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迷宮の知者、再び。ー迷宮に取り憑かれた心と共に、二度目は人として生きていくー  作者: 宵永青空


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もったいねぇ

 【ステータス鑑定】を手に入れた。

 目の付いた人物を冒険者の有無に関わらず視ていた。

 この技能に関して、自分なりに解釈したことは3つ。


 まずは、1つ目。

 鑑定する際に魔力を消費しないということ。

 無制限で他人のステータスを視ることができる。非常に有能だ。

 俺自身が情報処理が適切にできれば、何十人何百人とステータスの中身が見放題ということだ。


 次に、2つ目。

 なんか悲しいかな。

 技能と習得適性が噛み合っていない人が多い。


 ローブ纏った垢抜けていない少年。技能は【土魔法―F】。

 習得適性が【剣術】【槍術】【弓術】を持っている。

 明らかにお前は前衛で戦うべきだろ。


 盗賊風の女冒険者。【忍足―E】【罠探知―B】【空間認知―S】。

 習得適性が【支援魔法(物理)】【支援魔法(補助)】。

 盗賊を兼業しながら支援魔法士として、仲間にバフも掛けられる。

 パーティ滅茶苦茶安定するだろ、これ。強いが過ぎる。


 主婦風の穏やかな女性。【洗濯―C】【清掃―B】【ご奉仕―S】。

 最後の一つは目を瞑るとして、習得特性が凄まじい。

 【火魔法】【土魔法】に加え【並行術式】。加えて【???】が4つ程。

 もう魔導学園に入学してくれよ、頼む。

 多分、いや絶対にA級まで成れるぞ、本当に。



 といった具合に。何だかなぁ……何だろう。

 視えないことに救いがあるのだと理解した。

 こんなにもどかしい気持ちは初めてかもしれない。


「もったいねぇな……」


 分かる。

 自分のやりたいことがあるのは、さ。

 俺もダンジョンが大好きだ。

 たとえ適性がなくても、誰になんと言われようと。

 どうしてもダンジョンに行くだろう。

 死ぬなら本望だとも本気で今も思ってる。

 実際に1度死んではいるんだが、ははっ。


 同時に、客観的に見てみると辛いものがある。

 本人が望んでも、それ以上何もない。

 成長の余地がない。詰みがある。

 その時にはどうしようもない状態になる。

 気づくなら、早ければ早いほどいい。


 今回《世界樹より恵を込めて》で得た能力は俺に必要なものが手に入った。

 だが、多くの人々はそうとは限らない。


 実際にすれ違う冒険者のステータスを確認してみると、明らかに浮いている技能がある者が多い。

 おそらく、恩恵が外れたのだろう。


 そう考えると、運が良かった。

 そう思わずにはいられない。


 最後に3つ目。

 多くの制限が掛けられていること。

 どういう意味かというと、認知できる範囲が限定されている。


 見られる技能の数は最大10つまで。

 11つ目以降は全て【???】となる。

 習得適性でも【???】があるが、それとは意味合いが違うように感じている。


 前者は意図的に隠されており、後者はまだ本人が認知していないが故に非表示となっている。技能に至っては情報過多にならないための処置なのではないかと考えている。


 大体スキル構成を見れば、何を使うかはおおよその推測がつくものだからな。

 仕方ない。魔法士としての観点でいえば、何の魔法が使えるかが知れる項目も欲しかったと思ってしまう。


 まあ、贅沢な悩みってことだな。

 といった感じで、俺からの感想は終わろうと思う。


「さて、どうっすか……何だ、あいつ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 名前:ライカ

 異名:なし

 技能:【逃げ足―C】【略奪―D】【地形把握―S】【地図作成―B】

 状態:健康

 習得適性:【???】【???】【???】【???】【???】【???】


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 年の頃は十三、四といったところだろうか。

 まだ少女と呼んで差し支えないはずなのに、目つきだけがやけに大人びている。

 いや、腐りかけているの間違いか。


 痩せ気味の体躯。

 背は低く、肩幅も狭い。

 顔立ちは整っている。

 栄養の足りていないせいか頬はこけ、唇の色も薄い。

 獲物を狙う時だけ、琥珀色の瞳が鋭く細まる。


 髪は煤けた灰褐色。

 元はもっと明るかったのだろう。

 洗う余裕もなく、ところどころで癖が跳ねている。

 長さは肩にかかる程度で、邪魔にならないよう雑に紐で縛られていた。


 服装は色の抜けた外套に、擦り切れた短衣。

 袖や裾は何度も継ぎ当てされ、布の種類がまちまちだ。

 それでも導線を邪魔しないよう、無駄な装飾が一切ない。

 足元は底の薄い革靴。

 音を立てないために、わざと削られているようだ。


 腰回りには、小さな布袋、細い縄、用途不明の金属片。

 即座に取り出せる位置にぶら下がっている。


 一見すると、ただの痩せた浮浪児。

 だが、視線の動き、立ち位置、足の向き。

 あまりにも慣れすぎている。

 全てが逃げのために組み込まれている。


 路地裏に立たせれば、次の角を曲がった瞬間。

 もう姿はない。そんな手合いだろう。

 面白い。


(仕掛けてみるとするか)


