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えっ、私の役目って魔力タンクなんですか??  作者: 朝食付き


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4-3.えっ、それって聞いても大丈夫な話なんですか??


 ざっくりと依頼についてはまとまった。やることも確定。でもなんとなく気になることがあるから質問してみる。

 

「あんまりよく分かってないですけど、勝手に入っていいものなんですか? 住んでる人からすると強盗扱いになりません?」

「ならんな。そもそも森は国のものってのが法だ。実際ここまで開拓してきたのも国の主導だしな。ギルドの依頼元も国だ。だからまあ、問題はない。万一、開拓前からあったなら……まあ、それはそれだ」

「そんなめんどいことはだな、依頼元が考えることであって、俺達が頭を悩ます問題じゃないっつーことだ。それよか、魔術師が作った塔なんだろ? 同じ魔術師としてはどう見る?」

「かなりたちが悪い。魔獣が塔から出てくるんだろう? 間違いなく禁術だ。どれくらい人が死んでるかも分からん」

「えっ! そんなにやばいんですか? 塔に入ったら死体が山積みとか、見たくないんですけど……」

「あたしもそれは同感。でもそういうわけじゃないんでしょ?」

「俺だって見たくない。多分死体ごと禁術の糧にされてるだろうな。だから死体が山積みってことはないはずだ。……今まで魔獣にやられたやつらも、一部は塔に使われてる可能性が高い」

「疑うわけじゃないけど、見る前から分かるもんなの?」

「魔術では成し得ないような特異な現象を起こすのが禁術だ。そこのバカ弟子には前に話したが、魔術の本質は事象の省略だ。魔獣を召喚なんぞ何を省略しても出来るようなものじゃない。よって禁術なのは確定する」

 

 うん。それは前に習ってた。禁術については初耳だけど、師匠が陰鬱な顔をより深くしてるのだ。ろくなものじゃなさそうだ。

 

「禁術はな、何段も重ねた構成の術式に命を流して起動する。人の死ぬ間際の変質した魔力が発動の最低条件だ。死に際が一番効果があるらしいが、死体でもいい」


 でもいいって……。そういうのも調べた人がいるんだろうな。これだから魔術師ってやつはこまる。


「森に魔獣が多くなってきたのは2,30年前かららしい。自然に発生した魔獣だけならとうに駆逐できているはずだ。それができていないのは増やすための何かがあるから。増やし続けるためには禁術の維持が必要。維持には死者がいる。よって、死体の推測が立つ」

「ありがと。あんたのせいじゃないけど、最悪な気持ちになったわ」

「俺もだ」

 

 じゃあ聞いた先輩が悪いんじゃ……。賢明な私はその言葉をそっと胸にしまった。


「それはそうと、塔といえば強力な魔術師のイメージなんですけど」

「大体合ってるな」

「何で塔なんです?」

「顕示欲でもあるんじゃない? あんたも偉くなったらでかい塔建てそうだし」

「塔はちょっと意味わかんなくないですか? 建てるなら銅像とか、後世に私のことがわかりやすく残るほうがいいなぁ」

「塔は権力の象徴とかいうよね」

「魔術師がそんな事気にする俗物ばかりならいいんだがなぁ。だってよ、魔獣生み出してる塔とかそんな権力欲求で出てくる発想じゃねぇだろ」

「全くだ。魔術師が塔を建てる理由だが、魔術のために建てる。塔というのは多層構造が続くからな、でかくて複雑な多層構成を作るのに丁度いいんだ。塔自体が構成を成すから、術者は魔力を用意すればいいだけだ。安定的に長期間の魔術行使には都合がいい」

「うえぇ……。それの何が楽しいのよ。趣味悪すぎてドン引きよ」

「俺に言われてもな」


 ***


 嫌ぁな想像を振り払うべく頭を振ると、旦那が私を見ている。何やらにやにやしていて、私の剃刀のごとく鋭い直感が私について何か話すつもりだということを予感させる。あからさますぎて誰でもわかるか。


「なんでゴーレムが出るようになったかはしらんが、塔が現れた理由は分かる気がするぞ」


 言い出したのは放り出していた謎の一つ。今までゴーレムが見つからなかった理由もだけど、塔が見つかった理由だってまだはっきりとしていないのだ。だからみんな旦那へと視線を向ける。相変わらずいかつい顔だ。


「ゴーレムってのは番人だからな。塔を守ってたんだろう。木に擬態出来るんだから、塔を冒険者に気付かれないようにする機能があったっておかしかない。だろ?」


 師匠が頷く。何か言いかけたけど、そのまま旦那に続きを促す。


「だからゴーレムが塔を隠すことで今まで塔は見つからなかった。でも嬢ちゃんが吹っ飛ばしたからな。跡形もなく」

「あー、それで塔を隠すゴーレムがいなくなったから、近くまで行った冒険者が塔を見つけたと」


 それって私のおかげで塔を見つけられたってわけか。お手柄では? ちらりと横目でみんなを見る。誰か褒めてくれないかな。いや、話が続きそうだ。後で催促することにしよう。


