表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮の知者、再び。ー迷宮に取り憑かれた心と共に、二度目は人として生きていくー  作者: 宵永青空


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/26

休息日

 ライカが初めて《小鬼の宴》を行ってから、2週間が経過した。

 最近は毎日《小鬼の宴》の依頼を受けていた。


 今日は休息日だ。

 ラウルでの生活にも大分慣れてきた。

 少しずつリズムが生まれていた。


 休息日とはいえ、朝は早い。

 日が昇りきる前に目を覚まし、簡単に身支度を整える。

 魔法能力を取り戻すのと同時にラウル滞在中にやらないといけないことは多い。


 部屋を出ると、同時に隣の部屋からもドアが開く。

 眠たい眼をゴシゴシと擦りながら、こちらに顔を向ける。


「ほあ……よう、エルウス……」

「おはよう。今日は早いな」

「……だって、図書館の日」

「昼までやるのか」

「うん。字、まだへた……」


 そう言いながらも、どこか誇らしげだ。

 文字を書くことが「できない」から「できるようになりたい」。

 意識が変わっただけで人はここまで前向きになる。


 俺は今から《風吹く丘の協奏曲》へと向かう。

 風魔法の練習だ。

 風を感じ、流れを読む。


 水とは全く違う。

 形がない分、制御が難しい。

 まあ、でも、元は疾風怒濤なものでね。

 へへっ。褒めるなよ、照れるな。


 丘を吹き抜ける風に向かって、何度も魔力を放つ。

 刃にも、盾にもならない。

 ただの風の流れを作る。

 それをひたすら繰り返す。


 集中が切れたら、辺りを散策する。

 すると、宝箱を見かけることはある。

 だが、目的の【ウィンドダンス】の魔導書はまだ見つからない。


「……まあ、そう簡単にはいかねぇか」


 そう呟いて、息を吐く。焦りはない。

 ただ、確実に積み上げていくだけだ。

 そうしてまた風魔法の練習に戻るのを繰り返す。


 俺の休息日はこんな感じで終わる。

 一方でライカの休息日はハードだ。


 午前中は図書館。

 冒険者の身分を手に入れたライカは、街の公共機関を利用できるようになった。

 そこで文字の読み書きを独学で学んでいる。

 分からない箇所は、暇そうな再雇用の職員に頼んで教えてもらっているようだ。


 最近は食堂のメニューなどの名称ぐらいは分かるようになっていた。

 知らない言葉はよく質問されるようになった。

 生活レベルが着実に上がっている。

 喜ばしいことだ。


 午後は訓練。

 最初の頃は都市の空き地で短剣を振り、投擲練習をしていたらしい。

 しかし、それを見ていた市民からの通報により衛兵が駆けつけた。

 冒険者ギルド経由に連絡を受けた俺はライカに迎えに行った。

 今後は、冒険者ギルドの訓練室を使うように注意し案内した。


「ここ、広い……」

「好きに使え。ただし人に当てるなよ」

「大丈夫……もう下手じゃない」


 短剣を握る手つきは、もう完全に初心者ではなくなっていた。

 振りの速度や次の動作に移るまでのラグの少なさ。

 投擲の精度も少しずつ安定してきている。


 武器の扱いや魔法の扱いは繰り返しあるのみ。

 努力は裏切らない。間違いなく。

 まあ、結果が出るまで時間がかかるんだがな。



 夕方になれば、宿に戻る。

 扉を開くと、食堂の喧騒が一気に流れ込んでくる。


 馴染みの笑い声。

 食器が乱暴に触れ合う音。

 肉と酒の匂い。ドンと置かれる樽ジョッキ。

 すっかり慣れた光景だ。


 《仔羊の憩い》に宿泊し始めて、気づけば二ヶ月が過ぎていた。


 旅人や商人、冒険者が主な客層だ。

 短期滞在の者も多いが、逗留組も少なくない。

 顔を覚え、一言二言挨拶をし、時に飯を囲う。

 この宿はもはやラウルでの居場所になっていた。


「お、帰ってきたか」


 声をかけてきたのは、金髪の伊達男。

 B級冒険者『クライズ・ヘンドレソ』。

 テーブルには既に酒瓶が一本空いている。


「相変わらず早ぇな」

「休息日だからな。だらだらする趣味はねぇ」


 向かいにはD級冒険者『ロイン・パスダータ』が座っていた。

 今日も見た目だけなら完全に女の子だ。

 手元の皿は山盛りだ。

 胸にも栄養いってくれと心から願ってる。頼む。


「エレウスさん、お疲れさま」

「おう。食うか?」

「遠慮なく〜」


 この2人は俺たちが来る前からここに逗留し続けている冒険者だ。


 クライズはC級冒険者パーティ『飛翔土竜』リーダー。

 よくパーティ内の女性陣とのいざこざを愚痴られる。

 いや、あれはもはや惚気だろ。

 なんだ、ボディタッチが多いって。童〇かよ、お前は。


 少し遅れて、ライカも食堂に顔を出す。

 図書館から直帰してきたのだろう。

 手にはメモ帳を抱えている。


「ただいま」

「おう。今日はどうだった」

「……焼き鳥はもう鳥じゃないって知った」

「何だろう、鳥ではあるんだが」


 クライズが吹き出す。


「いいじゃん。世界が広がってる証拠さ」


 他愛のない雑談が続く。


「焼き鳥といえば、《くたびれ亭》が一番だと思うのだよ」

「うんうん、同感〜」

「あそこのうめぇよな。特に揚げた手羽先がやべぇ」


 カリカリに揚げた手羽先に降り注がれる秘伝の甘だれ。

 想像しただけで脳内にあの味が広がる。


「ライカも、行きたい」

「ああ、今度連れて行ってやるよ」

「じゃあ、僕も僕も〜ダメかい?」


 ロインは前のめりながら、人差し指で自分を指す。


「奢らんからな」

「いいよ。僕たちが卸しているところだから、安く済むもんね」


