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迷宮の知者、再び。ー迷宮に取り憑かれた心と共に、二度目は人として生きていくー  作者: 宵永青空


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反省会

 ラウルへと戻ってきた俺たちは、その足で冒険者ギルド本部へと向かった。

 街の中心に構える石造りの建物は、相変わらず人の出入りが多い。


 ライカは反対の手を痛む肩に添えている。

 サガルフは両腕をダラリと下げて歩く。

 痛みが響いているのだろう。2人の足は遅かった。

 度々行き交う人達にぶつかり謝り倒している。


 お前らを頑張らせ過ぎた。

 次は違う作戦と役立つ魔法を覚えておくとしよう。

 今回の俺は役立たずだったからな。

 なんか、俺だけ無傷ですまんな。マジで。


 昼と夕方の間に来たこともあり、中は閑散としていた。

 ゆったりとした空気が冒険者ギルドに流れている。

 俺はいつものちっぱいちゃんを見つけ、その列に並ぶが間もなく呼ばれる。


「次の方、どうぞ……ってエレウスさんじゃないですか。最近、めっきり逢いに来てくれなかったのに、あたしが恋しくなっちゃったんですか?」


 最近は依頼を受けず、ゴブリンの落とす武器を売り払っていた。

 よって冒険者ギルドからは遠のいていた。


「今日も相変わらずだな」

「どういう意味ですか〜バカにしてますよね?」

「いや、やかましいというか騒々しいというか」

「エレウスさん、世間ではそれはバカにしてるといいますよ」

「主語がデカい。主語が」


 いつも通りに交わす軽口の応酬。

 埒が明かないと思ったのだろう。

 ちっぱいちゃんは俺に問いかけてくる。


「それで依頼報告ではなさそうですね?」

「ああ《小鬼の宴》の踏破報告だな」


 俺はダンジョンに突入する前に記入した書類と討伐証拠としてゴブリンデストロイヤーの耳が入った布袋を差し出す。

 ちっぱいちゃんは慣れた手つきで受け取り、内容を確認し始めた。


「さすが準備いいですね」

「お褒めに預かり光栄だな」

「思ってないクセに。確認しますね」


 カウンターの奥で紙をめくる音がする。


「討伐証拠、問題なし。被害報告、軽微。同行者二名、負傷なし……と」


 一通り目を通した後、顔を上げた。


「こちら、正式に受理しときました。エレウスさん……はともかく、ライカちゃん〜初のダンジョン攻略おめでとうございます!!」

「……あ、ありがと、う?」


 後ろで待っていたライカはビクと驚く。

 目をぱちくりさせながらも、何とか返答する。

 ライカが完全ビビってるからやめてくれ。


「あんがとさん。テンションが高いな」

「だって、ですね」

「おん?」


 彼女は別の書類を引っ張り出す。


「エレウスさん、これまでの依頼評価がすべて良好。もちろん、ライカちゃんもです。今までの顧客との評価と合わせて下級ダンジョンの踏破実績が一件。規定により……」


 一瞬、間を置く。

 ちっぱいちゃんは告げた。


「本日付けでE級からD級冒険者へ昇級となりまーす、パチパチ!!」

「そりゃ、どうも」


 なるほど、テンションが高い理由はこれか。

 確かにおめでたいことだ。

 なんで受付嬢のあんたがそんな喜んでるんだ。

 まあ、可愛いしいいか。ちっぱいだけど。


「エルウスさん、ハイタッチしましょう。イェーイ!!」

「お、おう」


 ちっぱいちゃんが手のひらを差し出してくる。

 戸惑いながら手を合わせて軽く叩く。


「あれ、なんで引いてるんですか〜?」

「そりゃ、周りからの視線が寒くてな」


 周りにいた冒険者「何してんだ?」という目でこちらを見ている。

 両隣の受付嬢たちは「またやってるわ、この子」みたいな様子で見ている。

 ちっぱいちゃんの通常運転なのか。これ。


「あんたみたいな受付嬢見たことねぇよ」

「良い意味じゃなそうですけど」

「良い意味だよ。とっても、な」

「ともあれ、おめでとうございます」


 そう言って、ちっぱいちゃんは小さく微笑んだ。

 ……ちょっと、可愛いと思っちまった。

 話題を変えよう。そうしよう。うん。


「お祝いはありがたいが、聞きたいことがある。D級になると、中級ダンジョンに入れる以外に何ができるようになれるか教えてほしい」

「D級になると、受けられる依頼の幅が少し広がります。中規模の護衛依頼や複数人前提の調査、要は他のパーティと組む依頼の受注も可能になりますよ」

「制限区域は?」

「一部緩和されます。ただし、単独行動の範囲は変わりません」


