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えっ、私の役目って魔力タンクなんですか??  作者: 朝食付き


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3-3.えっ、私の役目って最後の切り札なんですか??

 師匠が前衛の元へ駆け寄っていく。私がめそめそしていた間中ずっと戦い続けてくれたみんなには頭が上がらない。いや、元からか。

 一言二言のやり取りの後、師匠に代わって先輩が私の元まで下がってくる。


「さあ、やるわよ! いけるわね?」


 その言葉に、胸を張る。師匠命令は絶対。弟子のツケは師匠がとる! ここまでお膳立てされて引っ込んでいられない。弱気の虫が私の裾を引き続けるけど、今だけは前を向く。

 今ようやく、パーティのために役立てるのだ。ただの魔力タンクではなく、パーティの新人として、私ができることをみんなに見てもらう。

 視線がようやくみんなとそろった気がする。

 先輩と目が合う。いつも強気な表情の先輩が、うれしげに笑う。


「じゃ、任せるわ」


 私に背を向けて走り出す。私が付いてくることを一切疑わず、ゴーレムの死角を目指して走る。

 物陰一つない森と森の緩衝地帯。それでも私のそばには先輩がいる。いつだってその隣は私の安全地帯。前衛を向いたゴーレムに対し、ゴーレムの真後ろからちょっと左手側に位置取る。自ら吹き飛ばした腕はまだ再生しきっていない。いざという時に一番危険が少ないのがこの位置であると先輩は判断した。そしてゴーレムと正面切って戦う三人にもそれは伝わっている。言葉に出さずとも伝わるものはある。上位パーティというのは伊達ではなく、連携の滑らかさはまるで狼の群れのよう。


 リーダーと旦那が一歩前に出て、構成を組み始める師匠をカバーする。ここからでも見える師匠の構成は私の知らないものだ。あの人、どれだけの魔術を隠し持っているんだろうね。正直さっきの障壁だって私は知らなかったからね。あれは覚えたらすごく役に立ちそうだから私にも教えてもらいたい。まあ、でもそれはこれが終わってからの話か。


 術式に反応してとてきめんに師匠を狙いだしたゴーレムの後ろで、私も密かに構成を組み始める。師匠から教わったこの術式は、実は師匠が普段使う火の術式ではない。これも最近気が付いたばかりなのだけど、師匠だったらこんなむやみに強度のあるような構成にはしない。師匠の構成はどれだけ効率的に魔力を増幅させられるかという方向に最適化されている。対してこの術式は、私のような魔力ばかり大きい人間のために、いや、私のために作られた構成だ。私のための魔術だ。

 

 散々師匠に叩き込まれた構成を顕す。ただの火球を出すための魔術。言葉にすればどこまでも単純な効果。ただし、私の全部の魔力を注ぎ込めるほどに頑丈だ。

 師匠に教わったこの術式は三重構成になっている。一段目で火を起こし、二段目で狙いを決めて、三段目で魔力量を定める。不器用な私のために二段目と三段目をそれぞれ切り替えるだけで効果を調整できるようになっている。まずは二段目の魔術起動位置をマーカーに切り替える。普段手元から投射する火の玉を、マーカーを起点に起こすように切り替える。マーカーはすでに師匠が奴に付けている。なんて抜け目ない人だろう。雷の術式を撃つ前から万一の時は私を使うことを考えていたのだろうか。ありうるから怖い。ともあれ、師匠が作った術式だから、マーカーだって共通で使える。手元に火を起こすように、マーカーで火を起こせるように魔力路を描くための二段目だ。

 

 そして三段目。ここで流しめる魔力の上限を決める。普段は一定量で満杯になるように作られている。私はコントロールがヘッタクソなので、一気に魔力を流し込んで満杯になったら止める方式をとっているのだ。普通はそんな構成をしないで自前でコントロールするらしいけど、この三段目のお陰で私の大量の魔力でも構成が揺らがず安定させられるとのこと。普段使いのために枠を狭めている部分を切り替える。容量制限を取り払い、いくらでも入る様にする。

