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迷宮の知者、再び。ー迷宮に取り憑かれた心と共に、二度目は人として生きていくー  作者: 宵永青空


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《世界樹より恵を込めて》

 恩恵型ダンジョン《世界樹より恵を込めて》。


 世界樹の中に存在し、幹の内部全てがダンジョンとなっている。

 恩恵型ダンジョンのため、罠や魔物といった危険が存在しない。


 そして、恩恵型ダンジョン全てに通じることでもある。

 永続的な能力を1つ付与されるというもの。

 ただどのような能力が授けられるかは不明。

 一貫性がないこともまた特徴だ。


 ある者は鋭利強化の能力を。

 ある者は水生成の能力を。

 ある者は清掃の能力を。


 といった具合に。不思議なもんである。


 都市のド真ん中にあるはずなのに、喧騒は掻き消された静謐な空間。

 草の絨毯が出迎え、天井に敷きつめられた光苔が陽の光のように輝いている。

 足首ほどしか埋まらない小川の流れており、安らぎの音色となっている。

 来たのは2回目だが、自然と背筋が伸びてしまう。


 無数にわたる枝葉が絡み合い、そこらかしこから生えている。

 そこに実っている果実を食すことで能力が付与される。


 果実は大小さまざま。色も千差万別。

 みずみずしいものもあれば、萎んでいるものもある。


 同じような果実を食べても、与えられる能力は真逆なこともある。

 まさしく無作為である。能力は即発現する。

 どのような能力かは冒険者ギルドで確認しなければのがネックだろう。


 俺より先に入場していた冒険者たちは、各々に散らばっている。

 果実を前に頭悩みしている者が多い。

 横目にしながら、通り過ぎ、お目当ての果実を探し回る。

 散歩をするかの如く吟味を始める。



 艶やかに光を反射する真紅の果実。

 鼓動のように脈打つ魔力が伝わってくる。

 違う。


 枝の先で揺れる半透明の水色の果実。

 触れただけで冷たさが掌に残る。

 違う。


 棘だらけの殻に覆われた暗紫色の果実。

 危険な香りというか、禍々しい何かを感じる。

 違う。


 熟れすぎて垂れ下がった橙色の果実。

 随分甘味そうだ。ここが世界樹じゃなきゃ食べてた。

 違う。


 枝の陰で静かに神々しく光る乳白色の果実

 触れた瞬間、あの柔らかな感覚が……。

 oh......ち、違うよな。勘違いなんだ。

 ……違うったら、違う。


 小さく硬くほとんど魔力を感じない果実。

 昔食べたのはこんな感じだったはずだったはず。

 得たのは【気配遮断】だったな。

 違う。


 根元近くに落ちかけひび割れた果実。

 魔力がごく僅かに存在している。

 まもなく、というところだろう。

 違う。


 誰にも見向きもされない色褪せた果実。

 魔力はなく、香りもない無色不透明さ。

 これだ。間違いない。



(まさか、もう1度世界樹に来れるとは思わなかった。悪いな《空斬》。お前の経験談を参考にさせてもらうぜ)



 お目当ての果実を指で優しく握る。

 余っている片方の手で枝を抑えつつ、果実を捻る。


「さあ、何が得られるかな」


 S級冒険者《空斬》。風属性の魔剣使い。

 B級の実力しかなかった彼がS級まで飛躍した理由。

 ここで得た能力のおかげだった。


 【風切】風で練られた魔剣を生成できる。

 生成できる数は魔力量に依存し、同時に生成出来るのは5つの制限がある。


 パッと見でみれば、風の魔法剣を生成できるだけの能力だ。

 しかし、この魔法剣が規格外だった。


 通常であれば、生成自体がかなりの魔力を消費する。

 生成した魔法剣に自身の魔力を注ぎ込むことで、やっと自律して動かすことができ、各々の属性効果を発動できる。


 【風切】は生成した瞬間から自律し、風魔法を発動させることができた。

 消費魔力も通常の魔法剣よりも少なく、持続的に戦闘が行える。

 つまり、最大火力を常に出せるということだ。


 彼は未だに現役であり、最強の冒険者として度々名を挙げられるのを耳にする。

 昨日の冒険者ギルド内でも雑談の中で名が挙がっていた。


 彼との関係? まあ、《疾風怒濤》でしたものでな。

 よく勝負を挑まれて大変だったのは良い思い出だわな。

 俺の昔話はこの辺で。

 《空斬》から聞いた話はこうだ。



 ''「剣だけは自信があった。魔法の適性がないって分かった時から、剣一筋だった。それだけで一番になれると。それだけで十分だと思っていた。けど、俺がたどり着けたのはB級上位。それ以上に……A級には成れなかった。他の剣士は俺よりも強く、S級まで上り詰めたヤツもいるのに。

