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音もなく咲くー異世界で紡がれる、音と精霊の物語ー  作者: 小桜 すみれ
第八章 封じられた映し
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第36話 目覚めの一撃

朝の静けさの中、リリカたちは再び探索の旅へと踏み出す。仲間たちとの連携と、響き始めた力の音。その先に待つものとは--。

 朝日が差し込むキッチンで、リリカはマグカップを置き、ふうっと息を吐いた。フィンとの散歩が終わったところだ。早朝の丘の家には、まだ微かに眠気と温もりが残っている。


 「準備、終わった?」

 背後からそう問いかけたのは、ポニーテールを揺らすミレイユだった。

 白いシャツに茶色のショートパンツ。素足にサンダルを履き、いつものようにすっきりした顔をしている。

 

 「サンダルはどうかと思うよ。」リリカは言った。

 「また、転移はリフレナが引き受けてくれるから。」

 「なら、問題ないわ。フィンのご飯も用意したし。」

 「…ありがと。行ってくれるなんて思わなかった。」

 「リリカが行くなら、ついて行くに決まってるでしょ?」

 ふたりは顔を見合わせて笑った。


 庭先に出ると、音、風、火、水、土--五つの精霊たちがリリカを待っていた。

 それぞれの光が、朝日に透けるように漂っている。


 カイも扉から出て来た。

 「おはよう、カイ。目覚めはどうだった?」

 「さっぱりしてるよ。いよいよだからな。」


 「じゃあ、カイ、欅の木に転移するから、私のいる欅の木を目指して来てね。」

 「分かった。」


 『ミレイユは、リリカと魂が繋がっていれから、一緒に転移できるわ。精霊たちは自分でも行けるけど、私とも一緒に飛べるわ。ふたりとも、手を繋いで』転移の精霊リフレナが現れ、そらいろの光を羽に宿していた。

