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えっ、私の役目って魔力タンクなんですか??  作者: 朝食付き
2章 王都編

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25.えっ、そんなにきれいな魔術があるんですか??


 背中に目が覚めるような衝撃を感じて私は目を覚ました! え、今私意識飛んでた?! 

 意識が戻った途端にまた飛びそうな圧!

 そうだ、塔の魔力を受けたところだった!! 圧に押しつぶされないように、必死で腹に力を込める。


「今どうなってます!?」

「良いから魔力を受け止めてろッ!!」


 師匠の指示! ヤバい、私が受け切れなかった分が思いっきり周りに流れていたっぽい! 背後で私と帯で繋がっているみんなが半死半生だ。慌てて魔力を自分に集める。一瞬、ただそれだけなのにもう全員がボロボロだ。あと3秒も持たない。私の身体も、みんなの身体も。


「ししょう!!」


 私が伸ばした手を師匠が強く握る。私の中にあふれかえる魔力を、その末端のわずかな魔力を師匠に流す。これを使って下さいと、注ぎ込まれる魔力の圧を利用して師匠に向ける。


 師匠が指を天に向ける。既にぼろぼろだった塔の天井が、でかい火球によって吹き飛ばされる。魔力が使われたのだ。流した魔力の空きは止めどなく溢れてくる塔からの魔力ですぐに埋まる。やばい、思ったよりも使われる量が少ないし、全然空きが出ない。師匠もっと、もっと激しいのを!!


 私も何かすべきか? 駄目だ、うかつに何かすると師匠の邪魔になる! もうここからは信じるしかないのだ。頑張れ師匠!!


 体の中に荒れ狂う魔力に私が意識を保てているのは、先輩やリーダー、旦那に騎士君、精鋭騎士が多少なりとも圧を逃がしていてくれているおかげだ。いつもとは違う、苦悶の声が背中越しに聞こえてくる。それでも、背中に触れられている3つのぬくもりが離れることはない。


 だから私も頑張れる。繋いだ手にぎゅっと力を込めて魔力を更に師匠に送る。


「これで、こうか!」


 私の送る魔力は次々と師匠の手で術式へと詰め込まれていく。私の使っていたガラクタのごとし術式、その構成が師匠の手によって美しく生まれ変わっていく。一つ一つ、似通っていながらも全てが異なる構成だ。元は私のポンコツ術式だったというのに、まるで影も形もないほど改変されている。これでもかと魔力を消費させるためにくみ上げられた、このときだけの贅沢極まりない無駄魔術!


 強引に起動した魔術によって火の玉が天へ次々飛んでいく。見た目ばかり大きくて威力はお察しの火球だ。いつの間にか夜になっていた空に、赤い火が浮かんでは消えていく。


 バクバク魔力が消費されるけれど、まだまだ足りてない。たまり続ける魔力を無理矢理に体に押し込めている。ああ、水を飲まされ続ける拷問ってあったなぁと視線がうつろになる。そのたびに先輩や旦那、リーダーが私に喝を入れてくれる。バンバン叩かれるせいで私の真っ白な背中はきっと手のひらの跡で真っ赤になってると思う! この痛みをどうぶつけてやろうか。私じゃできないから、塔への恨みを魔力に込めるようにして師匠に流す。


 別に恨み辛みに気付いたわけでもないだろうけれど、師匠が私をチラリと見た。にやりと、熾烈な笑みを浮かべている。ああ、これは終わったな。師匠の一番楽しくなったときの顔だ。渾身の魔術を思いついた時の顔。


 私は知っている。実のところ、師匠は褒められたがりなのだ。むっつりとして、俺何かやっちゃいましたか? みたいな顔を普段はしている。でも、その実、それを褒められるとかみしめるように目をつぶるのだ。普段のどうってことのない魔術を褒めても意味はない。でも、ギリギリの戦いとか、機転の利いた魔術を放ったあとは、それを褒めると少しだけ頬を緩めるのだ。


 私よりも遙かに高位の魔術師のくせに、魔術について何にも知らない私たちが褒める言葉を何より好むのだ。私はそれを知っている。先輩も、リーダーも、旦那も、みんなそれを知っている。ただ、指摘すると絶対怒るから言わないだけなのだ。


 だから褒められるチャンスが来たなら褒めてあげないと!