 淡々とした分かりやすい説明だ。


「こちらが更新された冒険者証です」


 新しい証を差し出される。

 色合いが一段変わっているだけだが、それなりに重みを感じた。


「あんがと」

「今後も、安全第一でお願いしますね。まあ、心配していませんけどね。それに……」


 そこで一度、ちっぱいちゃんは言葉を切る。

 少しだけ視線を落とし、付け加えた。


「最近、街の地下や周辺で不穏な動きが多いので。無理は、しないでくださいね」

「肝に銘じとくわ。今日もあんがとさん」

「また私のところに来てくださいよ。絶対」

「世の中に絶対はねぇからな〜」

「あ、主語。主語が大きいです」

「へいへい、じゃあな」

「お疲れ様でした。また」


 そう言って「次の方、どうぞ」と業務用の声に戻る。

 カウンターを離れながら、サガルフが小声で言った。


「D級、ですか……」

「一歩前進だな」


 サガルフも一緒にD級に昇格した。

 俺達と組む以前の実績もそこそ積んでいたようだった。

 なんかお前の対応雑というか、空気だったな。

 ライカは冒険者証をじっと見てから短く頷いた。


「D級ってすごい?」

「まだ3ヶ月なのにD級は確かに早いわな。まだ通過点だが」

「うん、私ももっと頑張る」

「ほどほどにしとけ」


 通過点だとしても、確かに前に進んだ。

 それは素直に喜ぶべきだ。

 中級ダンジョンに入場できるようになったしな。


 疲れた2人を休ませるために冒険者ギルドを後にする。

 仮眠を取った後に今回の反省会としようか。



 《仔羊の憩い》の食堂は、夕方になると少しだけ騒がしくなる。


 木製の長机に素朴な椅子。

 壁には歴代冒険者の落書きや意味の分からない武勇伝が書かれ、酒に酔った冒険者の恥の跡が赤裸々に残されている。

 罵詈雑言が飛び交い、ウェイトレスのお姉さんが慌ただしく駆け回っている。


 いつも通りの光景だ。

 豪華とは言えないが落ち着く場所だ。

 これぐらいが丁度いい。飯も美味いしな。

 俺たち三人はいつも陣取る端の席に座っていた。


「それじゃあ、反省会だ」


 そう切り出すと、二人の背筋が自然と伸びる。


「まずはライカ」


 名を呼ぶと、ライカは小さく頷いた。


「何、話せばいい?」

「そうだな。初めてダンジョンの攻略した感想というか、ボスの感じとか。何でもいいさ、ライカが感じたことを正直言えばいい」


 言葉を探すように、少しだけ視線が泳ぐ。


「……怖かった。でも、前より……周り見えた」

「どの辺とかあるか?」

「エレウスの指示。サガルフ頑張って、捌く音」


 そこまで言って、言葉が止まる。


「ゴブリンの心臓を刺して、刺した、こと」

「なるほど」


 ライカにしては言語化を頑張った。

 要点は外していない。

 これ以上は意地悪が過ぎるな。


「俺の指示にも従って、ゴブリンデストロイヤーにもトドメを刺した。よかった点は2つ。ちなみにライカが自分で動こうとしていた時に動いてたら、ゴブリンデストロイヤーに叩きつけられてたからな。もっと判断できるようになったら、自力で動く練習をしような」

「うん。エレウスは正しい。分かった」


 ライカは嬉しそうとも緊張しているともつかない顔で、もう一度頷いた。


「最後はごめんなさい」

「肩を掴まれたことか?」

「……無理せず離れる、べきだった」


 ライカは顔を俯く。

 横に座るサガルフはそんなライカを見守る。


「サガルフとエレウスが危ないって、思った……気づいたら……もう掴まれてて……」

「分かってるならいい。小鬼だから許された。次は気をつけろ」

「……うん、エレウス。怒らない?」

「死んでねぇから大丈夫。この話はこれでお終いだ。分かったな?」


 その一言でライカの反省を終える。

 ライカはしょんぼりとした様子で頷く。

 どうやら、納得はしていないようだった。

 というよりも、自分の感情を上手く言葉にできない。

 そんな様子だ。だから、思ったことを口にする。


 「成長したな。ライカ」


 そう言うと、いつもの笑顔で「えへへっ」と笑う。

 そんな顔をされると嬉しいはずなのに、今はただ苦しかった。

 俺は視線を横に向けることにした。


「サガルフ」

「はい」


 背筋を伸ばしたまま、真っ直ぐこちらを見る。

 自分の番だと自覚したらしい。


「今回、自分の動きはどうだ?」

「敵の攻撃を受け止めきれない場面が多かったです。今までのゴブリンでは問題がなかったので、見誤りました。受け流しもできず無駄に体力を消耗しました。序盤で力を出し過ぎてしまい、後半の余裕が削られました。正直、死ぬかと思いました」

