第3話 導かれた家
静寂の草原を越えた先に現れた、小さな家。
そこは、孤独のない静かな温もりに満ちていた――。
草原がだんだんと芝生のようになっていき、家の前に近づくと石畳になっていた。その先の玄関が目に入った。
木の扉で、上が丸くなっていて、花の彫刻が施されていた。繊細な金細工がほどこされたドアノブがついていた。どこかで見たような気がした。
「ありがとう……あなたが、ここへ導いてくれたんだね」
心のどこかに感じていた不安が、ふっとほどけていく。
玄関のドアノブに手をやると、「カチリ」と小さな音が鳴って空いた。
「誰か……いますか?」
思わず声に出してしまったが、返事はなかった。ナナが「ニャー」と鳴いた。けれど、なぜだろう。この家は、ひとりきりなのに、孤独はない。
中は暖かい空気に包まれていた。入ると、そこはリビングで、大きなソファが置かれていた。リビングの真ん中に古びた薪ストーブがあり、静かに薪が燃えていた。
花音はナナを抱いたまま、そっとリビングに入り、ソファに腰掛けた。ふんわりと包み込まれる感じがして、ちょっとだけ、ホッとしていた。
ナナはあちこちの匂いを嗅ぎに行ってしまった。
「私のこと、待っているって……どういう意味なんだろう」
「ここから帰れるのかな……」
でも、あの家のことを思うと、どんよりとした気分になった。
「ここで、何が起こるんだろう」そんなことを思いながら、ソファに座っているうちに、花音はまどろみの中へ沈んでいった。
朝が来るのは早かった。東の窓から、ふわりと光が差し込み、花音は目を覚ました。夢ではなかったとわかるのに、それほど時間はかからなかった。ナナが足元で寝ている。
「……本当に、こっちの世界なんだ」
しばらく天井を見つめていた。大きな梁がアーチ状にかかっていて、高い天井だった。他は漆喰のようだった。
どこか柔らかな空気。鳥の声、木々のざわめき、家の中の埃の匂い。薪ストーブからの煤のような匂い。花音はソファから起き上がった。着替えもせずにソファで眠ってしまったから、体が少し重かった。
だが、外の空気は新鮮だった。窓を開けると、丘の下に広がる森が風に揺れていた。
読んでくださってありがとうございます。ちょっと今回は短かったですね(汗)まだまだ慣れないです。
家の中に満ちる優しい空気と、静かに広がる森の風景。
花音が少しずつ、ここで「存在していい」と思える場所を見つけていくのが、この話のテーマです。
次回、第4話では──ついに“彼”が現れます。