 だって今はその位しか私に、私たちにできることはない。


「やるんですね!? できちゃうんですね!??」

「やるんならやってくれい。さっきからずっとしんどいぞ!」

「さっさと片付けなさいよ! いい加減疲れたから!!」

「やるときは一声かけて! 何をするかは分からないけど、術名は考えておくから!」


 ん、全然褒めてないか。まあいいか、だって師匠は楽しそうに笑っているもの。


「安心しろ! まだまだかかるっ!!」


 全力でブーイングする私たちにふははと声を上げて笑い、手を正面に翳して巨大な術式を構築し始めた。私の両手を広げたよりも大きな直径の円筒だ。高さもこの広い塔の天井近くまである。まあ今は天井はぶち破られていて真っ暗な空だけが見えてるんだけど。


「師匠! 私そろそろヤバいですッ!!」

「あと5秒こらえろ!」


 構成を組むだけでは大した魔力を消費しない。本来この規模の術式なんて大概なはずなんだけど、注がれる量が圧倒的すぎて、滝の爆音とささやき声ほどの大きな差がある。師匠が謎の術式に集中すれば、自然と魔力は私にため込まれる一方になる。お腹どころか全身どこもかしこに魔力を無理矢理蓄えることになっている。それってすごく辛いことなんですけど!! でも師匠がこらえろと言うならそうしなくてはならない。だって、たった5秒で師匠はなんとかできると言ったのだ。


 目眩がする。手が震える。頭は痛いし、魔力に浸りすぎて全身の感覚がない。今私が分かるのは、握られた左手と背に当てられた3つのぬくもりだけ。一秒が長すぎて、永遠の様に思う。


 再び気を失いかけた私を引き戻したのは師匠の声とごっそりと私から引き抜かれた魔力だ。

 はっと意識を取り戻した瞬間、目の前の巨大な魔術が大きな音を立てて何かを飛ばすのを見た。


 飛んでいったのは火の魔術。


 いやいや、いくらスカスカで効率が悪いとはいえ、その規模で火の魔術が発動すれば王都が酷いことに──。


 そう思って見上げた先に、パッとまん丸くて大きな華が咲いた。 


 来るべき衝撃は一切ない。ただ、光と音だけがここに届く。華はすぐにキラキラとした光の残滓を残して消えていく。何が何やら分からない私をよそに、次の火球が放たれる。今度は何が起こっているのかが分かった。


 師匠が作ったのは魔術自体を飛ばす魔術の発射台。いわば魔術の大砲。その大砲へと私から引き出された大量の魔力が注がれていく。この構成に見覚えがある。私の魔術の帯、魔力を引き出すための構成が組み込まれているのだ。より強く、早く、多く。私の身体から猛烈な速度で魔力が引き出されていく。そしてそのことごとくが、大砲に充填されている。火球の術式に込められる。


 火球の術式はもう中身が読み取れないほど細かくくみ上げられている。もはや原型を止めていない。


 大砲が炸裂する。火球の術式を、術式を保持したままに上空高くまで打ち上げる。決して構成を崩さないように、過剰なほどの保護をかけている。もうこの時点で込められた魔力の半分以上が消費されている。

 

 残り半分は当然火球に詰め込まれている。普通に私の最大火力以上の魔力が詰め込まれた術式だ。真っ暗な空に、一筋の光が登っていき、一瞬の間を開けて華が咲く。火球が炸裂し、内部に格納された小さな火球を放出している。何十何百の火球が一斉に飛ぶ様が、空に華を咲かせていたのだ!


 火玉は次々と連鎖していく。だというのに、光と音だけでほとんど熱も衝撃も届かない。え、これどうなってるの??


 続々空に赤い華が咲く。私やみんなの目には空に煌めく赤い華だけが映っていた。


 ***


 師匠が作り出したのは、ただただ光るだけの火の魔術。魔術の術式構成技術を余すところなくふんだんに使った魔力の無駄遣いだ。しかしそれがなんとも──美しい。


 馬鹿みたいに魔力が使われる。しかし、それでも塔の魔力は絶えることがない。私の魔力容量に空きが出たと見るや、バケツをひっくり返したかのような勢いでそれ以上の魔力が入ってくる。ぐえぇと思わず声が出る。


「もっと! もっと使いなさい!! このままじゃこの子が先に潰れちゃう!!」

「もっと、消費を増やせ! なにか、余計なことを付け加えるんだッ!」

「い、色を変えよ! 次は黄色に!」


 本当に私の余裕がなくなりつつある。たぷたぷに魔力が一杯になるのも辛いが、勢いよく注がれるのはもっときつい。なんて言うか、革袋に水を入れたとき、勢いよく入れると革袋が揺れるでしょ? その揺れがとても気持ち悪くなる感じ。分かんないだろうなぁ!!