 リリカとミレイユはしっかりと手を取り合って、リフレナの言葉に頷いた。


 「行き先は、カイがこの世界に現れた場所の近くの欅の木。カイが転移しやすいように。」

 「リリカ、ちゃんと届くとこいいね。」ミレイユが少しだけ、リリカの手を強く握った。

 「うん。きっと届くよ。」


 リフレナの羽が広がる。そらいろの光が足元を包み込み、リリカとミレイユの姿は朝の空間に溶けていった。


 カイはひとり、手を幹に置いていた。

 「リリカの行く場所へ。その欅の木へ--」

 そう念じた瞬間、根本から魔法陣が広がり、彼の身体が軽く浮かぶ。

 目を閉じたまま、彼は静かに言った。

 「リリカ…」

 その声が空気に染み込み、光となって吸い込まれる。そして、彼の姿もまた、風のように消えていった。


 --転移した先

 そこには大きな欅の木があった。その根元にリリカとミレイユが姿を現した。


 そらいろの光がほどけるように消え、風がふわりと揺れたとき--

 カイも転移してきた。


 「…届いた、か。」

 「ちょうどいいタイミングだったね。」とミレイユ。

 「…無事に合流できて良かった。」微笑むカイの肩に、小さな熱を感じる。

 『ふふん、俺がちゃんと見守っていたぜ』火の精霊フレオンが、彼の肩で揺れていた。


 「--ここから、探索開始だね。」

 リリカが息を整えてそう言うと、カイが周囲を見渡した。

 「木々の生え方…地形の窪み…あの廃屋の影、記憶にある気がする。」

 「じゃあ、この辺りに…あなたが最初に来た鏡が?」

 「いや、もっと深い場所にあった。地形が変わっているかもしれない。」


 リリカが頷いたその時--ふわっと風が吹き、肩にひとつの影がふわりと降りた。

 『共鳴は…しっかり保ってるね。リリカ』

 音の精霊ルエルが、いつもの明るい声で微笑む。

 『さてさて、じゃあ今日も張り切って記録開始だよ!』


 『風の道、異常なし!こっちのルートは進めそうだよ、二人とも!』

 フェリラが前方から滑るように戻って来た。

 『湿気が多いわ。でも清らかな水が流れてる。泉か川が近くにあるはずですわ』

 アクエラは優雅にくるくると舞いながら、空間の“気”を読む。


 『うーん…地面の下、何か空洞があるかも。ぽふっ…あ、ここ!』ティリムが足元の土をぽふっと押しながら、ぴょこぴょこ跳ねている。

 『おいおい、ちょっと落ち着けって!…ってか、お前らうるせーな!』

 焚き火の火種のようにパチパチと音を立てながら、フレオンが腕組みして吠えるように言った。

 『ここは俺の火で道を照らすんだ!ちゃんと俺の指示も聞けよな!』


 『なにそれ、聞いてないし~』

 『フレオン、いつも主役みたいに言うわよね』

 『ボクはただ、可愛い音を鳴らしたいだけなんだけどなぁ』


 「あ、なんかこの感じ、久々に懐かしい。」

 ミレイユがくすりと笑う。ポニーテールを揺らして、リリカの隣に来た。


 「…賑やかそうだな。」

 カイがぽつりとつぶやいた。けれど、その顔には、ほんの少し肩の力が抜けたような表情があった。


 「いいことじゃない。静かよりずっといいわよ。」

 ミレイユがそう言いながら、まっすぐ先を見つめる。

 リリカも、精霊たちも、少しずつ歩き出していた。


 『じゃあ、今日の記録は“共鳴の森の第一歩”ってことで--ぼく、音を集めてくるね』ルエルがふわりと飛び立った。

 『風のルートは任せて!』

 『水場を見つけたら、必ず知らせますわ』

 『ボク、地下のぽふっも調べるからね』

 『俺は火口を探す…あ、ちげぇ、火の匂いだ!カイ、右手の道の先、何かいるぞ!』


 「魔獣かもしれん。なんか、リズムが変だ。詠唱してるわけじゃねぇが…気配が変わるぞ」

 カイが剣に手をかけ、リリカがオルゴールに手を伸ばす。


 森の奥から、ざわ…と空気が動いた。

 「何か来る。」

 リリカがそっと言ったその直後、草むらがざぱっと裂ける。


 黒く濁った獣が、四肢を低く構えながら地を這うように現れた。


 「グロール・ハウント…!」

 

 「奴は滅多に出てこないが、音を食う!」


 カイがすぐに剣を構える。


 漆黒な体にまだら模様。異様に大きな耳を左右に回しながら、白く濁った目は焦点を持たず、ただ音を探るように動いていた。


 「完全に聴覚型…視覚はほぼゼロ。でも音に超反応するタイプね。」

 ミレイユが鋭く告げる。

 「リリカ、下がっていろ、あいつは俺がやる!」

 「うん、お願い。」

 リリカはカイの後ろに下がった。


 その瞬間、風がふわっと揺れて、フェリラがリリカの前に出る。

 『まずは風の流れを読もう!リリカ、そっちの茂みに近づいちゃダメ!』


 『まずは一発、氷の矢を放ちましょう!風に乗せて。リリカ、イメージしてみて』

リリカの掌に浮かぶ水が、冷気で鋭い矢へと変わる。

 フェリラが風を送り、アクエラが軌道を調整。リリカが放った氷の矢は、魔獣の前足をかすめて飛ぶ。

 カイは思わず、振り返った。


 『いいぞ!』

 フレオンが空中で火花を散らす。

 『次は火だ!お前の横に俺の火を寄せるから、それを投げろ!」

 「ま、待って!タイミングを合わせないと--」

 リリカが放った火球が、フェリラの風に乗って飛び、魔獣の耳元で炸裂する。


 「ギャウウウゥゥ……!!」


 「動きが乱れてる!」

 『ぽふっ!ボクが地面に段差を作るねっ!』


 地面が盛り上がり、魔獣が足を取られてつまずく。


 その一瞬の隙--

 ミレイユが影のように駆けた。

 「リリカに手ぇ出したら、許さないんだから!」

 --《影炎のえいえんのつめ》!!

 黒い影が地を切り裂き、紅の炎が魔獣の前足を焼く。


 獣が吠え、のたうち、地面を引き裂きながら逃げようとしたとき--

 

 「逃すか!」

 カイが風を切って駆ける。

 剣が火をまとい、一閃--


 --ズンッ!!


 炎の軌道が魔獣の背を裂いた。悲鳴が森に響き--やがて、黒き魔獣はその場に崩れ落ちた。


 静寂


 リリカは胸に手を当てて、ようやく息を吐いた。

 「…終わった…?」


 「終わったわ。」

 ミレイユが戻って来て、微笑む。

 「ちゃんとやったじゃない、リリカ。」

 「何がなんだか…」

 「…まさか、君がここまで出来るとは。」

 カイは思わずつぶやいた。

 「一人じゃ何も出来なかった。でも…みんなが教えてくれたから…」

 リリカがそう答えると、肩の上でルエルがくすっと笑った。

 『ぼくたちのリリカ、強くなったね』

 その声に、音、風、火、水、土、それぞれの精霊たちが、誇らしげに頷いた。

ご覧いただきありがとうございました。少しずつ強くなっていくリリカと精霊たち、そして彼女を支える仲間たちの姿を、これからも見守っていただけたら嬉しいです。

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