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迷宮の知者、再び。ー迷宮に取り憑かれた心と共に、二度目は人として生きていくー  作者: 宵永青空


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ただ傍にいさせて

「……ここに残れ」


 エレウスは、そう言った。


「……話は……終わりだ」


 エレウスが部屋を出ていった後。

 私は、しばらく動けなかった。

 けれど、ドアを開けて叫んだ。


「エレウス、待って!!」


 エレウスは振り返ることなくそのままいなくなる。

 音は聞こえない。足音も、声も、何もかも。

 ただ静かだった。


「……え?」


 気づいたら、座り込んでいた私から声が漏れる。

 自分の声なのに、少し遠くに聞こえた。


「……ここに残れ」


 言葉だけが部屋に残っている。

 残れ。どうして。

 私は、一緒じゃダメなの?


 胸の奥がじわりと重くなる。

 さっきまでエレウスが立っていた場所を見ていた。


 部屋は何も変わりない。

 簡素な机。畳まれた寝具。壁際に立て掛けられた双竜。

 全部、いつも通りだ。


 なのに。

 胸の中だけが、ぽっかり空いていた。


「……どうして?」


 もう一度、呟く。

 どうして、嫌われた?

 私、何かした?


 昨日はD級冒険者になった。

 エレウスはちゃんと褒めてくれた。

「ライカ。成長したな」って。


 それなのに。どうして。

 胸がきゅっと縮む。


 エレウスとの日々を思い出す。

 忘れるわけない。



 初めて会った日。

 エレウスから銀貨を盗んだことから始まった。

 路地裏で声をかけられ、冒険者に誘われた。


 意味がわからなかったけど、次の日に同じ場所でエレウスを待ったこと。

 冒険者になった日。盗人を辞めた。

 世界樹に入って果物を食べたこと。

 あの時のクラーケン丼の味は忘れられない。


 ''「言いたくないことも、あるよな。そりゃ」 ''


 ''「生きなきゃ、もう何もできねぇ」''


 ''「これが、殺すということだ」''


 ''「成長したな。お前」''


 ''「頼りにしてるぜ、相棒?」''


 思い出される言葉の数々。

 一つ一つのことが私を支える大事な欠片たち。


 私を育ててくれた。

 毎日楽しくさせてくれた。

 今まで生きてきた十四年が報われていくみたいで。

 天涯孤独の私に居場所をくれた人。


 私はエレウスを追いかけてきた。

 そうすれば、もっと楽しいって信じていたから。

 そう思っていたのに……どうして……。


「……頑張ったのに」


 小さくこぼれる。


 短剣も正確に投げられるようになった。

 図書館で勉強して文字も前より読めるし、書ける。

 計算もできる。だから、もうぼったくられない。


 一人で依頼も受けられる。

 冒険者として生きられるようになった。

 全部、エレウスが教えてくれた。


 それでも、足りなかったのかな。

 私なりの頑張りじゃダメだったのかな。


 胸が苦しい。

 息が浅くなる。


 いなくならないでほしい。

 また1人に戻りたくない。

 話さなきゃいけない。


「……あっ」


 ふと浮かんだ。

 それは冒険者ギルド。

 エレウスなら、そこへ向かったはずだ。


 考える前に、身体が動いた。

 靴を履く。双竜は持たない。


 扉を開ける。走る。

 階段を下りる。

 外に出ると、街の音が押し寄せてきた。


 人の声。荷車の音。

 いつものラウルの街。

 でも、今はそれどころじゃない。


 私は走った。

 息が切れる。胸が痛い。

 それでも、止まれなかった。


 嫌だ。絶対に、嫌。

 このまま、終わるのは嫌だ。

 冒険者ギルドの建物が見えた。


 その前にいた。

 エレウスの背中。

 見つけた瞬間、胸の奥で何かが弾けた。


 考えない。もう考えられないよ。

 ただ走るのみ。

 そして、抱きついた。

 腕に力を込める。


「……エレ、ウス……!!」

 

 離れない。

 離したくない。

 もう離すものか。


「……ライカ」


 名前を呼ばれる。

 それだけで涙が溢れてしまう。

 止まらない。それじゃ、ダメ。

 言わないといけないことがある。


「私ね……」


 声が震える。


「私、エレウスと……いだい」


 上手く喋れない。


「私、頑張った、よ」


 続ける。


「なのに、どうして……」


 心から何かが溢れてくる。


「私のこと、嫌いになったの」


 言葉が勝手に湧いてくる。


「お願いだから、エレウス」


 叫ぶ。


「置いてかないでよ!!」


 喉が痛い。


「私の手、離さないでよ!!」


 私の言葉ぶつけるんだ。


「私を一人にしないでよ!!」


 想い届いて。お願い。


「……私をエレウスの傍にいさせてよ!!」


 服をぎゅっと掴む。強く。

 破れるんじゃなかってぐらいに。

 しばらく、返事はなかった。


 どれくらい経ったかなんて分からない。

 必死で何も考えられない。

 全てぶつけたんだ。私の想ってること。

 どうしても言わなきゃいけなかったこと。


 全部、伝えたよ。

 それでも、届かなかったら……


 背中に腕が回る感触。

 抱きしめられる。

 強くはない。

 けれど、確かだった。


「……ごめんな」


 低い声。

 少し震えている。


「ライカ。こんな、こんな俺だが……」


 続きの言葉が出ない。

 その間が怖かった。


「……一緒に来てくれるか?」


 顔を上げる。

 涙で滲む視界の向こう。

 エレウスが迷った顔をしていた。


 いつもの顔だ。

 私は泣きながら笑った。


 届いたんだ。私の想い。

 でも、ちゃんと。届いてくれた。


「……うん」


 もう一度、ぎゅっと抱きついた。

 今度は離さない。強く、強く抱きしめて。

 エレウスがどれだけ突き放しても。


 追いかけ続ける。

 想いを届け続ける。

 今、そう決めた。


 エレウス、ありがとね。

 これからも、ずっと。

 ただ傍にいさせて。

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