第37話 音の片鱗
朝の光が、森の奥までそっと届く。
静けさの中に、何かが目覚める気配があった。
今日もまた、リリカは仲間たちと歩き出す。
朝の光が、森の隙間から差し込んでいた。魔獣が倒れ、森に再び静けさが戻ったら--
『ねぇ、ねぇ、リリカ、さっきのとこ、行ってみよ!』
土の精霊ティリムが、ぽふっと跳ねながらリリカの袖を引いた。
「さっきのとこ…?」
『ぽふっ、うん。ボクが“地面の下に空洞がある”って言った場所!ほら、あの根っこから風が出てたでしょ?』
「確かに…地下があるかもな。」
カイが剣を収めながら頷いた。
リリカとミレイユも頷き、精霊たちと共にその場所に向かった。
--欅の木の根元から少し離れた場所に、石の輪があった。一部が崩れかけ古い円形の縁。中心にぽっかりと黒い穴が空いている。
「こんなところに…」
「風が吹いてる。下へ続いてるわ。」
ミレイユが耳を澄ませる。
「下りてみよう。慎重にね。」
カイが先に足をかけ、剣に火を纏わせ、灯りにして、地下へと下りていく。
下へ、下へ--
湿った石の階段を抜けた先に、開けた空間が広がっていた。
天井の高い円形の空間。中央には古びた台座、その周囲には微かに欠けた円形の模様。床のあちこちに、譜面のような線が掘り込まれている。
「…古い遺跡?」
リリカがぽつりと呟く。
「…そうかもしれないが、何かの…“音の場所”だったんだろうな。」
カイが台座に手を翳す。そこに紙のようなものが貼り付いていた。
「…これって」
リリカが近づいて見ると、それは細長い羊皮紙の断片だった。五線譜のような線があり、ところどころに音符のような模様がある。けれど--
「楽譜、…だよね、きっと。でも…読めない。」
「破れてるし…、何かの一部?」
--その瞬間、ポケットのオルゴールが小さく震えた。
「…あれ?」
ポケットからオルゴールを取り出すと、木の蓋がわずかに光を帯びていた。
「何か、共鳴した…?」
『でも、音は鳴ってない。…まだ、揃っていないのかも』
ルエルがリリカの肩にとまり、静かに言う。
「とりあえず、ここで判断するのは危険かもね。」
ミレイユが周囲を見回す。
「この空間、魔力の流れが不安定。…長くいると、音が吸い込まれそう。」
「じゃあ、これは持ち帰って、丘の家で調べよう。」
リリカが言うと、カイも頷いた。
「賛成だ。…この断片は、きっと、何か意味のあるものだ。」
リリカは断片を慎重に包み、オルゴールを抱えたまま、遺跡後にした。
夕食の準備の香りが漂うころ--
カイとミレイユが焚き火のそばで荷物を整理している間に、リリカは少し離れた空き地に立っていた。
『さて、リリカ!今日の復習いってみよう!』
風のフェリラがくるくると空を舞う。
『ぼくの風魔法はね、“刃”!つまり、空気を斬る鋭いやつ!斜めに風を切って飛ばす感じで!あと、風で押したりも出来るよ!』
フェリラがひゅっと空中を走ると、その後ろに細く鋭い風の刃が軌跡を描いた。
『まずは、手をこう。空気の流れを集めて…』
リリカがフェリラの言う通りに掌をかざすと、風が一陣、指先に集まる。
「いけっ!」
--シャッ!
鋭い風の刃が木の枝をかすめ、落ち葉がぱらぱらと舞った。
「やった…!」
『うん、いい感じ!じゃあ次は水組さん、バトンタッチ〜!」
アクエラが静かに降り立ち、手のひらに小さな水の弧を作る。
『まずは、風と同じような“刃”ですわ。速度と切れ味を意識して』
アクエラが、両手を前に突き出すと、水の線が伸びて、地面に細い跡を刻んだ。
『そしてこちらは、氷の矢。冷気で形を整えて…』
リリカの手に水が集まり、次第に透明な水の矢へと変わる。それを投げると、木の幹に“カシッ”と音を立てて突き刺さった。
『ふふ。なかなか優秀ですわ』
『へっ、次は俺の出番だな!』
火の精霊フレオンが燃え上がるように飛び出す。
『火の球なんだぜ!火をボール状にして、相手めがけてぶちまかせ!』
「わ、分かった…!」
フレオンが火種を浮かべると、リリカの掌でそれが膨らんでいく。
『気合い入れろーっ!』
「い、いけーっ!」
--ポンッ
小さな火の球が空中に放たれ、草の端に当たって明るく弾けた。
「おおお…ちゃんと燃えた…」
『よし!もうちょいで、フレオン式卒業だな!』
『ぽふふ、次はボクだよ〜』
土の精霊ティリムが、地面からぽふっと現れる。
『土の魔法は“守る”と“動かす”が基本!壁とか、段差とか、足元の罠とかね!』
ティリムが手をかざすと、土の壁がふわっと立ち上がる。さらに、そのまま地面が持ち上がって、小さな段差ができた。
『やってみて!』
リリカが真似をして、手を地面に置き、意識を向けると--
“ぽふっ”という音と共に、リリカの前に胸ほどの土の壁がせり上がった。
「…できた!」
『できる!できてる〜!ボクより上手いかも〜!』
「そんなことないよ…でも、嬉しい…!」
精霊たちは口々に褒めたりはしゃいだりしながら、リリカの周りを舞っていた。
風は斬り、水は貫き、火は燃やし、土は守る。
リリカはゆっくりと息を吸い、ふと、オルゴールがポケットの中で微かに温かいことに気づいた。
(精霊たちと近いからかしら。)
--少しずつ。だけども、確実に進んでいる。
その手応えが、リリカの背をそっと押していた。
今日も読んでくださって、ありがとうございます。
小さな成長が積み重なるたびに、音の物語は少しずつ形になっていきます。
また次のページでお会いできますように。
「強くなったな、リリカ。…でも、まだ気は抜けない。」




