると、ゴクゴクと一気飲みする。

 僕は呆気に取られ、彼を見つめるしか無かった。

「はぁ〜!上手いっ!」

「店長が入れたお酒でしょ?!」 

広瀬くんが突っ込んだ。

「そ、これもみんな俺が作ったの、食べて食べて!」

と言いながら、サッサと自分の分を装る。

「ワザワザ取り分けないから、各自で取ってね」

店長はお腹が空いていたのか、遠慮無く食べた。


 お腹も一杯になり、程良くアルコールが回り、良い気分になりながら、宮沢くんと広瀬くんを眺める。


 何で僕、此処にいるんだろう、、、。


 と思いながら、店長の仙道さんをチラリと見た。


 仙道さんが、酒を飲みながら広瀬くんを見ている。もしかして、広瀬くんの事、、、?


 そっと僕の方に身体を寄せ

「あの二人、仲が良過ぎてヤキモチ妬いちゃうね」

と笑った。冗談とも本気とも取れた。

「本当に」

と笑いながら返事をすると、僕の顔を見て

「田原くんは宮沢くんが好きなの?」

耳打ちされた。良い声だった、、、。二人に聞こえない様に落とした声のトーンが、ゾクゾクした。

「そうなんです、広瀬くんに盗られちゃいました」

小声で話す。

「そっか、お互い叶わぬ恋なんだね」

「え?何が叶わぬ恋なんですか?」

広瀬くんが仙道さんに話し掛ける。罪深い人だ。

「俺達の事はいいの、いいの。こっちはこっちで仲良くやるから」

仙道さんは、シッシッと手を振りソファに深く座った。


*****


 広瀬くんが言う。

「田原さんはこの後どうしますか?」

宮沢くんは酔い潰れ、テーブルに突っ伏している。

「もう少し飲んで帰るよ」

彼等と一緒に店を出たく無かった。

「わかりました。渚さん、帰りますよ」

ははっ!名前呼び、、、。口元が歪みながら上がる。

 思わず、残った酒を煽る。仙道さんが

「広瀬くん、タクシー呼んだから」

と声を掛ける。

「ありがとうございます」

広瀬くん、全然酔って無いんだな。しっかりしてる。


 僕は、何と無く席を立って手を洗いに行く。


 鏡を見ながら、嫌なヤツだと思った。好きな人の幸せも祈れない、心の狭いヤツだ。

 蛇口から流れる水を眺めながら、何をやってるんだろうと落ち込んで行く。



 カチャ



 扉が開いて、仙道さんが顔を見せる。

「大丈夫?」

ボーっとしながら

「はい」

と返事をする。そっと近寄り、洗面台の前方に取り付けてあるペーパーを数枚取ると、僕の手を拭いてくれた。

「大丈夫そうに見えない」

「そうですか?」

「、、、飲み足りない?」

「、、、そうですね、もっと、、、」

「店、閉店だから2階で飲む?」

「2階?」

「俺、2階に住んでるの」

そっか、、、店長さんだった、、、。

「このお店、仙道さんのお店なんですか?」

「そ、小さいけど、俺の城」

「カッコ良い、、、」

本心だ。

「もう、店閉めたから飲むなら上か他の店で」

「んー、、、」

他に移動するのは面倒だけど、ほぼ初対面の人の家にお邪魔するのも、何だかなぁ、、、と思ってしまう。

「行こう!俺、もっと飲みたいし」

ポンポンと肩を叩かれ、つい頷いてしまった。



 席に戻ると、店内には誰もいなかった。いつの間にか閉店していて、入り口には「Open」の看板が店内の方を向いている。

 カウンターの中も真っ暗だった。奥の間接照明だけが点いていて、夜の学校を思い出す。

 扉を開けて、外階段で2階に上がると、少しドキドキした。



「え、すごっ、、、」

2階の部屋は、広さは1階の店舗と同じ位だと思う。でも、カウンターとか調理場が無い。普通の住居。当たり前か、、、。

 背の高い家具がないからか、壁紙が白い所為か広く感じた。

「はは、びっくりしてる」

何だか嬉しそうだった。

「何飲む?モスコミュール?」

一番最初に飲んでいたの、覚えてるんだ、、、。ちょっと嬉しい。

「お願いします」



*****



 その日から、僕達は少し仲良くなった。



*****



 宮沢くんが珍しくコンビニ弁当だった。ほぼ毎日、彼の店に食べに行っていたのに、、、。

「喧嘩した?」

「、、、」

返事をしないで、ちょっと笑う。

 やっぱり喧嘩したんだ、、、。

「何が原因?」

「んー、、、」

言いたくないのかな?

「、、、まぁ、喧嘩も程々にね。早く仲直りしなよ」

「俺、お前のそう言う所好きだな」

と笑う。

「何だよ急に、、、」

「お前との距離は丁度良くて良いな、、、って」

でも、君は広瀬くんを選んだんだろ?

