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音もなく咲くー異世界で紡がれる、音と精霊の物語ー  作者: 小桜 すみれ
第二章 丘の家の赤い屋根の家
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第6話 音の欠けらと共鳴の糸

新たな部屋、新たな手紙。

そしてシュエルから語られる、この世界の真実。

「音」を宿すリリカは、まだ気づかないまま、“鍵”を手にしていく──

シュエルが言っていた、二階の角部屋に行ってみた。思ったより広い部屋で、清潔なリネンのベッドがある。結構大きめなベッドだ。


そして小さな机もあった。ノートが数冊置かれ、裁縫道具もあった。


なんと、ピアノも置いてあった!


窓は東側と南側。東側の窓にあった花瓶に花を生けた。その時ポケットがふわりと温かく感じて、ポケットの中を見てみる。封筒が入っていた。


「あ、この封筒は……」


その時、ポロリと何かが床に落ちた。オルゴールと、その鍵だった。


「なんで窓辺に置いてあったオルゴールがここに?」


オルゴールは南の窓辺に置いた。日本の西日が入るあの部屋を思い出しながら。


「不思議……」


リリカは封筒の中身を取り出した。昨日のカードと便せんが入っていた。便せんを開いてみた。


「リリカへ

ようこそ、記憶の狭間に咲く場所へ。

ここは『音の失われた世界』

でもそれは本当は──

誰かが失わなければならなかった音なのかもしれない。


あなたの中に眠る、“全てを聴く力”。

その力は、誰かを癒すために生まれた。

その力は、誰かを導くために眠っていた。


これは目覚めの旅。

あなたが音を失う前に、音を奏で直す旅。


音の欠片を集めなさい。

旅の鍵は、『音』『記憶』『夢』『共鳴』。


全てが揃うとき、あなたは一度きりの本当の音を咲かせることができるだろう。


──封筒を開いたその瞬間から、道は始まっている。


『風の丘』に向かって歩きなさい。

赤い屋根の小さな家が、あなたを待っている。


心の集まった時、扉が開かれる。


リリカ、もう一つだけ。

“音は触れた時、最も静かに咲く”

あなたが、もう一度音を信じられますように。

                     -S」


読み終えた瞬間、部屋の空気が変わった。まるで誰かが、どこかに息をひそめてるように。


足元にいたナナを、そっと抱き上げる。やわらかな毛並みと小さな心音。いつもと変わらない。でもその瞳は封筒を見ていた。


ナナに触れることで、リリカは少し落ち着いた。


「なんのことだろう……音の欠片を集めるって、どういうこと?」


そもそも、私は日本でもほとんど音を出すこともなく、聞くことも少なかった。ピアノさえいい音が出なくなっていた。喧騒の中にいるのも嫌いだった。


「Sって誰のことだろう……シュエルは違うみたいだし」


一階に下りて行くと、シュエルがいた。


「昼食にしないか?」


そう言えば、昨日の夜から何も食べてなかった。


「何がいい?」

「何でもいいです。この子は猫だけど、なんでも食べれると思います」


「じゃあ、ちょっと待っていて。そこに座っていればいい。……それから、敬語は禁止ね」

「分かった。普通に話すね」


シュエルはキッチンに消えて行った。ナナは椅子の上にチョコンと座っている。(分かっているのかな)


すぐにシュエルが出て来た。美味しそうなスープと焼きたてのパンだった。


「美味しい。シュエルって料理も上手なのね。早いし」

「それは……追々話すよ」


「君は“選ばれた人”なんだ」

「え? 選ばれた? 誰に?」

「それは分からない。君が来るって、布と風に聞いていただけだから」


「君は、『音の欠けら』を集める役目を持っている。そもそも君は、『音』を運んで来たんだ」


(音を……持って来た? 私が?)


「君の周囲では音がするし、私とも普通に会話できているのがその証拠。普通はもっと、くぐもった音でしか話ができないんだ。今度近くの村に行ってみよう。すぐに分かるから」


「君は、精霊が見えるよね。それも君の能力だよ。全部の精霊が見える人は少ない。精霊は『風』『火』『水』『土』『光』『闇』。君特有のもので『音』『時間』『夢』『鏡』、それに『生産』『転移』……」


「精霊と繋がると『魔法』が使えるようになる。私は風の精霊を持っている。精霊同士が共鳴すると、新しい魔法が生まれる」


「魔法? 精霊? ここは魔法の世界なの?」

「もちろん。ここは『魔法』と『共鳴』の世界。ただ、音がなくなった今は共鳴の力も弱まっている」


シュエルがくるりと指を回すと、風がふわりと流れた。


「リリカにこれを渡そう」


シュエルは赤い小さな玉を出した。毛糸より細く、虹色の光沢を放つ赤い糸。


「これは、共鳴の糸。大切な糸だから、少し腕に巻いたらいい」


そう言って、リリカの右手首に糸を巻いて結んだ。


「君のクローゼットには何でも揃っているから、着替えてくるといい」


リリカは早速、自室のクローゼットを開けた。何着かのワンピースと靴、靴下、下着まで揃っていた。


赤い小さな花が散りばめられた白いワンピース。腰の背中にサテンのリボンが付いていた。


「やっぱり不思議が多くて、自分のことなんか忘れちゃうよね……」


制服はもういらなかったけど、クローゼットに掛けておくことにした。


糸の残りをどうしようか迷って、制服のポケットに入っていた祖母からもらった巾着を思い出した。


「これはお守りだからね、花音を守るように肌身離さず持っていなさい」


 祖母にそう言われて手渡されたので、以来ずっと持ち歩いていた。虹色の変わった布で、中にラミネート加工された小さな紙が入っていた。その紙には音符が散りばめられていた。


 「私のピアノが上手く行くように作ってくれたのかなぁ。」


リリカはその袋に残りの赤い糸を入れて、ポケットに入れた。

読んでいただきありがとうございます。


静かに始まる「音の旅」。

精霊、魔法、共鳴、赤い糸……。まだ謎は多いけれど、リリカの内に眠っていた“音”が少しずつ目を覚まし始めます。

次回は、いよいよ精霊の姿が本格的に現れていくはず。どうぞお楽しみに──。


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