第1話 名前を呼ばれない私
この物語は、誰にも気づかれず、名前さえ覚えられない少女が、
“音のない異世界”で自分の存在を見つけていく、静かに始まるファンタジーです。
音の鳴らないオルゴール。精霊たちとの出会い。
そして、世界に音が咲くとき——心が誰かとつながる瞬間が訪れます。
まずは主人公・花音の静かな日常から、どうぞお付き合いください。
朝、目覚ましの音で目が覚めた。私の部屋は西向きだから、日が差すのは夕方。でも朝が弱いので、この仄暗い朝が気に入っている。
1階に下りると、いつもの風景が目に入ってきた。母と父はスマホをいじっている。ニュースでも見ているのかしら。朝食をちゃんと食べてからスマホを見ればいいのに。弟は黙々と食べている。2つ上の兄は大学に行ってるから、この時間は寝ているはずだ。
私はこの空間が嫌いだから、糖分補給の為に甘いミルクティーを飲むだけで学校に行く。制服に着替えて準備した。
私は高校2年生。名前は凪間花音、「凪間」は珍し過ぎる名前。誰も読めないし、覚えられない。5分で忘れる苗字のトップ3とかに入りそう。「君の名前…、えっと…」と何回言われてることか。担任の先生すら呼ばない。音と共に消えて行く名前だ。
「花音」という名前は割と気に入っている。可愛い名前が多い今、取り立てて珍しい名前でもないけど、でも花と音という漢字は好き。
苗字が珍しいから「花音」って呼ばれることも多いけど、親しみを込めてではなくて、「凪間」という名前が読めないからなだけだ。はぁ、今日も憂鬱だ。
庭の緑から朝露が音もなく滴り落ちた。私はため息をついた。これから学校に行かないといけない。学校はある意味、戦場であり、忍耐のいる場所だった。
教室に入って「おはよう」と言ってみる。数人の女の子がこちらを見ないで「おはよう」と返してくれた。
私は苛められている訳ではない。無関心と戦っている。窓際の一番後ろに座った。特に話す友達もいない。話しかけられる訳でもない。自分から話しに行けばいいのだけれど、私の言葉は誰にも響かないって分かっているから、特に話にいかない。
これでも私は明るい性格で、楽しげに話をするんだけど、なぜか私が話していると、誰かが会話を奪ってしまい、私の話はスルーされる。グループにも所属はしていない。頼めば入れてくれる程度だ。みんな私には無関心なのだ。
今日も適当な会話と相槌で凌いだ。寂しさは募る。友達ではない大勢の「知り合い」の中にいると孤独を強く感じられる。孤独って1人でいるより、周りに沢山人がいるのに孤立してる方が孤独感が強いみたい。どん底にいるみたいだ。
学校から帰ると、またいつもの風景だ。母はスマホをいじり、中学生の弟はゲームに夢中だ。兄が帰ってくれば、テレビを独占するだろう。「ただいま」って言ってみたけど、聞こえてないみたいだった。
私は西の部屋に向かう。扉を開けると夕陽で美しく温かい日差しが注がれている。癒しの場所だ。窓の横にある姿見に自分を映して「リリカ、ただいま」と言ってみる。この名前は自分が付けた。百合をイメージしたのだけど、「詩」という意味もあるらしくて気に入っている。別の人になったみたいで、この部屋にいる時はリリカなのだ。
初めまして。まだまだ不慣れですが、なるべく定期的に更新していきます。よろしくお願いします。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
この物語は、誰にも気づかれず、名前さえ覚えられない少女が、
“音のない異世界”で自分の存在を見つけていく、静かに始まるファンタジーです。
音の鳴らないオルゴール。精霊たちとの出会い。
そして、世界に音が咲くとき——心が誰かとつながる瞬間が訪れます。
まずは主人公・花音の静かな日常から、どうぞお付き合いください。