 食堂の椅子を引き、宮沢くんの隣りに座る。

 広い食堂では、社食を食べる人、家からお弁当を持って来る人、コンビニや外で買った物を持ち込む人、色々いる。

 適度に賑わっていて、ザワザワして、それが何と無く落ち着く。

「また、飲みに行かない?」

と聞かれて、割り箸を割りながら

「四人で?」

と聞いた。

「いや、、、二人で」

「、、、良いけど、広瀬くんヤキモチ妬くんじゃ無い?」

頂きますと手を合わせて、さっき頼んだ蕎麦を啜る。宮沢くんは買って来た弁当を食べながら

「そうだけど、、、」

と言うだけだった。



*****



 僕は仙道さんと飲んでいた。仙道さんは、お店の内装に興味があるらしく、色んな店に入りたがる。それが僕にも合っていたらしく、いつも楽しみにしていた。

「広瀬と宮沢くん、喧嘩したの?」

「らしいです」

モスコミュールを飲みながら

「どんな内容かは分からないけど、今日、宮沢くんが落ち込んで、飲みに行こうって誘われました」

「二人で?」

「はい。この間まで広瀬くんがヤキモチ妬くからって、二人きりは避けていたのに、、、」

「そっか、それじゃあ、俺が広瀬を誘おうかな」


あ、、、ああ、、、そうだった。仙道さんは、広瀬くんが好きなんだっけ、、、。


「良いと思いますよ」

そう言いながら、少し落ち込んだ。

 僕は仙道さんと飲みに行く様になって、宮沢くんの事を諦める事が出来た。仙道さんと一緒にいると楽しいから、、、。でも、仙道さんはまだ、広瀬くんの事好きなのかも知れない。


 週末はいつも二人で飲みに行っていたのに。


 平日のランチ。宮沢くんと、仙道さんの店に行くと

「いらっしゃい」

と笑ってくれた。嫌われて無いとは思っていたけど、好きになってはくれない、、、。


「じゃあ、田原くんが気に入ったあの店、二人で行ってみようかな?」

仙道さんがウイスキーを飲みながら言う。



 僕の好きな店には、行って欲しく無いけど、そんな事は言えなかった。



*****



 宮沢くんと出掛けたのは、翌日だった。昼から待ち合わせをして、映画でも見て、夕飯を食べる事になった。

 映画は、人気のアクション映画。洋画より邦画の気分だった。久しぶりに映画館に入り、大画面で観るとやっぱり迫力が半端無くて、また来ようと思える。

 本屋を見たり、クレーンゲームをして時間を過ごした。

「嘘、、、取れた、、、」

「どうするの?それ、、、」

「田原にやるよ」

「いやいやいや、、、広瀬くんに持って帰りなよ!」

「アイツはいいよ。今日は店長とデートだって言ってたし」

宮沢くんは、持ち帰り用に一番大きな袋を貰い、デカいぬいぐるみを入れた。

「まだ、仲直りして無いの?」

ってゆーか、広瀬くんと仙道さんデートなんだ、、、。今日、あの店に行くのかも、、、。

「だから、はい。田原が持って帰りな。ぬいぐるみ、似合うよ」

「、、、あ、ありがとう、、、」

そう言われると、ちょっと嬉しいけど、、、。


 夕方、6時過ぎ。何を食べるか考える。小洒落た店より、がっつり食べたい気分だった。お酒も飲みたいし、食事もしっかり摂れる店を探す。

 定食屋さんから、三人組のお客さんが酔っ払いながら出て来た。開いた扉からチラリと中が見える。雰囲気は良さそうだった。他にも飲んでるお客さんがいる。

「どう?」

と聞かれて

「良いね」

と返事をする。

「決まり!」

二人で入る。

 


 定食を食べながら生ビールを飲む。宮沢くんは広瀬くんの愚痴を言わない。喧嘩はやっぱりしている様で、酎ハイまで飲み始めた。

 まだ一時間ちょっとしか経ってないのに、ちゃんと帰れるか心配になる。

 歩ける内に帰ろうと店を出て、駅に向かうと

「田原?!」

呼び止められた。声の方を振り向くと、僕が人生で唯一告白した人がいた。

「あ、、、」

少し酔っ払った宮沢くんは、フラフラしながら壁に寄り掛かる。

「友達、大丈夫?」

「あ、えっと、、、」

「俺、、、香椎かしい、覚えてる?」

忘れる訳ないよ、、、。

「今、帰り?」

「うん」

「こんばんは」

今度は仙道さんと広瀬くんが、香椎くんの後ろから声を掛けて来た。

「宮沢くんが酔っ払ってるみたいだから、広瀬が」

広瀬くんはすぐに宮沢くんの側に寄る。心配そうだ、、、。

「渚、大丈夫?帰れる?」

宮沢くんは返事をしない。下を向いているから表情が見えない。

「僕、送ります。店長すいません、今日は此処で。田原さんもごめんなさい」

「あ、お願いします」

家が分からなかったから、広瀬くんが来てくれて良かった。

「せ」

「田原、時間あるなら飲みに行かない?」

「じゃ、俺も帰るかな」

仙道さんは、一言言うと改札を通って姿を消した。 本当はこれから飲みに行く予定だったんじゃないかな、、、?