「なるほどねぇ。しかしそうなると、なぜゴーレムが外に出たのかが気になるね。そこにいれば見つかることはなかったわけだし」

「いつのまにかやられてたパーティもあるっていうし、実は前々からゴーレムが冒険者を襲ってたって可能性はあるわよね。さっきの話じゃ死体が必要なわけだし?」


 確かにありうる話だ。でも改めて聞くと本当に最悪だな。


「今回私たちがゴーレム討伐することになったのは依頼があったから。依頼があったのはゴーレムに遭遇して、逃げられたパーティがいたから。一昔前より今の冒険者の方が実力が上がってる。だから逃げられるだけの余裕があった。戦えば死んでたでしょうけど、逃げるだけの実力はあった。だからゴーレムは塔を離れて追いかける必要があった。どう?」

「目撃者の口封じか。ありえない話じゃないか。近くに現れた冒険者の襲撃と、逃げられた場合には追跡。その程度の命令ならゴーレムに覚えさせられそうだ」

「じゃあ2層まで出てきたのは逃げた奴らを追いかけてきたってことか。奴さんの移動にしちゃのろくさい気もするが」

「あくまで番人としての働きが出来る範囲なんじゃないかな。遠くまで行き過ぎれば”隠ぺい”もできなそうだ。だからまた寄ってくるのを待ち伏せしてたんだろうね」


 はぁとリーダーもため息だ。まあ寝た子を起こした始末を付けさせられたのが私たちなわけだし。おまけに調査も私たちだ。他の上位パーティはこの手の頭を使う依頼はやりたがらないらしいし、私でも思いつくくらい関係性ありそうだもんね。そりゃうちに依頼も回ってくるよね。

 だが、リーダーのため息の理由はそうではなかった。同じく憂鬱さを隠そうとしない師匠がその理由を継いで言う。


「……隠ぺいの魔術についてはあくまで俺たちの想像に過ぎん。実際に使えるレベルであるなら、ヤバすぎる。存在自体が消されるのに十分な理由がある。お前ら、今の話はここまでだ。全部忘れたほうがいい。俺たちはあくまでゴーレムを倒した。それだけだ」

 

 ええ……。ああ、確かに。透明人間がいるようなものだもんね。私たちレベルならくだらないいたずらで済むかもしれないけど、国同士での争いとか秘密が筒抜けになりかねないわけで。ゴーレムだけじゃなくて、もっと大きい塔すら隠しきるって言うなら、戦争とかに使ったら軍隊を丸ごと隠して置ける。戦争なら禁術だろうとお構いなしだろうし、混乱が無限に広がっていくね。よし! 忘れた! 私は何にも聞いてないし覚えてない!


 みんなそれぞれの一番嫌な想像をしたみたい。暗い顔だ。は、話を変えよう…!なにか、なにかないか?!


 なかった。もう話は終わってたので解散です。この空気でかぁ。



 ***

 

 いやぁーな雰囲気での解散ではあったけれど、私はまだ用がある。さっさと自分の準備を始める師匠の背中をたたく。


「何だ? お前も準備を進めろ」

「その準備する物が分かんないんですってば! 言っときますけど私塔どころか普通の調査だって初めてですからね!」


 小柄な私の相応な胸を力強く張って言い切る。多少の情けなさはあるけれど、知らないんだから仕方ない。いぶかし気に振り返っていた師匠もようやく思い至ったらしい。


「それもそうか。……ここ最近は消耗品やらをよく用意してくれていたからな。うっかりした」


 お? あれ? 今褒められた?! すごい、師匠がデレた! 私が喜びの舞を踊ろうとするその瞬間に、頭を掴まれる。


「俺がもっと上手く踊らせてやろうか?」


 うわぁ、顔こっわ。今が昼でよかった。夜だったら眠れなくなるところだった。師匠の照れ隠しが尋常ではない。うっかりこのまま眠り続けることにもなりそうなので、気を付けをしてお断りをする。

 手が緩んだ隙に脱出だ。


「下で待ってますので!」


 部屋で財布を回収し、さっさと宿を出る。すると大して待たないうちに師匠が降りてきた。


「色々調査が大変だってのは想像しているところですけど、何が必要になるんですか?」

「調査によって変わってくるが、調査内容をまとめるために紙がいる。これはまだ余りがある。こっちで準備しておくから大丈夫だ。お前に用意してもらうのは、明かりだな。松明とランタンをそれぞれだ。塔に明かりがあるとは限らん。それと…、いやそのくらいか」


 あれ、思ったより少ない? 意外そうな顔が分かったのだろうが、師匠が補足する。


「いつもの冒険に調べ事が入っただけだ。結局塔を何とかしろってのは普段の冒険と変わるようなものでもないしな」


 それもそっか。


 じゃあ、松明はまだあるしランタンもある……。いつも通りということか。調査というからには何か長さ?とか調べる道具がいるのかと思ったんだけど。

 師匠と並んで歩きながら、私の持つ調査についてのふんわりなイメージをつらつらと話してみる。


「依頼は塔の機能だからな。どうせ禁術だらけで取り壊し必須なものをきっちり測る必要もないさ。それよりも塔の中では必ず誰かと一緒に行動しろ。これは出来ればではなく、絶対にだ。俺も単独行動は避ける。ああ、俺とお前の組み合わせは禁止だ」


