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迷宮の知者、再び。ー迷宮に取り憑かれた心と共に、二度目は人として生きていくー  作者: 宵永青空


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二度目の生

 ディーさんは話を続ける。

 

「まあ、そういうことでさまざまな恩恵を授けようと思っていたんだけどさ。ちょっと難しい事情があってね。前世の記憶をそのまま受け継がせると、新しい肉体に相当な負担を与えてしまう。日数が経過すれば、精神と身体にも定着していく。しかし、能力の付与はこの空間でしかできない上に、ここに来る条件は魂のみの状態であることだ。だから、死なないと来られないように定義づけされている」


 ディーさんが何か言ってる。

 だが、こっちはもう情報でお腹いっぱいだ。


「なるほど。分かったようで、分からんです」

「前世の記憶。それと情けで魔法書を1つ差し上げようと思う。どうだい?」

 

 軽くスルーされたな。アリウスさん、ショック。

 だが、簡潔に言ってくれた。優しい。


 しかし、十の天災相手に今の知識と魔法書一つは無責任としか思えない。

 七大迷宮を一人で攻略しろと言われた方がまだ現実的だ。

 冗談と言われれば、まだ許せる。


 だが、そんな雰囲気ではないんだよな。

 しょうがねぇ。


 もう死んじまった奴のことより、新しく生まれ変わったことだ。

 幸い前世の記憶も引き継がせてもらったのは僥倖だろう。

 またダンジョンに潜れるなんて、なんて素晴らしいんだろうか。


「分かりましたよ。なら……」


 だが、魔法の大半が使えないのは痛い。

 ずっと魔法刻印を道具に付与したのをぶっ放すだけだった。

 また学び直さないとな。

 まずは、魔術書の探索から始めるか。


 後々には魔法刻印の魔法書・魔晶で製作されたペンも手に入れたいところだ。

 よし、初めの魔法はあれしかない。

 

「水の魔法書で」

「やはりね」

「まあ、疾風怒濤とは呼ばれていたが、本当に得意なのは水なんですよ。何回もいいますがね。水魔法最大の使い手が圧倒的過ぎて、仕方なくってわけです」

 

 ディーさんは手元に本が現れ、こちらに差し出してきた。

 水の魔法書である。

 それも初級から上級までの内容が書いてある非常に高価なものだ。

 素直に嬉しいです、ディーさん。ありがとうございやす。

 

「さて、話は以上かな。他に何か聞きたいことはあるかい?」

「それなら、2つ。1つはお願いですけど」

 

 ディーさんは微笑を崩さない。

 構わず口を開く。


「転生先の場所は選ばせて欲しい」

「まあ、それくらいならお易い御用だよ」


 少し間を置いて、場所を指定する。


「ありがたい。でしたら、へーズビッツ大陸のユラルでお願いしたいです。そこで世界樹から能力を授かりたいんだ」

「ふむ、それでもう1つは?」


 恐る恐るといった口調で尋ねた。

 

「ディーさんは俺が十の天災に勝てると、本当に思っているのか?」

 

 言葉は思ったよりも早く返ってきた。

 

「うん。君なら出来ると信じているよ」

「……さいですか」

「もう、いいかい?」

「ええ、今世こそやり遂げますよ。《水師》も、打倒《十の天災》も」

 

 俺の返答を聞くと、ディーさんはこちらに背を向けると歩き始めた。

 俺はその様子をただ見つめ、何も尋ねることはなかった。

 数メートル程の距離が離れたくらいでディーさんは振り返った。

 

「では、アリウス・べべ。頼みますよ」

「また会えたら何処かで」

 