「田原?」

「あ、、、ごめんね、、、」

僕は香椎くんの顔を見た。あんまり変わってない様な、少し大人っぽくなった様な不思議な感じだった。

「飯、食った?」

「うん」

「じゃ、飲みメインで」

と言って、改札とは反対方向に歩き出した。

 僕の持つ大きな荷物を見ながら

「ぬいぐるみ、好きなの?」

指差した。僕の好きだった、長い指。

ちがっ!たまたま取れちゃったのを貰ったんだ!」

「そんな、思いっきり否定しなくても」

笑う。

 懐かしい笑顔。

「此処で良い?いつも行く店なんだ」

「うん」

扉を開けると、カラオケの歌声と賑やかな笑い声、手拍子が聞こえて来た。所謂いわゆるスナックだ。

「いらっしゃーい!」

と迎えられ、カンター席に案内される。おしぼりを手渡され、女の子が「香椎」って名前でキープしてあるボトルを、後ろの棚から下ろす。

 僕はメニューからカシスオレンジを頼み、香椎くんはウイスキーをロックで頼んだ。

 緊張する、、、。卒業式以来だ、、、。しかも、当日は目も合わせて貰えなかった。

「卒業式の日、悪かった、、、。ずっと気になってたんだ」

「い、いいよ!謝らないで、、、僕が悪かったんだ、、、。あのまま卒業してれば良かったのに」

「いや、俺の態度は酷かった、、、。告白、勇気がいっただろ?、、、ごめん」

香椎くんは真剣に謝ってくれた。カウンター席は隣りと近い、周りが賑やかだから、自然と肩を寄せ合い二人だけの世界になる。

 泣きそうだった。香椎くんに会って、心があの時に戻ってしまった。泣いちゃいけないと思いながら、何度も瞬きをした。

「さっき酔っ払っていたの、友達?」

「うん、、、。同僚」

「職場、近いの?」

「えっと、三つ先の駅」

「マジ?!俺、隣駅。連絡先交換しようよ」

「え?良いの?」

「何が?」

「だって、、、僕の事、嫌いでしょ?」

「そんな事無いよ、、、」

「でも、、、卒業式の日、、、」

「あの日は、本当にごめん。自分の気持ちが分からなくて、田原とどう向き合ったら良いか分からなかった。、、、緊張してたんだ」

僕はお通しのナッツを食べながら、静かに聞いた。

「俺の好きと田原の好きは違ったから、ちょっと混乱しちゃったんだ。大学に通いながら、ずっと後悔してた。最後だったから、田原と写真撮ったりすれば良かったのにって、考えた事もあったよ」

「そうなんだ、、、良かった、、、」

「たまに、俺も田原の事、そう言う意味で好きだったのかな、、、って考えた事もあった」

「、、、」

グラスの氷が透明で綺麗だった。香椎くんの氷も、グラス一杯の丸い氷で琥珀色のウイスキーがすごく美味しそうに見える。

「田原程気の合うヤツはいなかったし、一緒にいて楽だったヤツもいなかった。田原が女だったら良かったのにって思ったし、彼女が出来ても、田原と一緒の時程楽しく無かった、、、。俺も、そう言う意味で好きだったのかな、、、」


 ウイスキーのグラスを傾けると、氷が当たって音がする。


 正直嬉しかった、、、。でも、、、。今は、仙道さんの事が好きなんだよな、、、。

 上手く行かないもんだな、、、。



 二時間程飲んで、途中駅まで一緒に帰った。



*****



 不思議な気分だった。香椎くんと別れて、一人で帰る。手には大きな荷物。さっきまで香椎くんと一緒にいたから、気分が上がっている。嬉しい事がいっぱいだ。



 と、思った瞬間、仙道さんと広瀬さんの事を思い出した。

 あれはデートの前だったのか、後だったのか、、、。あの店に行ったのかな、、、?

 もし、宮沢くんと広瀬くんが別れたら、仙道さん告白するのかな、、、。その時、僕はどうしたら良いんだろう。



うわっ!



 何の気無しに顔を上げると、歩道沿いの住宅の敷地内にお爺さんが立っていた。めちゃくちゃ心臓に悪い。声が出なくて良かった、、、。


 それから、300メートル程歩いて自宅マンションに着く。何と無く後ろを振り向き、誰もいない事を確認してから鍵を開け、中に入った。



*****



「ランチ、外に行かない?」

「良いよ」

財布とスマートフォンを持って準備をする。

「何食べる?」

「いつもので良い?」

ん?

「仲直りしたの?」

「昨日、、、」

あの後、話し合ったんだ。良かった、、、。

 二人で仙道さんの店に入る。広瀬くんがすぐ宮沢くんに気付いて入り口まで来てくれた。

 僕は仙道さんがいるか、つい探してしまう。

 カウンターの中にいた。僕と目が合った瞬間逸らされた。いつもなら「いらっしゃい」って言ってくれるのに、、、。

 あ、宮沢くんと広瀬くんが仲直りしたから、機嫌が悪いのかな、、、?。



 宮沢くんは、レジ横のカウンター席に座った。いつもなら、二人掛けのテーブル席なのに。多分、少しでも広瀬くんの側にいたいんだろうな。

「そう言えば、昨日帰りにビックリした事があってさ。家の近くの街灯って、結構暗くって、あんまり街灯の意味無いんだけどね。歩いてたら、歩道沿いの住宅の敷地内で、お爺さんがボーっと立ってるんだよ。結構遅い時間だし、灯りも点いて無い玄関先だから、めちゃくちゃびっくりしたよ。声も出なかった」