「自己分析は合格だ」


 サガルフは小さく息を吐いた。


「他にはあるか?」

「……連携です」


 一拍置いてから、続ける。


「僕が敵の攻撃を受けている間に、エレウスさんが判断して、ライカさんが位置取りし、攻撃を安定させる。これを練習してました」

「まあ、そうだな」

「それが今回は一度もできていませんでした」


 あの時のことを思い出そうと机の一点を見つめる。

 俺は軽く息を吐き、サガルフに言葉を投げる。


「確かにそうだが、そんなこと言ってる余裕がない相手だっただろ。それに後衛の俺は無傷で、ライカもそれまでは傷ついていない。盾役としては充分すぎる活躍だった。お前は頑張ったよ」


 サガルフは顔をあげる。

 うっすらと涙が浮かんでいた。

 おいこら、泣くな。無事に生きてんだから、問題ねぇ。


「エレウスさん、俺……これからも頑張ります……」

「ああ、お前に言うことは特にない。これからも頼りにしてる」

「はい!!」


 反省会としては、悪くない出来だ。

 今までのパーティメンバーのことを考えたら上出来も上出来。

 聞き分けが悪いヤツらばっかりだったからな。

 お前ら2人が純粋で助かってるよ、俺は。


「さて」


 足元に置いてあった布包みを引き寄せる。


「宝箱の中身だ」


 既に開けた後だが、食堂で改めて確認する。

 包みを解くと、革製の小手が姿を現した。

 ライカがじっとその様子を見つめる。


「まあ《小鬼の宴》の報酬だ」


 装飾はない。

 その代わりに内側には細かい魔力回路が刻まれている。


「軽装用だな。握力補助と衝撃吸収。派手さはないが実用的だ」


 俺はそれをサガルフの前に差し出した。


「サガルフ。お前のだ」

「俺のですか?」

「他に適任はいない」


 サガルフは一瞬戸惑う。

 すぐに立ち上がり、小手を受け取った。


「ありがとうございます。大切に使います」


 礼儀正しい姿勢で深く頭を下げる。

 装着してみると、サイズも合っている。

 宝箱から良いものが出て何よりだ。


「違和感は?」

「ありません。むしろ昔から使ってるかってぐらいに馴染んでます」

「そいつは良かったよ」


 ライカが少し羨ましそうに見ている。


「サガルフ、良かった」

「はい!! ライカさん!!」


 宝箱の中身は、それだけだった。

 だが、不満はない。誰も使えないこともザラだからな。

 宝箱の分配も終わり、咳払いする。


「んじゃ、次の話をする」


 俺は声を落とす。


「そろそろラウルを離れる」


 二人の動きが、ぴたりと止まった。


「南東の街、《レファル》へ向かう」

「……レファル。分かんない」


 ライカが小さく復唱する。


「小型から中型のダンジョンが多い。経験を積むにはちょうどいい」

「上級ダンジョンも……?」


 サガルフが静かに尋ねる。


「一つだけある」


 俺は少しだけ間を置いた。


「七大迷宮の一つだ。凶悪で有名なやつがな」


 二人とも、それ以上は聞かなかった。


「行くつもりもねぇし、行く実力がまずもってねぇから安心しろ。だが、あの街にいる以上、存在は無視できない。特に冒険者の方がだがな」


 ライカは首を傾げる。


「どして?」

「七大迷宮に挑むってのは相当高位な冒険者ばかりだ。それに英雄願望……ちょっと難しいか。えーと、目立ちたいヤツが多いから、絡まれると面倒くさいってところだな」

「うーん。分かんないけど、分かった」

「エレウスさんの言いたいこと分かりました。なるべく関わらないように努めます」


 説明し、2人の返答を聞く。まだライカには早かった。

 というより、連れていく気はないが……。

 話すのはもう少しだ。ここではない、はずだ。


「ラウルは、もう十分だ」


 それは決断というより確認だった。


「出る前にまだやることがあるがな」


 ライカと何を話すのかはまだ整理できていない。

 だが、話さなければならないことがあるのは確かだった。


 《仔羊の憩い》の食堂は、相変わらず賑やかだ。

 だが、その喧喧囂囂の中で俺は次の場所を示す。

 《小鬼の宴》の踏破を終え、D級冒険者となった。

 ラウルでの役目は少しずつ終わりに近づいている。


 次は街との距離を測る番だ。


 やることはあと2つ。

 まずは、【ウィンドダンス】入手。

 こちらは何日か集中して潜れば何とかなる。

 問題ないだろう。


 あとライカとの関係だ。

 もう先延ばしができないところまで来ている。

 明日、とっつぁんに聞いてもらうとするかな。

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