 駆け出し風の冒険者の脇を通り過ぎ、軽くぶつかる。

 向こうから舌打ちされる。

 気にせずに掠めとった布袋から銀貨数枚を抜き取る。


「おい、落としたぞ」


 駆け出し冒険者の元へ小走りし、奪い取った布袋を返す。

 乱暴にひったくると。「ああん、てめぇのせいだろ!!」と捨て台詞を吐かれる。

 人混みへと消えていった。

 良心が痛まないヤツを選んで良かった。


 盗みとった銀貨を自分の空の布袋に全て入れ、腰に括り付ける。

 それから、浮浪児もといライカの近くへと向かった。


 彼女は大通りの隅、石壁と同化するかのように座り込んでいた。

 視線は伏せているが周囲を舐めるようにキョロキョロと動かしている。

 人の流れ、足運び、財布の位置。

 そして、逃走ルートの確保を怠っていない。

 見事なものだ。


 俺はわざと、歩調を緩めた。

 布袋が軽く揺れるように腰を動かし、銀貨が触れ合う音を殺さない。

 刹那だった。肩が軽く触れた。


「……はえぇ、全く」


 いつの間にか、布袋が消えている。

 何をされたか分からなかった。

 実に手慣れている。

 振り返った時には、背中が小さくなっていた。


(さて、どの道をゆくか次第)


 俺はその場で追わない。

 追えば逃げる。

 逃げを提示すれば、優秀な泥棒は最適解を選ぶもの。


(右の路地裏……なら……)


 この時間帯、この人通り。

 彼女の体格、速度、技能を当てにするなら【地形把握―S】。

 経路は一つのみ。


 俺は反対方向へ数歩進み、左の角を曲がる。

 崩れかけた石段を上がっていく。

 集合住宅のベランダに登り、乾いた洗濯物の影を抜けて飛び降りる。


 着地後、怒号が飛ばされるが俺には関係ない。

 そのまま道なりに進み、一本奥の路地へ。

 息を整え、壁にもたれかかる。


(ここで待ってれば、いずれ来るだろう)


 数拍。ほんの数秒。

 足音はほとんどしない。

 だが、足運びの癖で分かる。

 角を曲がってきた彼女と目が合った。


「やあ、早かったな」

「……っ!?」


 一瞬の硬直。

 次の瞬間、踵を返そうとする。


「やめとけ」


 低く、短く言った。


「その先、袋小路だ。その身体じゃ登れる壁でもない」


 彼女の足が止まる。

 わずかに視線が揺れた。


「……なに」


 警戒心むき出しの声。

 だが、トゲはない。むしろ震えている。

 俺は両手を軽く上げ、顔を横に振る。


「取った銀貨、返せとは言わねぇよ」

「……は?」

「むしろ、感心した。二流の盗賊よりずっとな」


 彼女の手が、無意識に布袋を握りしめる。

 逃げ道を探す目。

 だが、もう退路はないと理解している。


(……流石としかいいようがないな)


 俺は一歩、距離を詰めた。


「なぁ、ライカ」


 名を呼ばれた瞬間、彼女の瞳がわずかに見開かれる。

 先程よりも震えた声が聞こえる。


「な、なんで、名前……を……」

「視えるんだよ。色々とな」


 人差し指を伸ばし瞼の下に置く。

 誤魔化しても仕方ないが、説明のしようもない。

 沈黙が辺りを支配する。


 これ以上は何もできやしないだろう。

 それに俺はあまり回りくどいことは得意ではない。

 素直に口にすることにした。


「俺と、冒険者にならないか?」


 路地裏に風が抜けた。

 彼女は怯えながら俺を見た。


「……意味、分かんない」

「まあ、普通はそういう反応だろうな」


 俺は肩をすくめる。


「でもよ、今はいいさ。けど、いずれ逃げ切れない日が来る」


 彼女の視線が、僅かに落ちた。


「盗んで終える人生か」


 少しだけ間を置いた。


「自分の命を賭けて終える人生か」


 ライカは顔を上げた。


「答えは今はいい。その銀貨、今日はめいっぱい使え」


 彼女は何も言わなかった。言えないに近いか。

 だが、布袋を握る指の力がほんの少し緩んだ。

 俺は踵を返す。


「明日の朝。またここで逢おう」


 そう言い残し、その場を後にする。

 追ってこない足音を背に感じながら、俺は小さく息を吐いた。


(もったいねぇ、もったいねぇよな)


 才能はすべての人には与えられない。

 狭い世界にいる少女に与えられたあの技能は、そうだ。

 ここで終わらせるべきではない。


(最初は前衛が欲しかったが、しゃーねぇな)


 救える何かがあるのなら、救うべきだ。

 少なくとも、間違ったことはしていないはず。


(待っているといいが、そん時はそん時だ)


 久しぶりに期待している自分。

 少しだけ、不安でしょうがなくて。

 楽しみにしている自分がいた。

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