「その家の人?」

「多分そう。でも、無表情でただ立ってるだけだし、生気がないから一瞬お化けかと思った」

「そんなに暗いの?」

「結構痴漢とかも出るらしくて、防犯メールとか、注意喚起が多いんだよね」



*****



 9時に仕事が終わり、宮沢くんに

「広瀬迎えに行くから、一緒に行こう」

と誘われた。仙道さんの顔、見たいな、、、。

「良いよ」

会社を出て、今日も飲んでる人いるなぁ、、、なんて思いながら店に着く。

 店の前で広瀬くんが待っている。僕はガラス張りのお店を外から覗く。仙道さんがエプロンを外していた。

「田原さん、入ってく?」

と聞かれた。

「いや、もう遅いし」

「店長!田原さん来てますよ!」

仙道さんが振り向いた。

 わっ、、、ドキッとする、、、。

 入り口まで来て

「飲んでいく?」

と微笑まれた。

「でも、仙道さん、もう上がりですよね?」

「上で」

と指を指す。

「上?」

宮沢くんが上を向いた。

「渚!お腹空いた!」

広瀬くんが、宮沢くんと腕を組んで行ってしまう。取り残された僕は追う様に、一歩足を踏み出した。

「二人、仲直りしたんでしょ?今日は二人きりが良いんじゃない?」

と言われて、宮沢くんと広瀬くんを見る。

「そうですね」

僕は、悩んだ。いつも外に飲みに行くし、2階に上がったのは一回だけだった。

「おいで、2階で飲もう」

誘われて、一瞬迷いながら着いて行ってしまった。

、、、だって、仙道さんと一緒にいたいから、、、。



*****


 

 仙道さんの部屋、相変わらず綺麗だった。

「お邪魔します」

「ソファで待ってて」

 仙道さんは缶ビールを出し、リビングに座る僕の前に置いた。

「何か食べるもの準備するから」

と言ってくれる。

 僕はビールを飲みながら、キッチンに立つ仙道さんを見る。


 わ、、、。ビール飲みながら料理してる。カッコ良い、、、。


「はい、簡単なパスタだけど。お腹空いたでしょ?」

えぇ、、、すごい、、、お店のパスタ出て来た。

「あの、、、おいくらですか?」


ふはっ!


「店じゃないから、、、」

笑いながら、僕のグラスにビールを注ぐ。

 キャベツがたっぷり入った。クリームパスタ、、、ベーコンも入ってる。美味しそう。

「頂きます」

仙道さんはスプーンとフォークで、ソースを良く絡めながら食べる。

「美味っ、、、」

自画自賛している。僕は、自分が笑っている事に気付いて無かった。

「笑って無いで、食べて」

と言われて、僕も食べる。

「美味っ!」

同じ事言っちゃった。でも本当に美味しいんだ。仙道さんは天才だ、、、。


*****


 やっとお腹が満たされて、仙道さんは洗い物までしてくれる。

「ありがとうございます」

と言いながら、僕は床に直置きのソファで待つ。

「モスコミュール?」

「お願いします」

なんか、なんでもかんでもして貰って悪いな、、、。今度、何かお礼しないと、、、。


 仙道さんがモスコミュールを作って、持って来てくれた。自分用にはウイスキー。

「この間、友達にスナックに連れて行って貰いました。グラス一杯の丸い氷が入っていて、見惚れちゃって」

「ウイスキー、飲めるの?」

「友達が」

「宮沢くんじゃ無くて?」

「宮沢くん、ウイスキー飲めるのかな?」

仙道さんはグラスを回して、カラカラ音を立てる。

「ほら、この間、駅で会った時一緒にいた人。あの人です」

「ああ、俺が広瀬くんに振られた時のね」

「振られた?」

「あの後、飲みに行く予定だったのに、宮沢くんに着いて行っちゃった」

小さく笑う。やっぱり寂しいのかな、、、。

 モスコミュール、飲みやすい、、、。空腹で飲んだビールが効いているのか、ちょっと早く酔いが回りそうだった。

「あの時、一緒にいたのは、高校の時一番仲の良かった友達で、卒業してから初めて会いました」

「偶然?」

「偶然です。彼から声を掛けてくれました、、、。嫌われてると思ったのに、、、」

「喧嘩したの?」

「告白、、、しました」

「、、、」

仙道さんは、僕の空のグラスを持ち

「もう一杯飲む?」

と聞いた。


コクン、、、と頷く。


 仙道さんがキッチンに立つ。僕は、それをカウンター越しに眺める。


「お待たせ」

仙道さんが横に座る。

「告白して、上手くいかなかった?」

「はい、、、卒業式の前日で、卒業式の日は、目も合わせてくれなかった、、、」

グラスを撫でる。

「だから、嫌われてると思ってました」

「違ったんだ、、、」

「違ったみたいです」

「そっか、、、」

「宮沢くんはその後?」

「彼は同期で、同じ部署で働いてます。入社した頃から良いなって思っていたけど、告白は出来ませんでした。もう、友達を失いたくなかったし、嫌われるのが怖かったから、、、」