 消えてしまいたかった。剣でしか存在証明ができない俺にとって、それは人生の否定に他ならなかった。そんな状態でラウルに来て、《世界樹より恵を込めて》で……初めて魔法を使えるようになった。ああ、俺は剣以外のもので頼るしか強くなれないのだと絶望した。そして、誇りを捨てた。

 強くなりたかったんだ。どうしても。その時、食べたのが俺だった。何ものでもない無職不透明な……俺自身、をな。なんでか知らねぇが風属性だった。まあ、その敬意みたいもんだ。それ以上もそれ以下もねぇよ」''



 この話を聞いた時、ただただ驚いた。

 他人など気にも留めない。

 ひたすら自身の強さを求める男がそんな気持ちを抱くこともあるのだと。


 その想いが形として現れた。

 答えは【風切】だった。


 俺自身も何もないこの状態で願う。


 かの《空斬》が願ったのは、

 己の弱さを変えるための力。

 願えば、与えられる。ともすれば。


(俺が願うのは、他人を導く力。俺一人だけ強くても何もできやしないのは、分かりきってる。だから、仲間を強くできる力を。ほんの僅かでもほんの少しでも助けられる力を。俺に)


 世界樹が答えてくれるのならば。

 俺は欲しい。他人を視る力を。

 そう願い続けながら、果実を咀嚼し続けた。


 果実を食べ終えた瞬間、特別な変化はなかった。

 以前は何かが染み込んできたかのようなくすぐったい感覚に包まれた。

 しかし、何もない。

 胸が熱くなるわけでもなく、魔力が溢れる感覚もない。

 身体能力が向上した実感も、視界が澄むこともなかった。


「……まあ、1度冒険者ギルドで確認とするか」


 世界樹の恩恵は即発現するはすだ。

 なのに、何も起きない。


 周囲では、俺が食べたことを皮切りに果実を手に取るものが増えていた。


「すげぇ、剣が手に馴染んでる!! 軽い!!」

「水が勝手に溢れて……うわぁ!!」

「なんだこれ、何も起こらない。まさか、ハズレか?」


 果実を食べた冒険者たちはそれぞれの変化に戸惑い、歓声を上げている。

 俺は何だか取り残されたような気分だった。


 小さく息を吐く。

 まあいい。2度目だしな。

 元々、派手な力を求めて選んだわけじゃない。


 そう思い直し、視線を上げた。

 近くにいた冒険者の姿がほんの一瞬だけ違って見えた。


「……んあ?」


 気のせいかと思い、目を擦る。

 だが、再び見た瞬間。

 確信に変わる。


 その冒険者の頭上に逆三角形の物体が上下に揺れている。

 そして、その冒険者の名前らしきものが視えていた。

 冒険者の名前を心の中で呟くと、頭の中に文字情報が自然と浮かび上がる。


 名前。

 異名。

 技能。

 状態。

 習得適性。


(……は?)


 思わず、もう一人の冒険者に視線を移す。

 そうすると逆三角形の物体はその冒険者に照準を合わせる。

 名前が浮かび、読んでみる。同じだ。

 条件反射のように、情報が流れ込んでくる。


(……っていうことは、だ)


 自分自身に逆三角形を向ける。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 名前:アリウス・べべ

 異名:《迷宮の知者》

 技能:【迷宮盲信―EX】【ステータス鑑定―EX】【精神耐性―S】

 状態:健康

 習得適性:【水魔法】【???】【???】【???】【???】【???】【???】【???】【???】【???】【???】【???】【???】【???】【???】【???】【???】【???】【???】


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……ああ、なるほど」


 ようやく、腑に落ちた。

 視える。


 他人が現在どんな状態にあるのか。

 何を持っているのか。

 そして、何が得意になるのかを。


 俺が願ったのは、他人を導く力。

 どうやら、世界樹は見事それに答えてくれたらしい。


 派手さはない。正直地味過ぎる。

 だが、これは間違えようがない。


 誰かの才能を、伸ばしていける力だ。

 俺だけでは、あんな御伽噺の化け物は勝てない。

 静かに息を整えた。


「ようやく始まるな。第二の人生」


 これは強い。いや、重いのかもな。

 世界樹を見上げ、無意識に一礼する。

 思わずそんな行動した自分に疑問が浮かぶ。


 生まれ変わりとはいえ、1人の人間に2つの能力を授けてくれた世界樹。

 世界樹という存在の大きさに感謝せざるしかなかった。

 そんなところだろうか。


「俺の与えられた任務がおもくそ重いな、本当に」


 まあ、愚痴はこぼさせてもらうがな。

 こうして【ステータス鑑定】の恩恵を受けることに成功したのだった。

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