 紹介が遅れたが、ロインはC級冒険者パーティ『この指とまれ』所属。

 主に採取や魔物肉の納品を行っている。

 いくつかの商店と業務提携しており、定期的に卸している。


「ロイン、俺とは行かないのかい?」

「嫌だよ。クライズさんのパーティメンバーにボコボコにされたくないからね〜」

「俺、あいつらのせいで他の女の子と話せないんだぜ。受付嬢にも色目を使われるからって建前上の話すらさせてくれない。辛い」

「おい、クライズ。周りを見てみろよ」


 クライズは周りを見渡す。

 隣接する全て卓の男性から険しい目で睨まれている。

 いや、恨めさと羨望の眼差しも入り交じっている。

 涙目になって酒煽ってるやつもいる。


 だよな、分かるぞ。お前の気持ち。

 腹立つよな、こいつ。


「くそっ、ここにも俺の味方はいないのかっ!?」

「だから、惚気んなって。お前らもそう思うだろ?」


 各方向の席からはヤジが飛ぶ。


「自慢話を不幸みたいに語るんじゃねぇ!!」

「いっつも羨ましい話しやがって!!」

「年齢=彼女いない歴34歳を舐めるなぁ!!」

「セリカちゃんを俺の嫁にさせろ!!」

「なんでだろな!! 酒が!! 酒が止まらねぇ!!」


 ロインは口元を手で隠し、もう片方の手で腹を抱えて笑う。

 ライカは何事もなさそうに食事を続ける。

 よく見ると口角がかすかにあがっている。

 始めはこの喧騒加減にビクついていたが、今ではすっかり慣れてしまった。


「普通に女の子と話したいだけなんだよ!! なんでこんなにヘイトを向けられてんだよ!! おかしいだろ!!」

「お前、もう黙ってろよ」


 クライズはぎゃあぎゃあと騒ぎ続け、しばらく周りからのヤジも止まらない。

 ちなみにクライズはA級冒険者候補として、準A級冒険者とも呼ばれる内の1人。

 純粋にバカ強いから誰も暴力沙汰を起こそうとはしない。

 だから、ずっと女々しいというか残念なことを宣い続けられる。


 そんな中、少し離れた席から視線を感じた。

 痩せた青年が、こちらを気にしながら何度も目を向けている。

 装備は古いが、手入れはされている。冒険者だ。


 クライズの騒ぎが落ちつく。

 青年は意を決したように立ち上がり、こちらへ歩いてきた。


「……あの、すみません」


 声は少し震えていた。


「席、いいですか」

「構わねぇよ。いいよな?」


 俺は周りのメンバーに確認すると首を縦に振る。

 青年は深く頭を下げた。


「俺、『サガルフ・ビザッツ』って言います。E級冒険者です」

「エレウスだ」

「……ライカ」

「やあ、サガルフ。もしかして今日で終わり?」

「お前があの……命があって良かったな」


 俺たち2人の自己紹介を済ませると、事情をお察しの2人が口々に言う。

 サガルフに話を促すと、ぽつりぽつりと話し始めた。


 組んでいたパーティが、下級ダンジョンで壊滅状態になったこと。

 仲間たちが重症を負い、冒険者家業が困難になったこと。

 明日には田舎へ帰る予定だということ。


「最後にいつも楽しそうな皆さんと話したくて」


 沈黙が落ちる。

 俺は彼の装備と掌を見る。

 前に出て殴られてきた身体だ。

 手の全ての指にタコができている。


「なあらまだ冒険者はしたいのか」

「しかし、一人では何も……」

「だったら、まだ終わっちゃいねぇ」


 サガルフは目を見開いた。


「俺たちと組まねぇか」

「……え?」

「俺はお前とパーティを組みたい」


 ライカが小さく息を呑む。

 クライズはニヤリと笑った。

 ロインはニコニコと様子を見守る。


「急だな」

「いつも通りだ」


 サガルフは俯き、しばらく黙り込んだ。

 年齢を見るにまだ20歳にも満たないだろう。

 初めてのパーティが壊滅し、田舎に帰るのなんてよく聞く話だ。

 だが、こいつは面白い。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 名前:サガルフ・ビザッツ

 異名:なし

 技能:【不動ーS】【剣術ーE】【盾術ーB+】

 状態:健康

 習得適性:【???】【???】【???】


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 見たことのない技能だが、おそらく防御時に発動する類のものか。あるいは防御系統の技能の成長率を上げてくれるものなのか。


 E級冒険者にしては、異常な技能レベルだ。

 突然降って湧いた人材。

 しかし、決めるのはサガルフ自身だ。


 サガルフは、ゆっくりと顔を上げる。


「……お願いします」


 深々と頭を下げた。

 内心でガッツポーズをする。


「明日から行けそうか?」

「はい」

「《小鬼の宴》だ」

「分かりました。任せてください」


 ライカが俺を見る。

 不満そうではないが、よく分からない表情だ。


「……仲間?」

「勝手に決めちまって、悪いな」

「ううん、エレウスが決めたこと。間違いない」


 そう答えると、ほんの少しだけ安心したように頷いた。


「なんかそういうところがカッコいいよな、エレウスは」

「僕もそう思う。女性だったら、惚れてるもんね」

「ロイン。俺は今のお前でも全然……」

「きっもいから、ダメですぅ~」


 ロインには振られたが、こうして明日の予定が決まった。

 新しい仲間が増える予定がな。

19:00更新ではなく、22:00更新に変更します。

何度も変更してしまい、申し訳ありません。 

それでも、読んでくださりありがとうございます。

これからも是非よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