「臆病になった?」

「そうですね、、、」

グラスの泡を見つめながら返事をした。


カラン、、、。


仙道さんがグラスを回す。

「仙道さんはいつから広瀬くんの事好きなんですか?」

「俺が?広瀬くんを?誤解してるよ」

「誤解?」

モスコミュールを飲む。

「好きは好きかな?従業員としてね。仕事も問題無いし、まぁまぁ、気が利く。うちの従業員はみんな良い子ばかりだよ。俺の自慢」

ウイスキーのグラスを見ながら言う。

「従業員は家族みたいかな?広瀬くんは最後にったから、一番下の弟みたいな感じ」

僕はグラスの水滴を拭う。

「弟?」

「まだまだ、子供っぽい所があるからね」

「、、、僕は、何番目の弟ですか?」


しまった、、、!、、、こんな事、聞かない方が良いのに、、、。



「田原くんは、、、。そうだな、、、」



あ、、、やばい、、、。手が震えそうだ。

「待って!、、、言わないで下さい」

思わず制してしまった。

「そう?」



カラン、、、。



仙道さんのグラスが音を立てる。



「今も、宮沢くんの事好き?」



モスコミュールのグラスが半分空になっていた。



「今はもう、、、」

恋じゃ無くなりました。

「そっか、、、」



カラン、、、。



 ああ、この部屋、テレビも無いし、音楽も掛かって無いから静かなんだ、、、。だから、氷の音が心地良く響く、、、。



「仙道さんは好きな人いるんですか?」

「、、、」

ウイスキーを飲む。



**********



 この子から告白されたいと思った。

 でも、言って貰える事は無いだろうな、、、。



*****



「好きな人はいるよ」

君だ、、、。

「、、、そうなんですね、、、」

でも、君と同じ様に、俺も告白が怖い。大人気無いと思うだろうけど、、、事実だ。



 お互い無口になってしまった。

「仙道さん、次は僕がご馳走しますね。何が食べたいか考えておいて下さい」

そう言って、田原くんは残りのモスコミュールを一気に空けた。

「明日も仕事があるので、今日は帰ります」

「うん、、、」

「仙道さん、食事、何時いつが良いか決まったら教えて下さい」

「、、、明日、、、」

「明日?」

俺は頷いた。本当は何時いつでも良いんだ。時間を調整すれば良い。ただ、、、彼に我儘を言ってみたかった。

「わかりました。明日、何時なんじまで仕事ですか?迎えに来ます」

「8時、、、」

「じゃ、8時に来ますね」

そう言って、思い切り立ち上がった。


グラッ、、、


田原くんは立ち眩みをした様で、「あ」と言うなり、目を瞑り暫く動かなくなった。

「田原くん?」

「大丈夫、たまにあるんです」

少し時間を置いて、目を開く。

「起立性なんとかってヤツです、、、。小学生の頃から急に立ち上がるとなるんで、いつも気を付けていたのに、失敗しました」

 鞄を持ち、綺麗な焦茶の革靴を履く。ワントーンでは無く、爪先が色の濃い、お洒落な革靴。会社員なんだ、、、と思いながら見送る。

 玄関を出て、急な階段を降りると


「うわっ!」


と叫んで、二、三段滑り落ちた。手摺にしがみつく様に身体を支えている。

「大丈夫っ?!」

「ちょっと、、、酔いが回ったみたいです」

俺の作った酒の所為だ、、、。

 田原くんはそっと階段にお尻を着き、溜息を一ついた。

「びっっっくりしたぁ、、、」

「ごめん」

「仙道さんは悪く無いですよ。僕がぼー、、、っとしてたから」

そう言って立ち上がる。

「気を付けて」

「ありがとうございます」

ゆっくり降りて行く。

「駅まで送るよ、、、」

「大丈夫です。仙道さんも明日仕事ですよね?ゆっくり休んで下さい」

「ありがとう」

暫く田原くんの後ろ姿を見送り、そっと階段を上った。



**********



 もう少しで家に着くと言う辺りで、先日のお爺さんの事を思い出した。あの家だったな、、、と思っていた。

 何か塀の上にある。と思ったら、お爺さんの顔があった!

 びっくりしすぎて、転んだ。

 たまたまだ。たまたま、お爺さんがそこに立っていて、たまたま、塀の上に首だけ見えたんだ。

 でも、その顔が白く浮き出た様に見えて、僕は悲鳴も上げず転んだ。

 お爺さん、心臓に悪いから止めて下さい。心の中で呟いた。

 ズキズキと痛む足を庇いながら家まで帰った。

 シャワーを浴び、イヤだな、、、と思いながら応急処置の仕方を調べ、足を冷やした。

 朝、目が覚めると痛みがあった。

「最悪だ、、、」

上司に連絡して病院を探し、タクシーを呼ぶ。

 病院は半日掛かり、昼過ぎに終わった。

 骨に異常は無かった。会社はそのまま休み、タクシーで家に帰る。

 仙道さんに連絡を入れて、今日の予定はキャンセルして貰った。



*****



 夜、仙道さんから連絡があった。

「仕事終わったから、何か買って行くよ」

有り難かったけど、申し訳無くて遠慮した。

「ご飯、ちゃんと食べた?」

「家にあるものを軽く」

「買い物、行ける?」

「、、、」

「必要な物有ったら教えて」

そう言われて、何か食べる物をお願いして、住所を送った。

 仙道さんは、一時間程でタクシーで来てくれた。

 玄関を開けると、すぐに包帯に気付いて心配している。

「晩飯は?」

と聞かれて

「軽く、、、」

と答えると、キッチンの流しにあるカップ麺のゴミに気付いた。

「、、、お米は?」

「冷凍庫に、、、」

カップ麺のゴミを見られて恥ずかしくなった。仙道さんは

「冷蔵庫開けても良い?」

と聞いて返事を待った。

「大丈夫です」

と返事をすると、冷蔵庫の中を確認してから、買って来た物をしまう。

 それから、スーパーで買って来た肉と野菜で生姜焼きを作ってくれた。



*****



 仙道さんは、食器を洗いながら

「シャワーは浴びたの?」

と聞いてくれた。

「お風呂場で転びそうだから、今日はいいかな」

僕は正直、トイレに立つのも億劫になっていた。

「じゃ、俺もソロソロ帰ろうかな、、、」

あ、、、帰っちゃう、、、。

「明日、休みだよね?」

そうです?だから、今日ご飯に、、、

「あ!」

「?」

「今日は、僕がご馳走する約束だったのに、、、」

落ち込んで項垂うなだれる。

 仙道さんは、にっこり笑ってくれた。

「怪我してるんだから、気にしないで」

優しい、、、。

「包帯、直そうか?」

隣りに座って、気に掛けてくれる。

 帰らないで欲しい、、、。少しでも長く一緒にいたい。

「お願いします」

足!汚いかな?

