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迷宮の知者、再び。ー迷宮に取り憑かれた心と共に、二度目は人として生きていくー  作者: 宵永青空


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てめぇの都合

※この先に残酷な表現及び猥雑な表現が含まれます。

 食事中の方や気分が優れない方は状況が落ちつきましたらお読みください。

 悲鳴はいつの間にか聞こえなくなっていた。

 経験上、この場合大抵はもう生きていない。

 だが、ライカは足を止めずに走り続けている。

 俺も向かわざるを得ないだろう。


 通路の向こうから光が漏れている。

 洞窟の広間にライカと同時に踏み込む。

 そこには地獄があった。


 漂う血の臭い。

 壁に叩きつけられた血痕。

 勝った気でいるゴブリン達は愉快そうだ。


 もう動かない肉塊を弄ぶ。多分4人分。


 ケタケタ笑いながら、もう動かないそれをナイフを何度も振りかざす。


 そこから離れた場所で四肢を切り落とし、ムシャムシャと頬張るゴブリン。


 聖職者だろう少女は死んだ後に貞操を失う。

 ゴブリンの激しい息遣いと等間隔にぶつかる肉音。

 上からも下からも乱暴に叩きつけられている。


 びちゃびちゃと棍棒で赤い液体が広がる床を棍棒で何度も叩いている。

 その先にはボコボコにされた鋼の鎧と人であった何かの姿があった。


 いつ見ても胸糞が悪い光景だ。クソッタレ。


「間に合わなかったか」


 そう思った瞬間。

 かすかな声が残っていることに気づく。


「うっ……うう……」


 まだ、生きている。この状況で、か。

 一人の少年が膝をついている。

 その周りをすでに勝利を確信した目をしていたゴブリン達が鑑賞している。

 汚い声を飛び交わせながら、楽しそうに。


「ライカ、全員一突きで終わらせろ!!」

「分かってる!!」


 途中で拾い集めた粗悪なナイフ数本を渡す。

 彼女は迷わない。

 刃は一直線に喉を裂き、返り血を浴びても動きを止めない。

 渡したナイフが投げられると、全てゴブリンの心臓を貫いていく。


 俺はその場にいる全てのゴブリンの頭部に水の球を作り出す。

 頭から首までを覆い隠す。その数15個程。

 あるゴブリンは手足をバタつかせる。

 違うゴブリンは床を転げ回る。

 無防備になった敵勢をライカが絶命させていく。


 ものの数分。残ったゴブリンはいない。

 全て殲滅することができた。

 血の匂いだけが漂い残り続ける。

 耳鳴りのような静けさが洞窟を満たす。


 ライカの肩がわずかに上下している。

 呼吸が少し早い。

 身体的にも、精神的にも辛いのだろう。


 俺は少年へと視線を動かす。

 動かない。死んだか?


「おーい、生きてるか」

「……」


 反応はないが、生きている。

 目は死んでいた。目の前の状況じゃなぁ。


「これは……夢だよな……」


 ポツリと呟いた。

 俺は否定の言葉を返す。


「違う」


 少年は死体を見る。

 いや、もはや死体だったものか。


「なんで、誰も起きないんだよ……」


 俺は答えなかった。


「生きてますよね?」

「そう思うかはてめぇの都合だ」


 もはやどんな言葉も彼には届かない。

 幾度も見た。見慣れた光景だ。

 壊れたものは直らない。物も、人間も。


「俺が起こさなきゃ」


 少年は立ち上がり、まだ損傷の少ない死体を揺り動かしている。


「おい」


 こちらには振り返らない。


 少年は一人ずつ、名前を呼びながら肩を揺すった。

 返事はない。


「……おい、起きろよ」


 次の死体へ移り、同じように声をかける。

 それでも、返事はない。


 三人目、四人目。

 順番に声をかけ終えると、少年は立ち尽くした。

 数秒、いや数十秒の停止。

 やがて、また最初の一人の前に戻る。


「なあ……冗談だろ」


 今度は、少し声が弱い。

 肩を揺する手も、さっきより力がない。


 反応は、やはりない。当然だ。もう息を吹き返すことはない。

 どれだけ切実に願ったとしても。そんなもんは不可能なのだから。


 それでも少年は、また次へ向かう。

 同じ言葉、同じ動作。何度も、何度も。

 まるで、繰り返せば何かが変わると信じているみたいに。

 そうしなければ、縋るしかないのだとばかりに。


「起きろよ。そこでまだメアリーちゃんが寝てるけど、お前が生きなきゃ誰が守るんだよ。なあ、起きろよ。一緒にみんなを起こして、帰ろうぜ。なあ、そんな眠いのかよ」


 ライカは異様な様子に何とも言えない表情で見つめ、地面に視線を落とす。

 そんなライカに声を掛ける。


「行くか」

「で、でも……止めなくていい……の?」

「助けても、助けられないものがある」


 ライカは一度、口を閉じた。

 何かを飲み込むように、喉が動く。


「命……じゃなくて、心?」


 ライカがそう答える。


「ああ、だから。もう死んでんだ、あいつは」


 またしばらくライカは押し黙る。

 すると、整理がついたのかこちらに顔を向ける。


「分かりたくないけど、分かった」

「……そっか」


 少し間が空く。


「ねえ」

「ん?」

「なんで、私は助けてくれたの?」


 俺は背を向けてこの場から離れるために歩き始める。

 後ろからかすかにライカの足音がついてくるのが聞こえる。


「偶然だ」

「ぐう、ぜん……」

「それ以上でも、それ以下でもない……さ」


 ライカは少しだけ笑った。


「なら、私は……」


 小さく息を吸う。


「その偶然のおかげでエレウスといられるんだね」


 その言葉が、妙に重く残った。


「今は楽しいから、それで……いい……」


 ライカが俺の手を握ろうと手を重ねてくる。

 それに応じて、優しく握り返してあげる。

 横に並んだライカを見つめる。


 あの時、ライカを見つけなければ……。


 間違いなく他のやつとパーティを組んだ。

 まずは、前衛を入れて安定を目指した。

 それから、支援術士、盗賊。

 俺よりも火力重視の魔法士を入れて完成だ。

 七大迷宮の攻略をすぐに目指しただろう。


 今はどうだろう。

 俺はライカと別れようと思えばいつでもできる。

 出会いと別れが日常みたいなものだ。慣れた。


 だが、ライカはそんなの分からない。

 まだ冒険者に成りたて。初めてのパーティ。

 出会いは知っても、別れを知らない。


 そりゃそうだ。あんな目をしてたんだ。

 先程の言葉を思い出す。


 ''そう思うかはてめぇの都合だ''


 自分自身に特大ブーメランじゃねぇか。

 俺の都合で仲間にした盗人上がりの冒険者。


 ラウルを離れる前に独り立ちできるようにしよう。

 少しずつ着実に知識を与えて、ルールを教えていこう。

 まだ時期としては早い。甘やかしておこう。


 こんな薄情なことは言えない。

 だが、そんな薄情なことを平気でやろうとする。


(選んだ故の責任とライカの将来への無責任さ)


 そのどちらも、俺の都合に違いねぇや。

 胸の奥が重い。息を吸うたびに蝕んでいくようだ。

 こんなに名残惜しいのはいつぶりだろうか。


 素直に……素直にか。

 そんなもん忘れちまったな。分かんねぇ。

 俺も大概クソッタレだな。全く。

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