 すると視界が暗転し、意識が途絶えた。






 眼が覚める。

 地に足が着いている感覚があった。

 そこには見慣れたはずの街並みが映る。

 懐かしさと同時に、胸の奥がざわついた。


 世界三大大陸の1つであるへーズビッツ。

 その西部最大都市・ユラル。

 初級ダンジョンを始め、上級ダンジョンも多く点在している。

 大陸最大規模のダンジョン都市としても、有名である。

 多種多様な種族が集まり、上位冒険者も多く滞在している。


 街の中心には天へも貫くのでないかと聳える巨木がある。

 それをこの都市の人々は『世界樹』と呼んでいた。

 今回、ここを始めに選んだ理由でもある。


 世界樹を中心に主要な建物が内側から立ち並ぶ。

 役所や裁判所等の公的機関。

 冒険者ギルド、魔導研究所、銀行等の民間機関。

 それから、大商会や中小商店が続いていく。


「15年ぐらいか? 随分とまあ……懐かしい」


 以前よりも強く感じる活気が肌を撫でる。

 高い建物が増え、人通りの多さを肌に感じた。

 居住地エリアも広がっており、冒険者ハウスらしき場所も所々に見受けられる。


 ふと頭を搔くと、いつもの感触がない。

 肩までかかった髪はなく、襟足やもみ上げもきっちりと刈られている。

 抜け毛を確認するにどうやら前世と同じ黒髪のようだ。


 体型は一回り小さくなっていた。

 というよりも、筋肉量が落ちたというべきか。

 後衛職とはいえ、斥候や戦闘にも積極的に参加していた。

 故に最低限の肉体造りは余儀なくされたものだ。


 また鍛え直しか。しゃーねぇが。


 服装はあからさまな新人冒険者。

 焦げ茶の外套、薄手のシャツと黒のパンツ。

 肩かけのカバンの中にはなけなしの銀貨と銅貨が数枚。

 回復ポーションと魔力ポーションがそれぞれ3つずつ入っていた。

 そして、約束通り、水魔法の魔導書が入っていた。


 魔法習得は今日の夜にでもやり始めるか。


「まずは、世界樹のためにギルドからか」


 慣れ親しんだ足取りで大通りを進む。

 ずっと昔に通っていた道具屋が今も尚のこと営業中だった。

 心の中で安堵が零れる。

 他の店舗も確認していく。


 それから、すれ違う冒険者のレベルを探る。

 下級冒険者6割。

 中級冒険者0.5割。

 上級冒険者3割。


 アリウスがいた頃の上級冒険者は2割程度であった。

 最近見つかった上級ダンジョンのおかげで流れ込んだことが見て取れる。

 どうやら、稼ぎの良い狩場のようだ。


「ここも汚ったないな。前よりも」


 冒険者ギルドの入口に悪態つき、中へと入る。

 罵声混じりの雑踏の中、受付へと向かう。

 ちっぱい受付嬢に手続きを済ませてもらう。

 なんと10分にも満たない時間で終える。

 その短い間に俺が死んでからまだそんなに日が経っていないことも知る。


 ちなみに名前は『エレウス・べべ』にした。

 この後のことを考えると、アリウスと名乗るはリスクが高いと直感したからだ。

『迷宮の知者』を知っている人物は良いヤツも悪いヤツも多いからだ。


「すんません、《世界樹より恵を込めて》はもう入場可能でしょうか?」

「はい。どの等級の冒険者でも入ることができます。入場費用や手続きもありません」

「ん? はい、ありがとうございます」


 軽く手をフリフリして、見送ってくれるちっぱいちゃんにこちらもフリ返す。

 今度は冒険者ギルドの資料室へと歩を進めた。


(昔は費用もバカ高くて、手続きも3ヶ月以上かかることもザラだった。なんでか知らないが、領主も変わってなかったのにな。時代ってヤツか……にしても長生きだな、ここの領主)


 資料室も大分改築されていた。

 鬱蒼とした室内だったにもかかわらず、今や図書館と遜色がないほどに綺麗だ。

 スペースも約4倍ほどに広がり、職員が配置されていた。

 乱雑に置かれていた資料も整頓されており、ダンジョン毎にまとめられている。

 下級ダンジョンから上級ダンジョンまで昇降順に並んでいる。

 余りにも綺麗になった光景に感動を覚えていた。


(なら、ギルドの入口も何とかしてくれよ)


 そう悪態をつくのは忘れない。

 受付の職員に声を掛ける。


「こんにちは。資料室の利用で有料のものは何がありますか?」

「ええっと、利用は無料になります。ですが、中級ダンジョン以上の資料は等級によって利用制限しています。まずは、中級ダンジョンを閲覧出来るのはD級以上の冒険者の方になりますので、そちらを目指すのがよろしいかと思います」

「ご丁寧にありがとうございます。では、下級ダンジョンの《小鬼の宴》と《風吹く丘の協奏曲》借りていきますね」

「ええ、ご自由にどうぞ」


 会釈し、目的のダンジョン2つを手に持つ。


(あの職員は冒険者上がりじゃ無さそうだな。なら、行けるな)


 他人を死角にし、挟み込むように《豚貪丼》のダンジョン資料も取り出す。

 適当な場所に座り、下級ダンジョンの2つから読み始めた。

 自分の知識を照合し、改めて資料に目を通した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ・下級ダンジョン《小鬼の宴》

 ボスの変更。

 ーゴブリンデストロイヤーに変更。


 魔物の出現が上がっている。

 ーゴブリン

 ーゴブリンソードマン

 ーゴブリンマジシャン

 ーゴブリンフェンサー


 死亡事故の増加傾向アリ。主にF級冒険者。


 上記のことから、特殊ダンジョンへの切換を検討中。


(うーん、そろそろ中級ダンジョンにした方がいいだろうな。レベルの適性が合ってない)




 ・下級ダンジョン《風吹く丘の協奏曲》

 変更なし。


(まあ、ここは変わらずってところか)



 ・中級ダンジョン《豚貪丼》

 一階層にて、下記の魔物の家畜化に成功。

 ーアサルトボア

 ービクピック

 よって、一階層での魔物との戦闘を禁じる。


 十三階層にて、隠し通路発見。

 下記の魔物が更新。

 ーオークソルジャー

 ーオークジェネラル

 ーオークワイズマン


(当てが外れたな。《豚貪丼》の一層でレベル上げ難しいのか……二階層も同じだが、検問が厳しくなってそうだな。他はまあ何とかなるか)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 一通り資料を目に通し、椅子にもたれかかる。

 目と目の間を指で揉み込み、息を吐いた。

 さて、改めてやることを整理しようか。


 《小鬼の宴》は使い捨て武器の調達に適している。

 粗悪なナイフや拙い作りの矢を拾おうと考えている。


 《風吹く丘の協奏曲》は風魔法の練習に最適。

 【ウィンドダンス】の魔導書を宝箱から見つけることも目的だ。

 俊敏性を大きく向上させ、身のこなしのパフォーマンスが良くなる。

 自分のみならず、仲間にも付与できる上に低い魔力で使用できる。

 何としても、欲しい。


 そうこう考えている間に、時計をチラリと見る。あと10分程で17時。

 もう特に考えることもない。


 中級ダンジョンの資料を返す都合上、17時までダラダラと過ごした。

 そうこうしている内に通路から、受付とは別の職員が現れる。


 目視で確認し、席を立つ。

 受付の入れ替わる隙に中級ダンジョンの資料を戻す。

 横目で見ると、次直の受付の人とキャッキャと雑談している。


(心配いらなかったか)


 ふうっと息を吐き、資料室を後にする。

 まずは世界樹で能力をもらってから考えるとしよう。

 そう思い、今日の宿を模索し始めた。

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