「やっぱりシャワー浴びて来ます。足、汚れてるかも、、、」

つい、足先を隠す。

「一人で大丈夫?一緒に入って手伝おうか?」


えっ?!


 仙道さんの顔は、純粋に心配だからと書いてあった。僕は一瞬でもエッチな想像をしてしまい、顔が赤くなって来た。

「ごめんなさい、変な想像しちゃった」

口に出さなければ良かったのに、つい言ってしまう。

 仙道さんが意地悪な顔をした。

「変なって、どんな?」


うぐっ、、、。遊ばれてる気がする。


ふふ。仙道さんがイタズラっぽく笑った。

「包帯外しても良いの?」

「はい。湿布貼り直すので」

そっと手を伸ばして包帯を外す。包帯を外しながら、巻いて行く。器用だな、、、。

「湿布、外しても良い?」

「お願いします」

仙道さんの手が素足を触る。ああ、ほら、、、。また、僕の顔が赤くなる。

 素足を仙道さんが撫でる。そっと優しく、、、。それだけなのに、ゾクゾクして、、、ちょっと

困る。

「まだ少し、腫れてるかな」

僕だけが、仙道さんに翻弄されてる感じがして、何だか淋しかった。

「仙道さん?」

「ん?」

と顔を上げた。近いな、、、。

「好きな人とはどうですか?」

「うん、、、順調」

「そうですか、、、」

僕の中の好きが、ザワザワしてる。

「立てる?」

「大丈夫です」



 何時もなら簡単なシャワーも、思った以上に時間が掛かり、身体はあっという間に冷えてしまった。しっかり拭けない所があって、どうせパジャマを着るからと諦めた。

 お風呂場のドアを開けると、廊下に仙道さんが立っている。

「ど、どうしたんですか?」

「いや、転ばないか心配で、、、」

「ありがとうございます」

仙道さんが優しく笑った。

「どういたしまして」



*****



「湿布、貼らないとね」

仙道さんに言われて、先刻さっきの事を思い出した。ちょっと顔が赤くなりそうで、恥ずかしい。

 自分でやろうとしたら、彼は何も言わずに湿布のビニールを剥がし、準備を始めた。剥がした時と同じ様に貼り、包帯を巻いて行く。

「上手ですね」

「保健委員だったんだ」

伏目がちで作業をしながら言う。

「だから、、、」

「嘘だよ」

「え?」

「保健委員なんてならないよ。はい、終わり」


ふっ。


「何ですか?それ。仙道さんも、そんな冗談言うんだ」

冗談が似合わなくて、何だか可愛い、、、。

 仙道さんがニコニコしている。大好きだな、、、。

「ビール飲む?買って来たんだ」

「飲みたいです」

怪我をしてから1日経ったし、痛みは無いから飲んでも良いかな?