 消費量をひたすら増やすべく、師匠が旦那の無茶ぶりに答えた。空の華が赤から黄色に色を変えた。次々に大砲から放たれる火球はみるみるうちに様々な色を得ていく。赤青黄色、まるで春の花が開いたようだ。空が色とりどりに染まる。私はもう、それを見てるくらいしかできない。


「もう少し頑張れるでしょ!? 一緒に王都巡りするんだから、頑張りなさい!!」

「全力で甘やかしてやる! だからもう少し耐えてくれい!」

「リクエストも聞いてあげよう! なんでもだ!」


 やけにみんなが優しい。いや、みんなこそ魔力が使われるたびに、注がれるたびに圧がかかっているはず。だってみんな顔が真っ青だ。死にかけたって平気な顔をしているくせに、そんな顔色じゃ心配になっちゃうな。それに、あっちはもっと酷い。真っ黒な服を来ているせいで白く見えがちな師匠の顔は、既に焦点を失っている。ただ自動的に魔術を行使するだけの装置になっている。意識を保つのでやっとのはずなのに、それでも魔術が発動するたびにその魔力消費は増えている。本当に全ての魔力を消費しきってやると、一時たりとも楽をせずに頭を回し続けているのだ。


 だから私も負けていられない。少しでも師匠が楽になるように、みんなが楽になるように魔力を優しく受け止めるのだ。そう、したいのだ。


「もっと、何か言えッ!!」


 師匠がうつろな目のまま叫ぶ。余計な機能を付ければ付けるほど、魔力が必要になる。そのためのアイデアをみんなから集めるのだ。


「星みたいな大量の光!」

「色を途中で変えて!」

「滝みたいに降り注がせて!

「星みたいに光らせて!」

「私の顔を作ってくれ!」


 さすがに最後のは無理すぎたみたいで、子供が3秒で書くような単純な顔が夜空に浮かぶ。でもちゃんと顔に見えるなぁ。位置取りをはっきりと指定するためか、色や量よりも消費が増えた気がした。それを師匠が見逃すことはない。


 次に夜空に華が咲いた。王都でもよく見る白い小さな花が空に溢れる。一輪挿しの赤い花が空に広がる。黄色の花、紫の花、薄紅の花。美しいだけの、ただの魔術。師匠が知る限りの花が片っ端から空に浮かぶ。


「それ、私が思いつきたかったぁ……!」


 だってあまりにきれいな魔術なんだもの。何かコツでも掴んだのか、師匠の魔術行使はどんどんなめらかになっていく。注がれる魔力を、消費が上回っていく。


 ようやく私たちにも余裕ができてきて、深く息を吐く。


 未だ空に咲き続ける大輪の炎を見上げる。一つとして同じ形にならないその花は、私たちを飽きさせない。師匠の手元を見れば、遠目にはほとんど同じに見える構成を作り続けている。きっと近くで見ると中身は一つ一つまるで違うのだろう。そういう工夫が得意なのだ、師匠は。


「こりゃあ見物だわな」

「スカイ・フラワー、いや天命の火、空花……、難しいな」

「アンタの術式が元とは思えない出来ねぇ……」

「ここまで変わってたら私の術式とは言えないですって」


 ただ黙って空を見上げていた。


 だんだんと花の咲く間隔が長くなっていく。私に注がれる魔力は少なくなってきていて、この炎の花と大砲を動かすにも不自由するちょろちょろとささやかなものになっていた。


 ああ、じゃあもう終わりみたい。多分、次で最後かなぁ。


「師匠! 最後にとびきりのやつお願いします!!」


 師匠は答えず、ただ口角を上げて見せた。そして上がった花は私のローブと同じ薄紅色。その華やかさときたら!!


 私は心から満足した。



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