 有無を言わせない指示は別に珍しくもないけれど、絶対とまで言うのは珍しい。割と行動自体の自由とかは許してくれるのに。それに私の魔力タンクとしての役割を考えると一緒にいた方が都合はいいと思う。なんでだろう……? わからないことは聞いてみろ。そう言ってたのはこの人なので、遠慮なく聞いてみる。


「魔術師の単独行動禁止ってことですよね? 私はともかく師匠なら単独でも危険は避けられそうなのに、なんでなんですか?」

「禁術が敷かれた塔だ。人の命を吸うとはいえ、その死体が魔力を持っていることに越したことはない。魔術師を狙った罠がないとも限らん。いいか、禁術に手を出すような魔術師は、人のことなど都合のいい道具、いやペンのインク程度にしか考えていない。ないと困るから多めに用意しよう、その程度の考えでいる。わかるか?」

「……全然わかんないですけど、一人が危ないってことはすごく分かりました……」


 うーん、魔力があるに越したことがないっていうけど、それなら私って結構狙われやすいというか、格好の獲物というか。魔力が多くて得したことはあっても、こんな風に狙われることになるなら良し悪しだなぁ。


 雑貨屋に入り、買い足そうと思っていた消耗品を手に取る。……なんとなく使い潰してやるぞと呟いてみる。邪悪な魔術師になった気分だ。呆れた目で見てくる師匠には思考実験ですと言い張ってみる。それにしても、どんな罠があるのだろう? 予め防ぐことってできないのかな。前に師匠は対呪の魔術使ってたわけだし。

 

「何かそういう罠を防げるような魔術とか道具とかってないんですか?」

「あるぞ」


 そう言って棚からロープを取り上げる。


「これを腰に巻く」


 ……それって迷子防止みたいなものではないでしょうか。師匠はもっともらしくうなづく。


「ただの罠ならともかく、禁術の塔にある罠だ。魔術で対抗するにも限界がある。それはわかるだろう?」

「わかんないです。だって禁術であっても、それを回復させるのは魔術の範疇ですよね? ほら、コカトリスの石化だって、治るものだから治すまでの過程を省略しているわけで。なら禁術でなにか悪さされたとしても、魔術で対抗出来るんじゃないかって思うんですよ」


 私の意見に師匠が片眉を上げる。なんとなく面白がっている雰囲気がある。


「悪くない発想だ。お前が言っていることはある意味正しい。確かに禁術であろうと、それが完全な不可逆なもの以外ならば魔術で対抗することは可能だ。だがな、問題は禁術というものの特性だ。人の命を使うような術が、俺やお前のような魔術師程度の魔術で容易くどうにかできるかという話だ。コカトリスのように石化を禁術で起こした場合、魔術を使う間もなく石になる。それでおしまいだ」


 確かに、命がけどころじゃなく、命そのものが使われているような術を何とかできるかというと無理っぽいよね……。


「お前が今気づいたように、たとえ禁術だとしても、起きた現象が魔術で実現出来る内容であれば対抗することも出来なくはない。お前の十倍くらいの魔力を注ぎ込んだ魔術ならば、あるいは耐えることが出来るかも知れない。けどな、魔力と構成によって作り上げられた術式の価値が魔術の限界だ。どれだけ精緻な構成で魔術を編もうと、届かないものはある。禁術は命を代償とする。命以上の価値を作り出せる魔術などない。近づくことはできるかもしれないが、無理なものは無理だ」


 なるほど……。命を価値としてみる事の是非はともかく、確かにそれじゃ魔術が禁術をどうこうできないのも分かる。ただ、やはり気にはなるから、最後にもう一つだけ。


「塔を何とかするって言うなら、禁術をなんとかしないといけないってことなんですよね?」


 師匠が口を開く前に、なじみの店主からストップとの声がかかる。これ以上禁術なんて物騒な話をうちでしないでくれとのこと。全くもってそのとおりである。普通に生活するうえで全く必要ない知識だし、逆に知っているせいで危険を招くことだってある。禁術の話なんて外でするべきじゃなかった。反省反省。師弟二人して平謝りである。


 結局いつも通りの消耗品だけ買い足す。詫びも込めていつもより多めに。呆れた顔に見送られて二人で雑貨屋を出た。こういう時、私より師匠の方が反省の度合いは深くなる。まあ師匠しか知らないことだしね。でも師匠が周りの状況を忘れるくらい興が乗ったということでもあり、それが私のいい感じの質問に応えてくれたから、ということでもあるので弟子としては結構嬉しさがある。


 いつもよりニコニコとして師匠の後ろを歩く私は結構単純なのかもしれない。


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