 仙道さんがスッと立ち上がり、キッチンに向かう。

「グラス、借りても良い?」

「どうぞ」

グラスを二つとビールのロング缶を持って来る。僕の横に座り、ロング缶を開けるとグラスに注いでくれた。


 泡の量が丁度良い。綺麗なバランスで、ビールを飲みたくなるグラスだ。


「明日、休みなんだ。、、、このまま泊まっても良いかな?」

「え?本当ですか?」

凄く嬉しい、、、。だけど、好きな人がいるんだよね、、、。

「あ、恋バナしたいんですか?」

「恋バナ?」

「仙道さんの好きな人の話し」

「、、、聞きたい?」

、、、聞きたく無い、、、。

「聞きたいです。どんな人ですか?」

ああ、何でこんな事言うんだろう。仙道さんの好きな人の話なんて聞きたく無いのに、、、。

 彼は、グラスを手に取り

「俺の好きな人はね、、、」

と話し始めた。



**********



 俺は昔から、好きと言う言葉が言えない。

 好きと言わなければ、この関係は何時までも続くから。仲の良い友達、仲の良い仕事仲間、そう言う関係で充分だと思っていた。、、、今までは。

 でも、田原くんは違った。どうしてかは分からない。仲の良いお客さんから、もっと親しい仲になりたかった。

 彼が宮沢くんを好きなのは知っていた。表情を見れば分かる。

 でも、宮沢くんが広瀬くんと両思いなのも気付いていた。可哀想にと思いながら、ホッとした。

 彼にヤキモチ妬いて貰いたくて、広瀬くんをデートに誘った。

 彼が宮沢くんと店に来る度、少し胸が傷んだ。

 知らない男といるのを見た時も、自分が傷付いたのが分かった。


 好きと言ったら、彼は振り向いてくれるだろうか、、、。でも、怖かった。


 中学生の頃、大好きだった幼馴染に打ち明けた。彼なら俺の告白を茶化したりしないと思ったからだ。

 でも、彼は俺を受け入れられなかった。少しずつ俺から離れて行って、俺の名前は出さずに誰かに相談したんだろう。

 教室の中で、「ホモ」「ゲイ」「同性愛」の言葉を聞く機会が増えた。

 其れ等は、俺に向けられた言葉では無かったけど、耳に届く度に緊張して、上手く笑えない時もあった。


 それから、俺は誰かと付き合うとかパートナーを探すと言う事を諦めた。



 だけど、、、



*****



「俺は好きな人の事、よく知らない。店のお客さんで、一緒に飲みに行く事もある。会社員って事は知ってるけど、どんな仕事をしているか知らない。、、、ただ、一緒にいたいなって思う。名前も苗字しか知らないし、好きな色とか分からない。車の免許を持ってるかも知れないし、持って無いかも知れない、、、」

「じゃあ、もし、付き合う事になったら、相手の事、沢山知る事が出来ますね」

「でもその人が、告白は怖くて出来ないって言っていた。俺も告白が怖いんだ、、、。だから、俺達の関係はずっとこのまま、、、。大人なのに、怖いって恥ずかしいだろ?」


 俺は、少し手が震えるのが分かった、、、。


「僕ね、、、仙道さんが好きです」

「え?」

「えっと、仙道さんに好きな人がいるのは知ってます。でも、僕の気持ち、知って貰いたいなって、、、。仙道さんなら、僕の気持ち分かってくれる気がして、、、。僕が告白したからって、貴方なら傷付ける様な事しないかなって思うから。付き合いたい訳じゃ無いんです。ただ、知って欲しかっただけ。これからも一緒に飲んでくれるだけで良いんです。、、、もしかしたら、、、僕が辛くなったら、ちょっとずつ離れてしまうかも知れないけど、、、。って?!仙道さんっ!どうしたんですかっ?!」


 涙が、、、。


 涙が止まらない、、、。指先を少し動かすだけで、嗚咽が漏れそうで、涙を拭けない、、、。


「仙道さん、、、触っても良いですか?」


 瞬きをしたら、更に涙が溢れた。


 田原くんは俺をそっと抱き締めてくれた。


「辛かったんですか?大丈夫ですよ。仙道さんは良い人だから、きっと幸せになります。僕が好きになった人です。自信を持って下さい」


 田原くんの身体が触れた部分から、温かい何かが流れて来るみたいだった。


「きっと、仙道さんが好きな人も、仙道さんの事、好きですよ。告白して貰えると良いですね」


田原くんは静かに静かに抱き締めたまま、俺の背中を摩る。


「でも、僕ともちゃんと飲みに行って下さい。たまにでも良いから、、、」


彼の声が震えている。泣いてるみたいだ。俺は少し身体を動かし、離れた。涙を流しながら笑ってくれる。


 そっと口付ける。


「もう、仙道さん、ダメですよ。キスは好きな人の為に取っておかないと、、、」


 もう一度、する。


「だから、仙道さん、ダメだって、、、」


顔を歪ませて、泣き笑いをする田原くん。


「だって、、、好きなんだ、、、」


 三度目のキス。


「好き?」


「苗字しか知らない、田原くんの事が」


 四度目のキスをしようとしたら、田原くんからキスをされた。いきなりで、ちょっと、、、あの。

 逃げようと動くと、ギュッと抱き締められて、少し開いた唇から彼が、、、。あ、、、ちょっと、田原くん?!



