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迷宮の知者、再び。ー迷宮に取り憑かれた心と共に、二度目は人として生きていくー  作者: 宵永青空


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8/26

殺すということ

 この【ステータス鑑定】は改めて凄いと感じた。


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 名前:ライカ

 異名:なし

 技能:【敏捷―B】【略奪―D】【地形把握―S】

 【地図作成―B】【投擲―B】

 状態:健康

 習得適性:【短剣術】【気配感知】【罠感知】【???】【???】【???】


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 以前確認した時は【逃げ足】だったものが【敏捷】に変化し、C→Bへと進化している。世界樹からの能力である【投擲】を獲得したおかげか【短剣術】が解禁されている。

 他にもダンジョンに入ったからか【気配感知】【罠感知】も開示されている。

 素晴らしいな、おい。


 そして、目の前という目の下というか。

 丘ではなくもはや崖下に散らばっている風鳴石を拾い集めている。

 1つを拾ったら、次の風鳴石までの足捌きに無駄がない。素早い。

 おおよそ15個ほど拾えばいいため、そろそろ引き上げてもいいだろう。


「 ライカ、それで終わりでいいぞぉ〜!!」

「分かったぁ〜!!」


 大声で聞くと、大声で返答される。

 風鳴石の欠片回収【E】はこれにて完了。

 5分ぐらいで終わったんだが、すげぇな。

 スルスルと岩場を駆け上り、俺の隣までノンストップでたどり着く。

 クルッとターンをし、「にひひっ」と笑いかける。


「ダンジョンなんだから、油断するなよ」


 額にデコピンをし、注意する。


「うう……分かった」


 ちょっと恨めしめな目で訴えてくるが、心を鬼して反応しないでおく。


「さて、帰るか」


 もう既にシルフの粉集めは終わっている。

 こちらもライカにとって造作もないことだった。


(あとはどうやって戦闘経験を積ませるか……だよな)


 新人冒険者の壁のひとつ。生物の殺傷。

 手応え、血の匂い、動かなくなった身体。

 特に自分が命を奪った感覚がなれないということ。

 感覚を受け止めきれず「向いていなかった」と剣を置く者は多い。

 そのまま別の職業に転職することも多々ある。


 結果、冒険者を辞める者は後を絶たない。

 この世界では、それもまた正常な選択だった。


(ライカにはそうはなって欲しく……)


 油断。

 そうとしか言いようがない。

 気づいたら、既に大きな口を開けた獣が目の前にいた。


水壁(ウォーターウォール)


 襲ってきた四足歩行の魔獣は首と胴体が離れ、息絶える。

 ライカは何が起こったのか分からず、ただその場で佇むのみ。

 そんなライカに一喝する。


「ライカ、俺の後ろにつけ!! 今すぐ!!」

「はい!!」


 気を取り直したライカは俺の服の一部を掴む。

 ざっと確認すると、周りに見える姿は5体。


 風狼(ウインドウルフ)

 50〜70匹程の群れを形成し、3匹〜7匹程に固まって狩りをする。

 今、伏せているのが1匹。

 6匹の狩りチームと遭遇したようだ。


「ライカ、俺1人では捌けない。ナイフを投げて数匹を足止めしてくれ。できるよな?」

「うん、足引っ張らないようにする」

「いい子だ」


 空中に水の球を数個生成し、手前の目につく2体の風狼に発射する。

 案の定、躱されるが問題ない。


「水壁」


 再度、詠唱する。

 水の球だったものが今度はおよそ2m×1m程の板へ変化し、風狼の動きが鈍る。


「水壁」


 地面の下から湧き上がるように現れた水の壁が刃のように風狼2匹の首を断つ。

 最初の1匹目と同じ手口だ。

 思わず舌打ちしてしまう。


(決定打がこれしかねぇ。大人しく引いてくれねぇかな)


