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音もなく咲くー異世界で紡がれる、音と精霊の物語ー  作者: 小桜 すみれ
第八章 封じられた映し
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第37話 音の片鱗

朝の光が、森の奥までそっと届く。

静けさの中に、何かが目覚める気配があった。

今日もまた、リリカは仲間たちと歩き出す。

 朝の光が、森の隙間から差し込んでいた。魔獣が倒れ、森に再び静けさが戻ったら--


 『ねぇ、ねぇ、リリカ、さっきのとこ、行ってみよ!』

 土の精霊ティリムが、ぽふっと跳ねながらリリカの袖を引いた。

 「さっきのとこ…?」

 『ぽふっ、うん。ボクが“地面の下に空洞がある”って言った場所!ほら、あの根っこから風が出てたでしょ?』


 「確かに…地下があるかもな。」

 カイが剣を収めながら頷いた。

 リリカとミレイユも頷き、精霊たちと共にその場所に向かった。


 --欅の木の根元から少し離れた場所に、石の輪があった。一部が崩れかけ古い円形の縁。中心にぽっかりと黒い穴が空いている。


 「こんなところに…」

 「風が吹いてる。下へ続いてるわ。」

 ミレイユが耳を澄ませる。

 「下りてみよう。慎重にね。」

 カイが先に足をかけ、剣に火を纏わせ、灯りにして、地下へと下りていく。


 下へ、下へ--


 湿った石の階段を抜けた先に、開けた空間が広がっていた。

 天井の高い円形の空間。中央には古びた台座、その周囲には微かに欠けた円形の模様。床のあちこちに、譜面のような線が掘り込まれている。


 「…古い遺跡?」

 リリカがぽつりと呟く。

 「…そうかもしれないが、何かの…“音の場所”だったんだろうな。」


 カイが台座に手を翳す。そこに紙のようなものが貼り付いていた。


 「…これって」

 リリカが近づいて見ると、それは細長い羊皮紙の断片だった。五線譜のような線があり、ところどころに音符のような模様がある。けれど--


 「楽譜、…だよね、きっと。でも…読めない。」

 「破れてるし…、何かの一部?」


 --その瞬間、ポケットのオルゴールが小さく震えた。

 「…あれ?」

 ポケットからオルゴールを取り出すと、木の蓋がわずかに光を帯びていた。


 「何か、共鳴した…?」

 『でも、音は鳴ってない。…まだ、揃っていないのかも』

 ルエルがリリカの肩にとまり、静かに言う。

 「とりあえず、ここで判断するのは危険かもね。」

 ミレイユが周囲を見回す。

 「この空間、魔力の流れが不安定。…長くいると、音が吸い込まれそう。」

 「じゃあ、これは持ち帰って、丘の家で調べよう。」

 リリカが言うと、カイも頷いた。

 「賛成だ。…この断片は、きっと、何か意味のあるものだ。」


 リリカは断片を慎重に包み、オルゴールを抱えたまま、遺跡後にした。


 夕食の準備の香りが漂うころ--

 カイとミレイユが焚き火のそばで荷物を整理している間に、リリカは少し離れた空き地に立っていた。


 『さて、リリカ!今日の復習いってみよう!』

 風のフェリラがくるくると空を舞う。

 『ぼくの風魔法はね、“やいば”!つまり、空気を斬る鋭いやつ!斜めに風を切って飛ばす感じで!あと、風で押したりも出来るよ!』

 フェリラがひゅっと空中を走ると、その後ろに細く鋭い風の刃が軌跡を描いた。


 『まずは、手をこう。空気の流れを集めて…』

 リリカがフェリラの言う通りに掌をかざすと、風が一陣、指先に集まる。

 「いけっ!」


 --シャッ!


 鋭い風の刃が木の枝をかすめ、落ち葉がぱらぱらと舞った。

 「やった…!」

 『うん、いい感じ!じゃあ次は水組さん、バトンタッチ〜!」


 アクエラが静かに降り立ち、手のひらに小さな水の弧を作る。

 『まずは、風と同じような“やいば”ですわ。速度と切れ味を意識して』

 アクエラが、両手を前に突き出すと、水の線が伸びて、地面に細い跡を刻んだ。


 『そしてこちらは、氷の矢。冷気で形を整えて…』

 リリカの手に水が集まり、次第に透明な水の矢へと変わる。それを投げると、木の幹に“カシッ”と音を立てて突き刺さった。

 『ふふ。なかなか優秀ですわ』


 『へっ、次は俺の出番だな!』

 火の精霊フレオンが燃え上がるように飛び出す。

 『火の球なんだぜ!火をボール状にして、相手めがけてぶちまかせ!』

 「わ、分かった…!」


 フレオンが火種を浮かべると、リリカの掌でそれが膨らんでいく。

 『気合い入れろーっ!』

 「い、いけーっ!」


 --ポンッ


小さな火の球が空中に放たれ、草の端に当たって明るく弾けた。

 「おおお…ちゃんと燃えた…」

 『よし!もうちょいで、フレオン式卒業だな!』

 『ぽふふ、次はボクだよ〜』

 土の精霊ティリムが、地面からぽふっと現れる。

 『土の魔法は“守る”と“動かす”が基本!壁とか、段差とか、足元の罠とかね!』

 ティリムが手をかざすと、土の壁がふわっと立ち上がる。さらに、そのまま地面が持ち上がって、小さな段差ができた。


 『やってみて!』

 リリカが真似をして、手を地面に置き、意識を向けると--

 “ぽふっ”という音と共に、リリカの前に胸ほどの土の壁がせり上がった。

 「…できた!」

 『できる!できてる〜!ボクより上手いかも〜!』

 「そんなことないよ…でも、嬉しい…!」


 精霊たちは口々に褒めたりはしゃいだりしながら、リリカの周りを舞っていた。

 風は斬り、水は貫き、火は燃やし、土は守る。


 リリカはゆっくりと息を吸い、ふと、オルゴールがポケットの中で微かに温かいことに気づいた。


 (精霊たちと近いからかしら。)


 --少しずつ。だけども、確実に進んでいる。

 その手応えが、リリカの背をそっと押していた。

今日も読んでくださって、ありがとうございます。

小さな成長が積み重なるたびに、音の物語は少しずつ形になっていきます。

また次のページでお会いできますように。


「強くなったな、リリカ。…でも、まだ気は抜けない。」


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