 まだ私だって全力で使うのは初めてなのに、師匠はゴーレムなら倒せるって思っているらしい。だけど、私は自分をいまいち信じきれない。でも師匠がそう信じてくれているっていうことを根拠にして全力を注ぐのだ。


 私が元々使っていた火の魔術は、13か所も不備のあるとんだポンコツ術式構成だった。私の覚え間違いのせいでもあるけど、普通のやり方ではそんな欠陥魔術は実現しない。実現するために大量の魔力を流し込む力業が必要である。だから、流し込むのは得意だ。どれだけの無駄な魔力を流し込み続けてきたか、あのゴーレムにはわかるまい。

 強固に編み込まれた術式に魔力を流し込み続ける。自分で言うのも何だが、アホほど入れてもまだ余裕がある。なので、限界まで注ぐ。しかしこんなに魔力を注いでも術式はびくともしない。さすが師匠の術式だ。安定感が違う。いつか私もこんな構成を組めるようになりたいものだ。


 いつ以来か覚えていないくらい、久しぶりに魔力が底をついた感覚がある。シンプルながらも複雑な、この術式が放たれる時を待っている。

 指を差す。師匠の真似をして、人差し指でゴーレムに着けられたマーカーを示す。暴れまわるゴーレムのその奥で、師匠たちが一斉に反転して逃げ出すのが見えた。ああ、なら安心だな。どうなるかはわからなかったから、避難してくれて助かる。だから、なんの遠慮もなく、力ある言葉を唱える。


 「弾けろ!」


 術式に力がみなぎる。あふれんばかりに注ぎ込まれた魔力が、術式に従い現象を現す。

 指さした場所に、マーカーを起点として火球を生み出す魔術だ。普段だったら指先から火球を飛ばす術式なんだけど、ここまで魔力を注ぎ込んだ場合には、私の危険が危ない。

 下手すると自滅しかねない。狙い撃つのもへたくそだしね。だから、師匠は2段目をマーカー指定にした場合、火球を飛ばさないようにした。火球はただそこに生まれ、弾けるだけだ。


 ゴーレムの腰の左側。そこに私の魔術が届く。ぽつんと、手のひらほどの火の玉が生まれた。ゴーレムを優しく照らし、次の瞬間に炸裂した。

 師匠の雷とはまた違う、熱を感じる閃光が森を照らす。同時に感じる風。いや、もう暴風、嵐かと。なすすべなく吹き飛ばされる私と先輩。

 ぬおぉおと女の子の出しちゃいけない悲鳴を上げて転がる私と先輩。どっちがそんな声を出したのかは秘密だ。

 何回転目かはわからないけど、ようやく顔をあげられた時にはすべて終わっていた。


 ***

 

 私もこの術式で全力を出すのは初めてだから、どうなるかはわかんなかったのだ。全身草や泥に汚れた先輩が私の首元をつかんで文句を言っている。

 爆風のせいか耳がキーンとしていて何言ってるかはよくわからないけど。それに気づいたのか先輩も肩を落とす。そして、肝心のゴーレムへと目をやる。いや、ゴーレムがいたところにだ。

 魔術の発動と同時に吹き飛ばされたせいでどうなったかはよくわかっていない。


 ほら、という感じで先輩が立ち上がって私に手を差し伸べる。やっぱり先輩は優しいなぁ! 喜んで手につかまって立ち上がる。

 とりあえずゴーレムの姿は見えないから、のこのこと歩く。すでに私の魔術発動点を確認していた師匠たちへ合流する。

 そこまで行く頃には麻痺していた耳が元に戻ってくれて、師匠たちの声も聞こえるようになった。この後に先輩の文句を聞くことになるのだけが懸念だけど。


「見てみろ。なかなかすごいぞ」


 師匠に促されて二人でそれを見る。

 すり鉢状に開いた穴。きれいに球状にえぐり取られている。いや、これは焼き尽くされているというべきか?


 まだぷすぷすと煙を吐いているが、穴はどこもかしこも真っ黒になっている。要は炭みたいになっている。あれ、ゴーレムは?