 残り半分となったが、戦意は失っていない。

 むしろ仲間がやられたことに唸り声が強くなっている。


「水壁」


 三度、魔法を発動させるが躱される。

 こちらからの魔法発動範囲から離れ、様子を伺っている。

 魔物ながら、実に冷静だ。


「ライカ、このままじゃジリ貧になる。逃げるぞ」

「うん、あっちでいいの」


 指差す方向は帰り道の方角。

 ではなく、先程の風鳴石を集めていた場所。

 さすが、【地形把握―S】。悪くない選択だ。


「ああ、だが腹を括れよ」

「……」

「お前も殺さなきゃ、生きて帰れないぞ」

「わ、分かって……」


 俺たちがもごもご話している中。

 3匹の風狼が三方向から近づいてくる。

 それを確認し、すかさずライカに数個の石ころを握らせる。


「投げながら、逃げるぞ!!」

「はい!!」


 俺はライカを抱き抱え、1匹に大きめに作った水の球で拘束する。

 残り2匹にはライカの石ころで牽制しつつ、距離を稼ぐ。

 先程の崖下に着くと、すぐさまライカを乱暴気味に下ろす。


「ごめんな、ライカ」

「はい、大丈夫」

「あとナイフ出しとけ。飾りじゃないんだろ」

「は、はい」

「悪いな、まだ……いや、何でもない」


 言葉を飲み込み、姿勢を正す。

 対面する3匹の風狼。

 内の1匹は既にずぶ濡れになったせいでかなり疲弊しきっている。


 大きな2つの球を作り、俺達と風狼の真上で衝突させる。

 擬似的に雨状態を作り、俺は小さな水弾を数十個漂わせる。

 突撃し疲弊しきっていない2匹に集中的に狙っていく。

 たまに危ない所はライカの石ころによって事なきを得ていた。


「ライカ、俺の所に来い!!」

「はい!!」


 ライカがこちらにたどり着くのを確認する。

 本日最大規模の水の球を作り出す。

 そして、視界でギリギリ捉えられる程のそれを地面に叩きつけた。


 風狼達は水の勢いに耐えられず、そのまま崖下へと飲み込まれていく。

 そして、辺りは完全に静かになっていた。


「よし、ライカ。もう……」


 後ろからの気配。

 風狼のチームの最大数は7匹。

 倒したのは6匹だった。

 つまりは、そういうことだ。


「あ」


 頭を完全に被りつかれたと思った。

 しかし、いつまでたってもその感触はない。

 地面へ視線を向けると、倒れ伏した風狼。

 首筋に1本のナイフが深々と刺さっている。


「ライカ、お前……」


 風狼の目がまだ開いている。

 それをライカはただ見つめるのみ。

 まだ実感がないのだろうか。

 いや、こればっかりは逃げられない。

 逃げたら、また逃げまわる日々に戻ってしまう。


 殺すとは、冒険者にとって生きること。

 殺すとは、相手から全てを奪うこと。


 全てを分かる必要はない。


 だが、殺すことに慣れても忘れてはいけない。

 人であれ、魔物であれ。

 それは同じく一つの命なのだから。


 ライカは、首筋に刺さったナイフの柄を握ったまま動かなかった。

 指先が白くなるほど力を込めているのに、震えはなかった。


「……取れない」


 小さく、困ったように呟く。

 泣き声ではない。怯えでもない。

 ただ、どうしていいか分からない声だった。


 風狼の血が、刃を伝って地面に落ちる。

 それを拭おうとして、ライカは外套の裾で何度も擦った。

 だが、赤は広がるばかりで、消える気配はない。


 俺は静かに刺さったナイフを外し、血を拭って鞘に戻してあげる。

 ライカの指先は、酷く冷たくなっていた。


「ライカ」


 名を呼ぶと、ようやくこちらを見る。

 理解していない。

 だが、分かっている目だった。

 取り返しのつかないその感情を。


「これが、殺すということだ」

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