**********



 ふふ、、、



 僕の世界が薔薇色になった。

「良かった、、、告白して、、、」

仙道さん、、、修平さんは、隣でウトウトしている。

「ん?何?」

修平さんは、腕枕した僕の肩を抱き、そっと頭をくっ付ける。頬で、僕の髪をスリスリと撫でる。

「好きって言えて良かったな、って」

「うん、、、ありがとう、、、」

彼は、僕の捻挫した足を気遣う様に丁寧に扱ってくれた。



*****



 僕は仕事が終わると修平さんの店に行く。

「お疲れ様」

と言って、カウンターの一番端に座らせてくれる。そこにはいつも、「予約席」のプレートが置かれてあって、僕が行く時は、僕の為にキープしてあるみたいだ。

「彰くんは、熊が好きなの?」

「どちらかと言えば猫が好きですけど?」

「大きなぬいぐるみ、いたよね?」

僕の部屋の、、、。

「あれ、宮沢くんが広瀬くんと喧嘩した時にクレーンゲームで取ったヤツです」

あ、、、カウンターの中で、修平さんの動きが一瞬止まった、、、。

「欲しいですか?」

「いや、えっと、、、」

「ヤキモチですか?」

「、、、ごめん。何か、凄く目立っていたから気になって、、、」

「本当は、広瀬くんに上げた方が良いと思ってたんですけど、宮沢くんが意地張って僕に、、、。そう言えばあの日、、、修平さん、広瀬くんとデートだった」

「駅で会った日?」

「修平さん、僕のお気に入りの店に広瀬くんと行ったんですか?」

「行ってないよ。行く前に君達に会ったから」

僕はホッとした。

「あのぬいぐるみ、やっぱり広瀬くんが持つべきですよね、、、。でも、うちにいたから広瀬くんも嫌かな?」

「じゃあ、店に飾る?入り口横に置いて、今日のお薦めを知らせるのどうかな?」

「良いんですか?」

「うん、今度持って来なよ」

良かった、、、実は僕も気になってたんだ、、、。



 このお店は、昼間は明るいランチのお店で、夕方5時からは、少し落ち着いたアルコールを提供するお店に変わる。

 店内の明かりを間接照明に変えて、音楽も小さくジャズを流す。

 お客さんが来た時も、昼間は大きな声で出迎えてくれるけど、夜はそれが無い。だから僕は気付かなかった。香椎くんが来た事に。


「あれ?田原?」

と、近寄って来て

「ここ、良いかな?」

と聞いて来た。ダメとも言えず、香椎くんの顔を見ていたら、カウンターの中にいた修平さんに

「生ビール一つ」

と頼みながら椅子を引いた。

「何飲んでるの?」

しまった。話しに夢中で何も頼んで無かった。

「あ、モスコミュール一つお願いします」

「田原と会えるなんて嬉しいな。このお店よく来るの?」

「うん、ランチに来るし、夜、飲みに来る事もあるよ」

「じゃあ、此処に来たら田原に会うチャンスあるのかな?」

「お待たせ致しました。生ビールです」

カウンターの中から、修平さんが生ビールを出す。次いで、僕のモスコミュールを作ってくれる。

 僕は、今まで誰かと付き合った事が無いから、こう言う状況の時、どうしたら良いか分からない。

「モスコミュールです」

「ありがとうございます」

「田原、乾杯」

と言って、香椎くんが生ビールを少し持ち上げ、一気に飲む。修平さんは他のお客さんに呼ばれて、少し横に移動してしまった。

「乾杯」

僕が一口飲むと、信じられない位アルコールがキツくしてあった。修平さん、、、怒ってる、、、。

「ね、何かお薦めある?ツマミ頼もうよ」


 当たり障りの無い会話をしながら、僕はずっと修平さんを気にしていた。香椎くんは距離が近くて、偶に僕に触れる。頑張って、アルコールをキツくしたモスコミュールを飲み終え、次は違う物を頼もうとしたら、そっと二杯目のモスコミュールが来た。

「あ、ありがとうございます」

一口飲んだら、やっぱりアルコールがキツい。修平さんってば、、、。

 僕が手洗いに立つと、後から修平さんが入って来た。僕は、ちょっと酔いが回っていた。

「修平さん?今日のモスコミュール、いつもと違いますね」

手を洗う。水が気持ち良いな、、、。

「ごめん、、、。意地悪した」

うん、そんな気がした。

「この間、駅であった人だよね?」

ペーパーで手を拭く。

「うん」

「彰が告白した人でしょ?」

僕は修平さんに抱き付く。あ、、、僕の大好きな香水の香り。

 彼は棒立ちで、僕に腕も回してくれない。

「修平さんにも告白したけど、、、」

オズオズと腕を回し、そっと抱き締めた。

 彼の唇にそっとキスをすると、僕の頬を両手で包み、そんなキスじゃ満足出来ないと言う様に、熱いキスを返して来た。

 彼の勢いに身体を押され、流しに押し倒されそうになりながらキスをする。誰か来たらと思うと、凄く怖いのに嬉しかった。

「今日、泊まって、、、」

キスの後、僕を全身で抱き締め、小さく言う。

「良いよ」

「8時までだから、待ってて、、、」

「うん」

と返事をすると、修平さんはゆっくり身体を離して仕事に戻って行った。


 修平さん、ヤキモチ妬くんだ、、、。


 そう思ったら、何だか嬉しかった。


 席に戻ると、香椎くんが

「この後どうする?」

と聞いて来た。

「ごめん、デートがあるんだ」

香椎くんがびっくりした様な顔をする。

「ここで待ち合わせ?」

「ううん、目の前の人が僕の彼氏」

「え?」

彼は修平さんを見ると

「本当に?」

と振り向いた。

「カッコ良いでしょ?」

「、、、カッコ良い、、、」

僕と修平さんを見比べて

「マジかぁ、、、」

と項垂れた。


 香椎くんは8時前に帰って行った。最後に

「二人、お似合いだよ。いつまでも仲良くね」

と言ってくれた。


 修平さんの仕事が終わるのを待ち、二人で店を出る。修平さんが作ってくれたアルコールの所為で、身体がフワフワする。外階段で2階に上がり、彼が鍵をカチャリと、開けた。


 玄関に入ると安心したのか、壁に寄り掛かってしまう。修平さんが僕の鞄を受け取り、そっと床に置く。

「彰?大丈夫?」

僕は修平さんに腕を回す。

「大丈夫な訳無いでしょ?こんなに酔わせてどうするの?」

ふふふ。可笑しく無いのに笑ってしまう。

修平さんが真面目な顔になる。

「だって、彰が悪いんだ」

と言ってキスをする。靴、脱ぎたい、、、。

「僕、何も悪い事して無いと思う」

香椎くんとも距離を起きたかったし、愛想笑いもしなかった筈だ。

 腰をグイッと引かれ、慌てて靴を脱ぐ。

 キスをしながら、修平さんは玄関に一番近い部屋のドアを開ける。キスをしたまま、手探りで灯りを点け、僕の上着を脱がす。ネクタイを抜かれ、入り口すぐのベッドに押し倒された。



「彰が可愛いのが全部悪い、、、」



そう言って、ゆっくりゆっくりキスをした。




めでたし、めでたし。

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