 疑問に対してリーダーが指をさす。穴の底に、何やら黒光りするものがある。


「魔石だ。さすがゴーレムのものだけあってかなりの大きさだね。あれを回収すれば依頼は完了だ」


 ああ、そうですか……。石のゴーレムが、一切合切をなくして魔石だけになっている。それがどれだけやばいことなのか、遅ればせながら私にも実感がわいてきた。

 

「ここまでの威力はちょっとヤバいな。お前さんの障壁なかったらどうなってたことやら」

「ああ、やっぱり私たちにも障壁作ってくれてたのね。ありがと。にしても、もう爆弾みたいなものね。魔術まで爆弾娘なんて、笑えないわ」


 魔術まで? それは性格もそうだっていってます?

 というか師匠が私たちにも障壁を張ってくれていたらしい。さすがに熱と風を和らげる程度のものだったらしいが、なかったら私たちはもっとひどいことになっていたのは間違いない。

 さすがの師匠もぎりぎりまで魔力を絞り出したせいかげっそりとしている。

 

「最近はかなり頼もしくなってきていたけど、これからは魔術師2枚看板になりそうだね」

「まあ威力だけならとびきりに仕上げたからな。器用さはまるでないが、そこは俺がどうとでもできる。だから長所を伸ばした。うちのパーティで足りないところだ」

「でもやりすぎじゃない? 火力が欲しかったのは認めるけど、下手すると自爆よ、これ」

「そこは俺たちがカバーすればいいってことだろうさ。コントロールは…今後の課題にしてもらいたいがなぁ」

「お前には苦労を掛けるが、今後こういう火力重視の運用もする。悪いな」

「そりゃ私になるわよね。いいわ。わかった。火力が必要なのは分かってるもの。この爆弾娘は任せなさい」


 くるりと私へ向き直って先輩が言う。


「いい? あんたは今後の私たちの火力担当よ。でも許可なく吹き飛ばさないこと。私たちの指示にちゃんと従いなさい。いいわね?」

 

 火力担当……。私の、パーティでの役割。リーダーが頷く。旦那は苦笑いで、先輩はぷりぷり怒っているけど、どこかうれしげだ。師匠は──いつも通りだ。


「さあ! その魔石をさっさと引き上げて街に帰ろう! 全身埃まみれだし、久しぶりにお湯を浴びるのもいいかもしれないね」

「あ、それ賛成! もう泥だらけでぐしゃぐしゃだもの。あんたもボロボロだし。あーあ、せっかくおニューのローブが早速埃まみれね」

「ええっ! なんじゃこりゃ!」


 慌ててローブを脱いで土埃をはたく私をみんなが笑う。

 

 それにしても火力担当かぁ……。もう少しかわいい役職名ってのはないものか。

 まあいいか。そんなことより、早く帰って洗濯をしたい。このかわいいローブがこんなに汚くなってしまって、私は悲しい。

 でもなかなか取りに行けるほど温度が下がらない。全く誰だ、こんなに熱くしたのは! 自分だから怒るに怒れないね。

 うーん、早く冷めないかな。魔石の塊を持って森へ帰るのは大変だ。私も師匠も魔力がからっけつだし、ゴーレムと正面からやりあった三人も疲れ切ってる。

 なかなか大変な帰り道になりそうだ。それでも、来た時よりは足取りが軽い。みんなも同じだと思うのは、私のうぬぼれじゃない、はずだ。


 ***


 宿に戻って、寝具にくるまりながら、とりとめのない思考が頭を巡っていく。温かい毛布に少しずつ意識が薄れていく。

 その中に一つだけ、かつてのパーティでは聞くことができなかった質問がある。

 

 ……私、役に立ってますか?


 あの時は聞けなかった。今は、たぶん聞く必要のない問いだ。

 なにせ火力担当。いざという時の、そう、切り札だ。最後にやってくる、ええと…なんだっけ?

 それが最後で、意識が落ちた。


 次の日起きた時には何一つ覚えていなかったけど、ものすごくいい目覚めだった。

 ああ、これからも私は頑張れる。窓から朝日を浴びて、新しい一日を始めよう。手始めに先輩を起こしてあげよう。

 今日は休みだから寝させろと怒られた。なんて始まりだ!



 続く



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